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アフターコロナ第13回:BNPL市場の新しい動き

吉元利行 コラム

コロナ禍において、ネット決済はもちろん対面取引でも非接触決済が好まれ、スマートフォンでの〇〇PayといったQRコード決済の前払いでの即時決済が利用されている。後払い決済では、クレジットカードによる非接触ICカード(タッチ決済など)の利用が拡大している。これらの動きに加えて、本連載第6回と第7回で紹介した短期後払い決済であるBNPLもクレジットカード非保有者を中心に、若年層や女性利用者の利用が拡大しているようだ。

このような中、BNPLをめぐって、最近相次いでビッグニュースが飛び込んできた。

Jライブラリー|アフターコロナ第6回:コロナ禍で増えたネット取引と後払い決済サービス(1) (jintec.com)

Jライブラリー|アフターコロナ第7回:コロナ禍で増えたネット取引と後払い決済サービス(2) (jintec.com)

AfterPayをSquareが買収

一つが、今年8月初めに発表された、オーストラリアのトップBNPL業者After Pay(アフターペイ)をアメリカの決済事業者Square(スクウェア)が約290億ドル(約3兆1900億円)で買収するというものだ。Squareは、ガラス工芸家のジム・マッケルビーが自分の作品を販売する際、クレジットカードでの支払いを受け付けられず、販売機会を逃したことをきっかけに、Twitterの共同創業者であるジャック・ドーシーとともに、2009年に創業。Square Registerというアプリケーションをダウンロードしたスマートフォンやタブレットでカード決済処理ができる決済サービスを開始した(専用端末機を使用しない)。日本でもスマートフォンやタブレット端末にトングルとよばれるクレジットカードやデビットカードのデータ読み取り機を装着して、決済代行業務に進出し、現在多くの決済代行会社(PSP:Payment Service Provider)のビジネスモデルの先鞭をつけた企業だ。

一方、After Payは、2015年にオーストラリアのメルボルンで創業した後払いサービス企業。オーストラリア、ニュージーランド、アメリカ、イギリスで事業を展開しており、加盟店は10万店、登録者は1600万人、2019年12月期のアクティブカスタマーは730万人。オーストラリアにおいて Mastercardとタイアップして金利ゼロの分割払いプランを提供していた。BNPL取引では、小売店に平均3.8%の手数料を課しており、期日までに支払わないと手数料が発生する。Squareはアメリカなどで提供する送金アプリ「Cash App」にBNPLサービスを統合してより利便性の高いサービスを提供していくとみられている。

PaidyをPayPalが買収

日本では、後払い決済サービスをなどを営むPaidyが、アメリカの決済代行業者で日本でも資金移動業などを営むペイパル・ホールディングスによって、27億ドル(約3000億円)で買収されることが2021年9月に公表された。Paidyは、2014年から消費者がネット通販の買い物でメールアドレスと電話番号を入力すると自社個人データと購入データなどから瞬時に与信判断を行い、クレジットカードを使わずに最大30万円の枠内で買い物ができる後払いサービスを提供している。消費者は原則翌月10日までにコンビニエンスストアで支払う。70万店以上で約600万人が利用する。最近では、包括信用購入あっせんの登録を行い、2020年10月から3回払い後払いサービスを分割手数料無料(支払いが口座振替・銀行振込の場合のみ)で開始している。

ペイパル・ホールディングスは、1998年にカリフォルニアでピーター・ティールとイーロン・マスク、マックス・レヴチンにより設立され、決済サービスPayPalを提供する。(今年9月に職業宇宙飛行士を含まない初の宇宙滞在飛行を行ったスペースXを運営するX.comはイーロン・マスクがPayPal売却資金などをもとに創業している。)

PayPalサービスでは、デビットカード、クレジットカード、銀行口座からの振替により、最終決済を行う。当初はネット決済だけであったが、現在は対面決済において、スマホを利用しての決済が可能であり、PayPalアカウント保有者同士での資金移動ができる。日本を含め、世界で4億人以上のユーザーが利用する。また、Squareの「Cash App」と競合する送金アプリ「Venmo」をアメリカで提供している。

Paidyは、他のBLPL業者と異なり、分割払いを開始したほか、国内でAmazonと提携している。PayPalは、日本の稼働口座数が430万にとどまっており、以前から強みを持つ越境電子商取引(EC)決済に新たなサービスを加え、まだまだ伸びしろのある日本でのユーザー事業基盤を強化する狙いで、ユーザー600万人を有する成長途上のPaidyを買収したようだ。

金融サービスの地殻変動の可能性

アメリカのGoogleも、日本で送金アプリを手がけるpring(プリン)を買収することを7月に発表し、10月に完了した。プリンは、みずほ銀行のJ-coin Payに送金システムを提供するほか、銀行口座を紐付けてアプリに入金できたり手数料無料で送金できたりし、さらに、プリンのアカウントで受け取ったお金を銀行口座に戻したり、提携先のセブン銀行のATMから出金したりできる仕組みを持っている。

Squareは決済サービスから、従業員の給与支払い、顧客管理など経営支援につながるサービスへと拡大し、決済サービスを利用する事業者向け融資を展開している。売り上げデータを基に借入可能額を自動ではじき出し、最短翌日に融資を受けられ、返済額も売り上げに連動して決まるという事業者の取引実態に応じた利便性が高いサービスを提供している。Paypalも、ビジネスアカウントで仕入れ資金や経費の支払いに対応するなど、消費者だけでなく、事業者向けのサービスを拡大している。このように、SquareやPayPalは、決済・送金といったサービスから、銀行口座に変わることを目指しているようだ。

一方、Amazon、Facebook、Apple、Googleは、クレジットカードを発行したり、BNPLなどの決済を組込むことで決済市場に進出している。アメリカの決済関連企業は、現金決済が多数を占める日本のリテール取引は、将来性のある魅力的な市場であると考えていると思われ、矢野経済研究所の推定によれば、2020年度のBNPL市場は8820億円。これが4年後の24年度には、2倍以上の1兆8800億円にまで膨れ上がる見込みという。銀行間手数料が引き下げられたとはいえ、銀行の振込手数料がまだまだ高い日本で、VenmoとCash Appといった送金アプリが利用できるようになれば、請求書の発行サービスに、資金管理と仕入れ資金等の融資を組み合わせたサービスが幅広く提供されることになろう。

さらに、海外の有力企業が国内FinTech企業と提携・買収することで、国内FinTech企業の弱みであった資金調達力が著しく改善することも、大きな変化につながる。

QRコード決済市場では、親企業などの豊富な資金量を武器に、大型キャンペーンや経済産業省の消費税還元事業などにより、キャッシュレス決済市場で一定のシェアを獲得したが、巨大な海外資本が投入されれば、今後後払い分野や個人間決済を中心に、大きな地殻変動が起きる可能性がある。

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