Jライブラリー

第1部 基調講演

ジンテック セミナー

山形銀行が「地域のものづくり産業競争力向上」
へ挑むプログラム=MSP
~地元のテックに光を当てる~

山形銀行 代表取締役専務 経営統括本部長 三浦 新一郎 氏

「お客さま本位の営業強化」にあえてフォーカスする意義

当行で実践しているMSPは「マニュファクチャリング・テクノロジー・インプルーブメント・サポート・プログラム」の頭文字を取ったもので、簡単にいうと「製造業の技術力向上支援を通じて、地域のものづくり産業競争力の向上を目指す」という取り組みです。現在、当行が取り組んでいる第19次長期経営計画は、長期ビジョンとして「山形の発展に“責任”を持つベストパートナーバンク」と掲げ、「銀行の収益力強化」「お客さま本位の営業強化」「地方創生の取り組み強化」という3つの重点課題をあげています。第18次長経では「銀行の収益力強化」と「地方創生」の2本柱でしたが、第19次長経では当たり前であったために明言をしていなかった「お客さま本位の営業強化」を重点分野に入れ、3本柱になりました。この追加は大変重要なポイントだったと考えています。

山形県は東北屈指のモノづくり県

山形県内の産業を産業別の付加価値額で見ると、製造業の割合は26%で全国平均の24%と比較して高いんです。山形県は農業県のようなイメージがありますが、東北各県の製造業の割合は軒並み20%以下ですので、東北屈指のモノづくり県ということがわかります。また、県内の名目GDPの推移を見ても、製造業の影響を非常に大きく受けており、山形県の地方創生のためには、製造業の産業競争力の強化が不可欠です。特に当行は山形県内の製造業や、中堅、中小企業との取引に大変強い地盤を持つ銀行ですので、モノづくり支援は当行の取引層との親和性がありました。MSPの目的は主要産業の技術力の把握、企業への技術力向上支援、そしてそれをもって中長期的な山形県内の産業競争力の向上を目指すことです。当行では2015年4月より技術評価による事業性評価戦略をスタートさせましたが、財務面のみならず技術力も正確に捉えることで事業性を見極め、より積極的な融資・コンサルティングを行っていく方針を取っています。現在4名の工業技術センター出身の技術者を技術支援アドバイザーとして招聘しており、当行オリジナルの技術評価格付けを実施しています。県内の主要産業である、電子部品産業や精密機械、自動車部品、ロボット部品、金属製品、食品製造業の主要企業を網羅していますが、希望するお客さまには技術評価の結果を工場診断リポートでフィードバックし、課題を共有することで、お客さまと共に課題解決に取り組んでいます。

企業の状況に合わせた支援を提案していく

地域企業の技術力向上にあたっては、県内の機関や大学などとも連携し、オール山形の体制で支援していかなければなりません。そこで、技術評価格付けをスタートしてから2年後の2017年2月にMSPを発足させました。仕組みは非常にシンプルで、当行で行う技術評価を元に企業経営者と課題共有。その後の技術力向上への取り組みは、サポーター機関である山形県の各機関、特に山形県工業技術センターや、山形大学、東北芸術工科大学といった機関と協力をし、最良を目指します。これまで346社の技術格付けを実施し、状況に合わせた支援を提案してきました。例えば、財務力は低いけれど技術力が高い企業には、その高い技術力を活用するための生産設備増強やビジネスマッチングにより新たな領域に挑戦していただくことで財務力を引き上げていくための支援をしています。一方、財務内容にかかわらず技術力が低い企業は、共通点として研究開発をしていない。ですので、まずは研究開発に取り組んでいただく必要があると考えています。

MSPとして取り組んでいるからこその補助金申請実績

皆さまは「技術力を向上させるための手伝いをどうやってするのか?」と感じているかもしれませんが、大切なのは研究開発に取り組んでいただくことです。中小企業は大企業のように潤沢な開発費がありません。研究開発のみに没頭できないという点についても考慮が必要です。そこで当行は技術評価や診断リポートを起点とし、ものづくり補助金などの申請支援を行いながら、ビジネスマッチングや新しい仕事に挑戦をし、研究開発に取り組むという取り組みを後押ししています。このサイクルこそが技術力向上の鍵であるとの仮設のもと日々活動し、実績もまさにそれが反映されています。技術相談はこれまで288社、578件。ビジネスマッチングは169社、212件。補助金の採択はのべ535件。活動を支える工場診断リポートの交付は204社。技術評価は455社。そして、技術支援アドバイザーの営業店との帯同訪問件数はのべ1,672件ですが、年間の帯同訪問件数は200件程度で、技術相談も150件程度まで増えてきています。『ニッキン』の記事によると、2019年ものづくり補助金の申請支援において、当行は全国認定支援機関で8位、東北では2018年に引き続き1位でした。これは、当行が単純に補助金の申請支援業務を強化しているということではなく、MSPの支援サイクルを回す活動の一部として取り組んでいるからこその実績です。

工場診断リポートは ディスカッションの土台

工場診断リポートでは、技術評価格付けや工場診断、経営者へのインタビューを通じ、内外の環境から見た課題を、解決策と共に還元しています。技術評価格付けそのものはフィードバックせず、ディスカッションの土台となる診断書として、良い点や改善すべき課題などをフィードバックしているという点が特徴です。リポートを交付したお客さまへのアンケートでは、期待を上回ったという割合が40%、期待どおりという割合が60%とおおむね良好です。「毎日見ている工場だが、なるほどと思うことがあった。自社の経営戦略に生かしたい」などの、お褒めの言葉もいただいている一方で、「ちょっと違うんじゃないかという点があった」などのご指摘もいただいています。評価はさまざまですが、私はこれでいいと思っています。このリポートを通じて、企業経営の根幹に関わる技術面について、企業経営者と営業店の支店長、若手の担当者、技術支援アドバイザーでディスカッションすることがなにより重要であるからです。それによりお互いを理解し、MSPのサポーター機関の皆さまの知見も加わることで、良いアイデアが生まれていくのです。

技術力が向上した企業のうち半数は財務内容もよくなっている

これまでに技術評価を行った346社のうち、再評価した企業66社を分析すると、88%の企業の技術力が向上しています。当然、再評価先には技術の相談、新規設備の導入などさまざまな支援をしてきました。さらにその中で技術評価の評点が大きく向上したところだけを取って見ると、その半数で財務内容も良くなっているという結果が出ています。景気の環境等もあるとは思いますが、われわれが進めている取り組みは間違っていないと感じています。技術格付けは「技術点」「絶対優位性」「特別加点」の3部構成、約50項目で評価していますが、技術評価格付けをスタートして間もなく技術格付けに物足りなさを感じ、修正した結果、支援メニューも変わりました。支援内容に大きな影響を及ぼすため、評価基準の大切さを実感しています。

専門分野のプロフェッショナルである技術支援アドバイザー

当行で現在活躍している技術支援アドバイザーはプラスチックの専門家、金属材料の権威、表面処理と電子部品の匠、そして工業技術センターで超微細加工プロジェクトを立ち上げたミスターMEMSの4名です。初代アドバイザーである久松さんからは「地域経済の中心ともいえる地方銀行という組織の中で、私たち技術屋の持つ知見が、融資やビジネスマッチングといった具体的ソリューションにつながり、山形県のものづくり企業の成長発展に大きく寄与していることが、最高の喜びだ」というコメントをいただいています。技術支援アドバイザーは定年退職後に当行にお越しをいただき、まさに大車輪の活躍をされています。その姿に、志に年齢は全く関係ないということを感じています。

MSPを軸にした人材育成

MSPに関連した人材育成プログラムとして、アドバイザーが講師になり、若手の法人担当行員向けに製造業の目利き力養成講座を行っています。若手行員が自力で技術評価、工場診断を行える能力を養成するのが目的ですが、技術評価の仕方を工場現場の実地調査の中で学ぶ現場主義の実践型研修です。この研修は毎年開催し、これまで計5回、81名の人材を育成してきました。また、技術支援アドバイザーに銀行員でも分かる技術用語集、補助金事例集を作成していただいたんですが、非常に面白いものになっていて、事業性評価や補助金申請支援に大いに役立っています。技術評価の仕組みやMSPの活動を振り返ってみると、「お客さま本位」という視点で企業の課題解決に貢献しようと動きだしたプロジェクトだからこそ、技術支援アドバイザーや優秀な若手行員の共感を生み出し、みんなのアイデアによって順回転で進化をしてきたと感じています。

事例1 自動車部品製造業 スズキハイテック

表面処理とメッキ加工を得意分野とする、自動車部品製造業のスズキハイテックの事例です。年商11億円、従業員134名。典型的な地場中小企業で、次世代事業?の柱として医療業界への参入を検討されていました。技術評価、工場診断リポートをフィードバックし、経営陣とディスカッションをした結果、県の商談会でつながりを持った大手医療メーカーとネブライザー開発に挑戦することになりました。そこで、県産業技術振興機構のコーディネーターの助言を基に、医療現場のニーズのヒアリングをし、当行で開発型補助金サポインを申請したところ採択。億単位の補助金が出ましたので、現在、数億円の設備導入に向けて引き続き支援をしています。当行がMSPメンバーを中心に開発支援メンバーを整えましたが、山形大学工学部との連携体制を取り、超音波噴霧解析の技術を活用した最適設計にご協力いただいています。当行はメインバンクではありませんでしたが、今回を契機にさまざまなお取引をいただき、実質的にメインバンク化しています。

事例2 空調給排水設備工事業 弘栄設備工業

空調給排水設備工事業の弘栄設備工業の事例です。年商67億円、従業員132名の地場の中堅企業で、建設業からロボット製造への挑戦事例です。新たな事業の柱として建物のメンテナンスを検討していましたが、老朽化した建物には配管図面がないことが多く、配管ロボットの開発ニーズを持っていました。この構想に技術支援アドバイザーが着目し、工業技術センターと連携。研究開発体制をコーディネートしました。従来であれば投資のご提案で終わるところを、開発に向けた道筋をつけた。ファーストアクションの違いが、その後の進展に大きな影響を与えました。紆余曲折ありましたが、最終的には配管を探査することで自動的に3D配管図面ができ、カメラで配管の痛み具合?を調べることができるロボットの開発に成功しました。ロボット開発の新会社、弘栄ドリームワークスの立ち上げと開発資金の支援も当行にお任せいただき、こちらもメインバンクではありませんでしたが、今回を契機に実質的にメインバンク化し、現在も非常に良好な関係を築いています。

事例3 光学設計、超微細加工技術を強みとするIMUZAK

IMUZAK(イムザック)は創業2015年、年商4,100万円、従業員5名ですから、典型的なベンチャー企業です。次世代の自動車内装部品等への技術の応用が期待されており、2019年には豊田合成が出資をしています。当社の強みを生かす事業展開として、内視鏡向けの曇らないレンズの開発を目論んでいましたが、医療業界への足がかりがなく、資金繰りにも不安がありました。創業間もない当社の技術に着目した当行の技術支援アドバイザーは、MEMS技術による開発提案を行い、プロジェクトが発足。サポイン活用の提案にあたっては県の産業技術振興機構の医療コーディネーターとも連携して現場ニーズを取り入れ、採択されました。材料開発の面でも山形大学工学部との連携支援をしています。早期事業化に向けて、当行での投資も実行。山形地域成長ファンドで、新株発行予約権付き社債を引き受けました。これからの成長が楽しみな会社です。

事例4 ニットメーカー 佐藤繊維

地場のニットメーカーである佐藤繊維は年商23億円、従業員234名。糸作りから製品の仕上げまで一貫したものづくりができ、オバマ前大統領の就任式で、ミシェル婦人が着ていた緑色のセーターが同社が開発した製品だったことで話題になりました。佐藤社長は安価な製造コストにより海外に奪われた製造業の復興を目指し、下請けではなく、自らブランドをつくっていこうとオリジナルブランドのM.&KYOKOを旗揚げ。このブランドがヒットし、衰退する繊維業界にあって輝く存在です。当社は、洗っても縮まず毛玉のできないウール、防縮性と防ピリング性を併せ持つハイブリッド繊維の開発と量産化に取り組みました。ウールは完成された繊維といわれていますが、洗濯による縮みと毛玉の発生が欠点です。従来は困難であった毛玉と縮み両方の防止加工を、環境に優しい方法で施す技術の量産に挑戦したいという技術相談から、サポートの仕組みをつくりました。2019年秋、ロープでこすれても破けないアウトドアウエアをGOLDWINと共同開発し、市販がスタート。当行は技術評価、工場診断リポートのフィードバックをベースにディスカッションをし、コーディネーター役としてサポインに応募。2017年に採択されています。現在、販路拡大のサポートもしており、MSPのサポーターである山形大学工学部、産業技術振興機構、工業技術センター、企業振興公社と役割分担をしながら進めています。

MSPは収益にどのように貢献するのか

皆さまはこの仕事が銀行の収益にどう貢献するのかを一番にお聞きになられたいんじゃないかと思いますので、MSPを起点としたサステナブルファイナンスとコンサルティングという形でこの3年間の主な案件のみをざっくりとまとめました。この3年間でものづくり補助金を活用した研究開発投資に対する融資が約42億円。工場診断が契機となった融資が55億円。合わせて237件、およそ100億円です。現在取り組み中のものを含めると、もう100億円ぐらいになります。全体で見れば大きな数字ではないと思います。しかしながら、間違いなく新たなGDPを生み出す200億円です。研究開発を通じ、新たな分野に挑戦し、GDPを生み出す貸出金こそ、地方のサステナブルファイナンスです。また、ここに金利競争はありません。ご支援をして、他の銀行から安い金利で借り入れをする経営者はまずいません。その他、MSPを通じて経営者との信頼関係が向上し、事業承継のコンサルティングの相談につながったもの、地域商社を活用した商品販売の相談などもいただいています。また、一連の支援サイクルを回転させる、ものづくりコンサルティング契約の締結により500万円のフィーをいただいた事例も出てきました。新規事業進出、研究開発、補助金の申請支援、ビジネスマッチング、ブランディングの一気通貫のコンサルティングですので、よく考えてみれば500万円は安いと思いますが、パイロット案件ということで。今後は正当な金額になっていくでしょう。銀行が行う、新しい形態のモノづくりコンサルティングではないかと感じています。

企業経営者と金融機関は対等なパートナー

企業経営者と金融機関は対等なパートナーです。借りていただいているんでも、貸してやっているんでもない。地域の産業構造の特徴を捉える専門能力のある人材を活用・育成し、取引先の課題解決を通じ、企業の業績向上と産業競争力向上に挑むことが重要です。企業には研究開発や新たな挑戦を通じ、時代の変化に適応いただく。銀行はお客さま本位を徹底し、短期的収益のみに左右されない。とはいえ、中期スパンでは貢献度に応じた収益を両立するように取り組まなければ、長続きはしません。結局は、お客さまに満足していただけるような専門コンサルティング能力を組織内にいかに蓄積できるかということだと思います。地域のGDP向上に貢献するサステナブルファイナンスとコンサルティングの融合で、企業の設備投資を促し、地域の産業力向上に当行は挑み続けていきます。行員には、真にお客さまに貢献する仕事を通じて、仕事の楽しさを理解し、銀行員として誇りを持って取り組んでもらいたい。そのためにも行員が誇りを持って取り組める仕事をつくり出さなければならないと考えています。

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