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アフターコロナ第17回:ビールから金融まで 新たな選択肢となる商品・サービスの提供

吉元利行 コラム

コロナ禍で研究会や勉強会などの後の飲み会がなくなった。感染者数が急速に減少し2桁になった12月でも、飲食店の利用人数などに条件があり、歓送迎会、忘年会はほとんどが自粛になった。「飲みニケーション」にそっぽを向く若者も多いと聞くが、本音の情報交換や非公式情報の交換など、その効用が実感できる飲み会は、ありではないかと思われる。

筆者が参加する勉強会では、終了後に講師を交え、テーマ外の話題も含めて情報交換することが通例であり、適度なアルコールは親密感が増し、深堀り議論に大いに役立っている。もちろんアルコールは、飲みすぎに注意しなければならず、人によって許容量が異なる。そこに、新しい発想のアルコール飲料が売り出され、好評を博しているようだ。

新商品開拓が続いたビール市場

1994 年にビール製造免許の最低製造数量の条件が大幅に引き下げられ、小規模なブルワリーでもビール製造に参入できるようになり、様々な「地ビール」を味わうことができるようになった。また同じ年に、酒税の安い発泡酒規格のビール風飲料が発売された。これにより、製法や風味などにこだわったちょっとお高い「地ビール」、その反対の手ごろな価格のビールテイストのリキュール類の提供が始まり、新しい市場を開拓するとともに、一般ビールのシェアを侵食してきた。大手ビールメーカーは、プレミアムなビールを提供すると同時に、ビールの定義に入らない「発泡酒」「第三のビール」といった格安商品を提供し、ビール愛好者を対象としたビール市場でのシェアの維持を図るようになった。これらの動きは「多品種」「付加価値」「酒税の格差」を利用した取り組みであり、市場における自社シェア拡張のための「カイゼン」の取り組みであったといえよう。

また、一方で大手メーカーはノンアルコールビールを開発し、様々な理由でお酒が飲めない(飲んではいけない)人向けに、提供されるようになった。筆者は30数年前、退院後のリハビリ期間に国産と外国製のノンアルコールビールをしばらく飲んだ経験がある。ノンアルコールビールは病気や健康問題、運転などお酒を飲むことができないときの代用品として位置づけられるが、どうしても物足りなさが残り、お酒のように大量に飲むことはなかった。

新たな市場に向けた低アルコールビール

これに対し、昨年発売されたアサヒビール「ビアリー」という低アルコールビールを飲んでみると満足感があり、かつ、一本を超えて飲むことができる。「左党」には物足りないようなアルコール度数(0.5%)であるにもかかわらず、お酒であるから、満足感を感じるのではないか。そうであれば、低アルコールビールは飲みたいけれど控えていたような場面で、そのニーズに応えるとともに、お酒に弱い人にも提供できるなど、新たな需要を開拓するように思う。

例えば、日本ではあまり開拓されていない「ランチビール」市場がある。ランチにビールを飲むのは、ご法度な会社がほとんどと思われるが、リモートワークのときには、ランチの内容次第でビールを飲む人もいるだろう。自宅なら、上司にチェックされることなく、においはテレビ会議では伝わらないからだ。ただ、顔を赤らめてオンライン会議に出て飲酒が露見したり、飲みすぎて効率が落ちたりするのは具合が悪い。

しかし、アルコール度数0.5%の350ccのビールなら、一般のビール(アルコール度数5%)の35cc相当(アルコール1.4g)に過ぎないから、2本飲んでも問題なさそうである。また、自家用車でゴルフ場に出かけ、ハーフタイムでのランチに低アルコールビールを飲んでも、午後のプレーに影響なく、飲酒運転にもならない。飲みすぎが懸念されるZoom飲みも、長時間続く場合は、低アルコール飲料に切り替えることが考えられる。

このように低アルコールビールは、「ビールを飲むのをできるだけ控える」もしくは「少しならお酒が飲める」時間や場所における「広義のビール市場」を創造する視点に立った商品開発のように思われる。すなわち、「お酒を飲む」か「お酒を飲まない」の二者択一ではなく、「少しだけ飲む」という第三の選択肢を提供するものであるといえよう。

サービスの改良の視点

現在当たり前に使われている商品の中にも、従来商品の課題を乗り越えて、新しい選択肢を提供し、顧客の細分化したニーズに応える商品が数多く存在する。有名なところではバターだ。バターは、旨味や風味、コクに優れ、昔から多用されていた。しかし、バターは高価なうえ、塩分を多く含み、飽和脂肪酸が多いため心筋梗塞リスクが高いといわれている。そこで、価格が安く、簡単にパンに塗れ、あっさりとした味わいのマーガリンが開発された。それにより価格や体調などにより、コクかあっさりか、動物性の飽和脂肪酸か植物性の人工的な脂肪なのか、二者択一になっていた。ところが最近は、新たな選択肢としてバージンオリーブオイルが提供されるようになり、健康志向の人やグルメな人を中心に第三の選択肢として広がりを見せている。

サービスの分野もそうだ。日本に宅配便というサービスができてまだ50年にもならない。それまで荷物は「駅留め」「局留め」といって、駅や郵便局まで荷物を引き取りに行かねばならなかった。いまは自宅まで時間帯を決めて配達されるので、非常に便利になった。

しかし、宅配便を受け取るには、自宅に居続ける必要がある。また、仕事や体調などにより、自宅にいても受け取りに出られないときがあるなどの問題があった。

(中川先生のJライブラリー|第24回:「配達は住所から人へ」 (jintec.com)参照)そこで、宅配BOXの利用・コンビニへの配達という新しい受取方法が提供されるようになり、留守がちの家庭の問題が解決した。

ところがコロナ禍により、人との接触を避ける必要があるとの新たな問題が生じた。宅配BOXの数には限界があり、コンビニ迄受け取りに行くことが難しい状況下において、玄関に配達物を置く「置き配」なる第三の選択肢が生まれた。置き配は、多数の荷物を配達する配達員に接触しない面でコロナ禍では有効であり、瞬く間に主要な受け取り方法となった。

しかし、「置き配」も長時間放置すると盗難リスクが発生する。自宅にいるときでも、授乳中や子供を寝かしつけたときに配達されると困る人もいる。そこで、現在は通常配達と置き配を何度でもスマホで選べるEC事業者向け配送サービス「EAZY」をヤマト運輸が導入している。また、マイカーのトランクを配達場所に頼み、配員がスマホを使ってカギを開け、荷物を入れて写真を撮って配達完了を知らせるサービスも始まっている。

これらのサービスは、荷物の送り主と受取人が異なるという前提で組み立てられていた宅配サービスが、EC通販のように、実質的な発送人と受取人が同一人であるという前提に置き換わった新しいサービスといえよう。前回の中川先生の第24回「配達は住所から人へ」記載のように、サービスが、事業者視線のサービスから、サービス受取側の事情に基づく選択にゆだねて提供されることが、重要と考えられる。

金融サービスでの新たな選択肢の提供

金融サービスも進化し、インターネット取引のように営業時間外でもサービス提供が受けられるようになった。支店や営業所を訪問したり、電話をしたりするなど、提供者と受取者が時間を共有する必要がなくなったのは大きい。しかし、サービスの中身の選択肢はまだ不足しているように感じる。例えば、住宅ローンやクレジットカードなどの支払いの時期や方法は、金融機関が指定する中から選択しなければならないが、これを利用顧客の都合により、自由に変更できるサービスが考えられないだろうか。クレジットカードは、最大55日間待ってもらうサービスを提供するが、1回払いからリボルビング払いに変更できるサービス(いわゆる「あとリボ」)も提供している。これに追加する新たな選択肢として、支払期限前に収入があったときやリボルビング払いをやめたいときに簡単に支払い期間を短縮したり、支払額を変更できるサービスを推進することが考えられる。

また、住宅ローンでは、一定期間の固定金利と短期変動金利のいずれかを選択する。しかし、借入金を固定金利部分と変動金利部分に分割して利用できたり、その割合を変更したり、固定金利から変動金利に変更したりできるなどの選択肢を提供することが考えられる。

今までできなかった選択肢を顧客に提供する。これが、DXへの取り組みの一歩でもあるのではないか。

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