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アフターコロナ第7回:コロナ禍で増えたネット取引と後払い決済サービス(2)

吉元利行 コラム

クレジットカードを利用しない代金回収方法として、世界で急成長を遂げているBNPL企業。BNPL企業は、金融機関やクレジット会社が提供する後払いサービスとは異なる、マネーインタラクティブなデジタル時代に対応した分割払いプランを提供し、コロナ禍で非接触ECの拡大を背景に、成長を続けている。世界のBNPLサービスは、様々なタイプがあり、事業活動を行う国や地域の法規制の違い、銀行のクレジットカード業務の展開状況とそのサービス内容、金利に対する文化の違いなどを反映して、様々な形態の「支払いを待ってあげるサービス」を提供している。また、銀行とも提携して新たなサービスを生み出している。

今回は、BNPLのパイオニアと呼ばれるスウェーデンのユニコーン企業 Klarna(クラーナ)とBNPL企業が多数参入しているオーストラリアを取り上げ、その事業内容と金融機関等との連携など新しい動きを紹介したい。

スウェーデンのユニコーン企業 Klarna

海外の通信販売では、クレジットカードで翌月以降か、デビットカードで即時決済されることが多い。したがって、すぐには決済できないが当月中に後払いしたい人や銀行口座やクレジットカードを保有していない人は、利用が難しい。この点に着目したのが、2005年にスウェーデンで創業されたKlarnaである。Klarnaは、購入代金を14日以内に後払いするサービスと購入時に代金の4分の1を支払い2週間ごとに4分の1を支払う「6週間での4分割」サービスを始めた。

後払いにクレジットカードを使うと、リボルビング払い手数料がかかるし、デビットカードの支払いでは、商品が届く前に銀行口座から代金が引き落とされる点に、不満を持つ人がいる。そこでKlarnaは、ネットで商品等の購入申し込み後に、電話番号とメールアドレスの入力だけで後払いが選択でき、しかもこれを手数料無料で実施したので、カード番号等の情報入力を面倒に感じたり、情報漏えいを懸念する人にも歓迎され、コンバージョン率(購入率)の引き上げにも寄与する。

Klarnaのビジネススキームは、①顧客がECサイトで商品を購入し、決済画面でBNPLを選択し、メールアドレスと郵便番号を入力する。 ② 顧客情報をもとにKlarnaが即時に与信審査を行い、承認後、 KlarnaがEC業者に代金を即時に支払う。 ③ 顧客はKlarnaからの請求に基づき、顧客が選択した支払方法により利用代金を支払う。という単純なものだ。

2017年には、スウェーデンで銀行免許を取得し、VISAと提携して、EUでデビットカードを発行するほか、6回から36回分割払いを手数料付きでも提供している。毎回の支払いに、デビットカード払い、クレジットカード払いが利用できるので、Klarnaの支払方法と支払手段を組み合わせることで、顧客は自分の資金状況に応じた支払方法を自分で作り出すことができる。6回以上の支払いを除けば、手数料は不要なため、支払手段を組み合わせてうまく使うことで分割払いでも、クレジットカードのような手数料の支払いを免れることができる。

このような販売店と顧客への利便性から、Klarna は、2020年末時点でECショップと実店舗を合わせて、20万社を超える世界の小売業が活用し、世界17カ国で約9,000万人の利用者数を誇っている。

多数のBNPL業者が存在するオーストラリア

オーストラリアのネット通販でも、商品をカートに入れた後の支払画面で申込ができ、簡単な審査で後払いできることから、コンバージョン率を高め「かご落ち」を防ぐ効果があり、BNPLが活用されている。加盟店手数料がクレジットカードより高い約4%*に設定されているものの、顧客手数料を無料としているため、若者を中心に利用が拡大しており、afterpay(アフターペイ)やZip(ジップ)といった上場BNPL企業のほか、Klarnaやアメリカのaffirm(アファーム)、Splitit(スプリティット)、Sezzle(セズル)、ニュージーランドのLaybuy(レイバイ)などの海外企業が取り組む。また、地場のLatitude(ラチチュード)、flexigroup(フレキシグループ)、openpay(オープンペイ)といった国内のBNPL企業が多数事業を行っており、米決済サービス大手PayPal(ペイパル)も「Pay in 4」と呼ばれる6週間4回払いで今年6月にオーストラリアに進出する。

afterpayは、2014年設立の代表的なBNPL企業で、2016年オーストラリア証券取引所(ASX)に上場。米国、カナダ、英国(clearpayとして事業)、ニュージーランドにも事業展開し、2020年末で利用者数は1,000万人を超え、国内アクティブユーザーは約340万人となっている。afterpayには2020年5月、中国のテンセントが株式5%を出資しており、アリババの出資を受けているKlarnaと世界で覇権を争う関係にある。

また、Zipは2013年設立。1,000豪ドルまでの少額利用向けサービス「Zip Pay」、最大3万豪ドルの高額決済が可能な「Zip Money」を提供。2015年、ASXに上場。英国、ニュージーランドで事業するなど、利用者数は250万人となっている。  

* afterpayは、小売価格に4%+0.3豪ドルを加盟店手数料として設定。

BNPLの利用範囲の拡大と金融機関

このように、BNPLサービスが浸透する一方で、BNPL事業者と銀行や国際ブランドとの提携も進んでいる。afterpayは、アメリカでAppleの「ApplePay」やGoogleの「GooglePay」と提携し、カード会社の決済端末と乗り合いをし、加盟店を効率的に拡大している。今後、オーストラリア、ニュージーランド 、イギリスでも採用される見込みである。ZipもAppleやGoogleと提携し、Zipのアカウントとリンクした仮想ビザカードを両社のデジタルウォレットに登録でき、実店舗でZipを利用した非接触での決済が可能となっている。Sezzleは、国際ブランドDiscover、 flexigroupは、Mastercardと連携し、DiscoverやMastercard加盟店での買い物の際、スマホアプリを利用して、2週間後の支払いができるようにしている。これらの提携により、BNPL業者は、新たに加盟店の開拓コストをかけずに、実店舗でも利用が可能になりつつある。

また、銀行との提携も進んでいる。afterpayは、豪中堅のウエストパック銀行と提携して、BaaS(Banking as a Service)プラットフォームを利用した預金口座アプリ「アフターペイ・マネー」を提供する。利用者はウエストパック銀行経由で給与を受け取り、アプリの口座に連携して利用ができる。afterpayは、キャッシュフロー管理ツールの提供や資金計画支援などのデジタルサービスの提供をも行う。銀行は、afterpayの顧客基盤である若者世代の顧客獲得が見込める。

BNPL企業のこれらの動きに対し、豪大手銀行ナショナル・オーストラリア銀行(NAB)は、世界で初めて無利子のクレジットカード「ストレートアップ」をVISAと提携して発行し、対抗する。後払いに利子が付与されない代わりに、月額手数料(最高20豪ドル/約1,600円)を徴求し、限度額(最高1,000豪ドル)の範囲内で利用でき、毎月一定額を口座に入金しておけばよく、若者世代を取り込もうとしている。

また、豪大手コモンウェルス銀行(CBA)は、2019年Klarnaに4億6,000万米ドルを出資して提携し、銀行としてBNPLサービスを開始している。同行は、100~1,000豪ドル(約8,000~80,000円)の範囲内の購入について、隔週4回払いが無利子で利用できる。しかも、加盟店手数料を1%を少し上回る程度に設定しており、既存BNPL業者と提携する小売店を獲得しようとしている。

海外のBNPLの我が国への示唆

オーストラリアのBNPLでは、利用可能額が最大30,000豪ドル(約231万円)に及ぶものもある。例えば、Brighte(ブライト)のように、太陽光発電設備の設置など、住宅改修分野の後払いに特化する事業者、住宅改修、教育、歯科、健康・美容などの分野を扱うPayright(ペイライト)、自動車や住宅改修、医療関連など、比較的高額な商品の購入を対象とするOpenpay(オープンペイ)といったBNPL企業もある。これらの専門分野に特化したBNPL事業は、日本では自動車、家電商品、省エネ機器、リフォームなどの代金の分割払いができる、信販会社等の「個別信用購入あっせん」(オートローン、ショッピングクレジットやリフォームローンなど)に該当するといえる。わが国で個別信用購入あっせんは、定型的条件による商品の販売に利用され、長期分割返済の提供により、販売支援を担ってきた。耐久消費財の販売方法も、コロナ禍をきっかけに、訪問販売や店舗・ショールームでの顧客説明を伴う販売から、自社サイトに誘導して各ページにおける豊富で丁寧な商品説明と臨場感のある商品画像や映像の提供によるネット販売に移行しつつある。次回紹介するわが国のBNPL事業は、少額短期の取り扱いが多いが、典型的な耐久商品消費財のネット販売もBNPLの親和性が高いことがオーストラリアの事業実態からうかがえる。個別信用購入あっせんをもともと取り扱う信販会社や家電系・自動車系の信販会社にとっても、コロナ禍以降、ECにおける後払い決済の拡大が期待される。

海外のように簡便な手続きで高額で長期の分割払いを実施するには、個別購入あっせんの支払可能見込額調査義務や信用情報機関の利用など、割賦販売法上クリアすべき課題は多いが、カードを使用しない包括信用購入あっせんの活用など、既存のスキームにとらわれない、新しい取り組みが期待される。

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