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アフターコロナ第12回:非接触取引を悪用した詐欺に注意

吉元利行 コラム

新型コロナウィルスの広がりにより、かつてないスピードで非接触の取引が拡大している。若年層向けのサービスはもちろん、中高年齢層向けにも非接触取引が増え、人と対面しないままでサービスを提供したり・されたりすることに、違和感がなくなりつつある。しかし、このような環境が不正な取引や犯罪に利用されるケースが散発している。中高年齢層だけではなく、若年層や事業者においても発生しているので注意したい。

インターネットを使った典型的詐欺

インターネットを利用した不正事案に、外国にいる自称政治家や富豪等(その家族等)から、高額資産の提供と引き換えに旅費や必要経費名目での送金を依頼される、という詐欺がある(この手の詐欺はインターネットメールの初期から現在も続いていると言われている)。最近は、SNSなどで知り合った外国人が恋愛感情などを利用し、渡航費用、治療費、損害賠償費用や弁護士費用の立替金などの名目で現金を振り込ませる「国際ロマンス詐欺」などといった手口もある。国際ロマンス詐欺の被害者は50歳以上の女性が多いが、若年者も含まれるという。

また、男女問わず騙される例が多いのが、チャットやメールでのやり取りを通じて多額の費用を払わされる、出会い系サイト(実際は「出会えないサイト」とよぶべきだが)での詐欺である。国際ロマンス詐欺も、出会い系サイトを利用した詐欺の場合も、実際に会おうとする前に、何らかの事故が発生し、会うことができなくなることが定番のシナリオである。

最近の新しいタイプの詐欺

最近の事例では、被害者との現金や品物の受け取りをする“直接接触者”の役割を他人に行わせるようなケースも多い。ネットを利用し、業務の委託やアルバイトの募集という形で集められるが、短期間での割のいい報酬提示につられた結果、詐欺の手助けをさせられる。オレオレ詐欺の「受け子」が典型である。この場合、違法取引の共犯として逮捕され、実名が報道されたり、被害者などから損害賠償などの請求を受けたりして、大きな痛手を負うこともある。相場よりもやや割高な報酬につられ、あまり疑問を持たず、依頼主の確認を怠ったことの代償は大きい。            

非接触で利便性の高いサービスを提供・享受できることは、サービスの提供者、利用者の双方にとって効率的であるが、正当な業務であること、取引の相手を確実に確認することは、非接触だからこそ最低限必要である。もし確認できなければ、取引に入らないことだ。

小遣い稼ぎのつもりが負債を抱えるレンタル副業

最近では「自動車を購入すれば、レンタル等の収入を得られる」といった話に騙される例が多い。被害者が多く、マスコミで広く報道された例では、高級自動車を購入して業者に預けると車を購入できない客にレンタルするので、ローンを組んでも、安定的に利益を配当できるという投資話である。購入する自動車を見ないまま、業者の指定する自動車のローンを組むことも行われたようだ。しかし、自動車を業者に預けたものの、数年もたたず支払いが滞り、事業者は破産。ローンの負債が残って問題になっている。

また、「自動車購入向けのカーローンで金融機関から融資を受け、その融資金を投資家集団に預けると、返済相当額を毎月の配当金から支払うことができ、完済後も配当をうけることができる」とLINEで知人から勧められ、複数の金融機関(信用金庫やインターネット銀行など)から融資を受けた事例もある。投資会社を名乗る会社から借用書と返済内容を記載した書面の交付を受けたが、ほとんど返済されず、銀行に対する負債が残ってしまった事例もある。

知人に騙されるケースも多い

クレジット会社のオートローンを利用した架空簿投資話に騙される例も多発している。例えば、以下①~③のような事例では、いずれも、知人の言葉を信じた契約者にローンの支払い責任が生じてしまっている。

① 高校時代の友人からの、「車を分割払いで購入して他人にリースすれば、代金を支払うことなく手数料を受取れるし、1年後は車を買い取る」との勧誘を信じて、自動車現物を確認することなく、クレジット契約書に署名捺印し、実印と印鑑証明書1通を同人に交付して提携ローン契約を締結した。さらに、クレジット会社の確認の電話に対しても、自動車を確認したという虚偽回答した事例(東京地判平30.4.17。2018WLJPCA04178006)。

② 友人から紹介された者から、「自動車ローンを組んで自動車を購入して1年後に譲渡してほしい、その間ローンの返済資金等の負担をせず、無料で自動車を使用することができる」と勧められ、提携ローンの契約を行った。契約確認の電話に肯定的応答するだけでなく、自分で使用するなどの虚偽回答した事例(東京地判平30.5.30。2018WLJPCA05308020)

③ 知人から、「ローンを利用して販売店から中古バイクを購入してレンタルすれば、対価としてレンタル料(ローンの分割払金+中古車購入代金の1%)の支払を受けとることができる」との勧誘を受けてローン契約を締結した事例(東京地判平31・3・13。2019WLJPCA03138011)

3事案とも、購入に際し販売店と接触せず、ローン会社からの自動車購入意思の確認にも、知人等の指示に従い、事実に反して自動車を購入した旨を積極的に回答しているため、多額のローン債務の支払い義務だけを負担することになった(自動車を受け取ることなく、また約束された金銭をほとんど受領することがないにもかかわらず、である)。

カーシェアを利用した自動車の転売の片棒に利用される危険も

個人間カーシェアの仕組みを利用して高級車を借り受け、実際は借りるのではなく、勝手に買取業者に売却するという事例もある。これは、あらかじめ高額で売却できそうな自動車を個人間カーシェアサービスのサイトで確認し、取得した車のデータをもとに、買取業者と売却の話を進め、商談成立後にSNSを利用して車の輸送アルバイトを雇って所有者の車を買取業者まで運ばせる手口で、カーシェアしたその日に売却を完了するというもの。

 この場合の被害者は、アルバイト料ももらえず、犯罪に加担したアルバイトと、盗難車を購入して、購入者に車を返却しなければならない買取業者である。上記の方法では、自動車を貸し出す個人が会うのは事情を知らない運び屋のアルバイトで、買主も運び屋としか会わず、本当の不正行為者は、両者に一切姿を見せいていない。

この方法が成功するポイントは2つある。1つは、車の個人間カーシェアの仕組みにおいて本人確認が簡単にしかなされないこと(他人に成りすましての利用者登録が可能)。もう1つは、買取代金を受け取る銀行口座を不正に手に入れていることである。

リスクに応じた本人確認が必要

 金融機関は、犯罪収益移転防止法に基づいて口座の開設者の確認等を行っており、口座の譲渡は禁止され、譲渡した場合は詐欺等の刑法事犯として罰せられる。しかし、実際には外国人留学生が帰国時に預金口座をインターネット経由で売却したり、転売目的で預金口座を開設する輩がいたりする。偽造運転免許証を用いて銀行口座を開設する不正も存在する。  本人確認資料だけ、携帯電話番号登録だけ、銀行口座の有無だけ、クレジットカードの保有有無だけを信頼することは非常に危険だ。犯罪収益移転防止法などの法律による本人確認義務のある金融機関以外も、本人認証には多要素認証が必要になっている。非接触サービスにおける詐欺や不正取引を防ぐには、本人確認資料の偽造の可能性や銀行口座やクレジット番号が本当に本人のものなのか疑うなど、、不正の可能性を考え、要求したデータが一致するか、(携帯)電話番号などは有効か、登録住所と確認資料が一致するかなど、事業や取引の種類、取引の金額などに応じたリスクベースの認証を実施する必要があろう。

※本内容の引用・転載を禁止します。

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