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第38回:「ChatGPTの話」

中川郁夫 コラム

<1. はじめに>

「すみません!寝坊してしまって遅れそうです。申し訳ありませんが、もう少しだけ待っていてくれませんか?今日のランチを楽しみにしていたので、必ず行きます。もうしばらくお待ちいただけると助かります。」

ChatGPT、恐るべし。上記の文章は、注目を集めている “ChatGPT” に作ってもらった。友達とランチの待ち合わせをしていること、寝坊して遅れそうであること、連絡手段がLINEであることを伝えて、メッセージ案を作ってもらう。自然な文章で、そのままコピペして使える。というか、この文章を受け取ったら、これが機械的に生成されたものとは気づかないかもしれない。

 (*) https://chat.openai.com/chat

ChatGPTは おちゃめ (?) なところもある。上記文章を生成してもらった際、次の文が書き添えられていた。そうですよね。ごめんなさい。気をつけます(笑)。

「このように、遅れが予想される旨と、今日のランチを楽しみにしている旨を伝え、友達に待っていてもらうようにお願いすると良いでしょう。ただし、友達に迷惑をかけないように、できるだけ早く向かうよう心がけましょう。」

ジェネレーティブAI(Generative AI) を取り巻く動きは注目に値する。本稿では、さまざまな情報やデータを生成してくれる AI(人工知能)を総称してジェネレーティブAIと呼ぶ。中でも、昨年の11月に登場したChatGPTは強烈だ。人間同士が会話をしているかのように自然言語を扱い、膨大な知識をベースに答えてくれる。未来感が溢れる体験に、まさに今、多くの人が魅了されているといっても良いだろう。

実は、本稿執筆中に GPT-4 が発表された。難しいことは本文にまわすとして(笑)、簡単にいうと「ChatGPTの裏で動いている人工知能が賢くなる」のだが、その進化が劇的すぎた。本稿のタイトルが「知徳報恩(4)」の予定だったのが、「ChatGPTの話」に急遽変更になるほど衝撃的だった、と言えばインパクトの大きさが伝わるだろうか(汗;)。

ということで、

今回はホットニュースをお届けするために、急遽テーマを変更して、ChatGPTとそれを取り巻く話題について、さらに、それが(本連載のメインテーマである)「匿名市場から顕名市場へのシフト」にどのように影響するか、を考えてみたい。

<2. ChatGPTについて>

ChatGPTは2022年11月末に登場した。自然言語処理の研究開発を行うOpenAI社が提供するサービスの一つ。同社が開発する GPT(Generative Pre-trained Transformer)と呼ばれる言語処理モデルをチャットインターフェースから使えるようにしたものである。見たままだが「チャット ジー ピー ティー」と呼ばれることが多いようだ。

ChatGPTは大きな話題を呼んだ。登場から2ヶ月で1億人のアクティブユーザーを獲得した。同数のユーザー数を獲得するまで、Instagramで2年半、TikTokで9ヶ月かかったことを考えると、ChatGPTの注目の高さがわかるだろう。

ChatGPTは、自然な文体で会話できることを特徴とする。自然言語処理に関する研究の歴史は長いが、ここまで自然に、かつ汎用的なテーマで会話ができるようになるには、まだまだ時間がかかると言われてきた。ChatGPTの登場は、その予想を(良い意味で)ぶち壊した。

ただし、ChatGPTが教えてくれる話は話半分で聞くのが良いとされる。教科書に書いてあること、調べればわかること、ネットで公開されている情報、などはかなりの正確性を持って答えてくれる。一方、答えのない問いや、哲学的・思想的な問いに適切な解を求めるのは、まだ無理だと思われてきた。

その認識はGPT-4の登場で大きく変わるかもしれない。2023/3/14、OpenAI社は、最新のGPT-4(従来はGPT-3.5。GPT-4はその後継モデル)を発表した。GPT-4は、(1)回答の正確性、(2)回答の安全性、(3)入力の自由度、の3点で大幅な改善があったとされる。特に(1)回答の正確性、は注目に値する。なんと、GPT-4は、模擬司法試験で受験者の上位10%に入ったとの報告がある(GPT-3.5 は下位10%)。これまでは、「結局は、自分で調べて確認しないとなー」と思っていたのが、もしかすると「ChatGPTが言うなら、きっとそうなんだろう」と思える日も近いかもしれない。

<3. ChatGPTの応用例>

ChatGPTの応用例もネットで溢れている。毎日、膨大な数の利用報告・応用報告があがってくるのでキリがないのだが、いくつかだけでも紹介してみよう。

<試験、レポート・論文執筆>

学生がChatGPTを使うことは当たり前になりつつある。エッセイをChatGPTに書かせたケースや、自由記述問題にChatGPTが合格したケースもある。数学の問題を解くことなど、朝飯前だろう。大学の先生がChatGPTの出力かどうかを見分けるスキルが試されているのか、と思わせるほどだ。教育・研究現場では「ChatGPTを禁止すべき」対「ChatGPTを認めて、その活用スキルも含めて成績を考えるべき」などの議論も始まっている。教育のあり方を考え直す時期に直面したのかもしれない。

<翻訳・語学学習、その他、文章生成に関わるあらゆること>

ChatGPTにとっては翻訳もお手のものである。さらに、語学学習に応用する人も増えているらしい。結局のところ、多言語で自然言語を読み取り、生成することに長けているので、翻訳はもちろんのこと、コピーライティング、説明書やニュース記事、さらには、メールの文案・挨拶の文案・業務文書の生成、小説や歌詞の生成まで、文章生成に関わる領域は激変が起こりそうだ。

<プログラミング>

ちょっとした要求定義をするだけでプログラミングもしてくれる。ネットには、ChatGPTにテトリスやアクションゲームを作ってもらった動画も流れている。エクセルでマクロを作る例や、高度なウェブプログラミングをする例も。さらには、うまく動かない自作プログラムの問題点を解説してもらったり、処理系のエラーメッセージを分析してもらったり。プログラマーの存在意義を見直さなければいけないのかもしれない。

<調査・研究・レポート>

コンサルタントも仕事を失う可能性が大きい。膨大なデータと計算資源を持ち、言語理解と論理的整理を経て、人間が容易に理解できる形での各種のレポートが作れるようになった。人間は、知識や整理する力ではAIにかなわない。コンサルタントには、何を洞察するか、独創的でクリエイティブな発想ができるか、など、明確な存在意義が必要になるだろう。

<検索との連携>

Microsoft社は同社の検索システムBingにChatGPTを連携させた。一方、GoogleはChatGPTの登場後、社内に “code red(緊急事態)” を宣言したと噂されている。ChatGPTの登場は検索サービスの存在に大きなインパクトを与えた。確かに比較的シンプルなキーワードもしくはその組み合わせによる検索とは異なり、ごく自然な言葉で汎用的な「問い」を投げかけられるのは助かる。ChatGPTのようなサービスが普及すれば、検索は使わなくなるかもしれない(なお、本記事の校閲中に、Google社が提供するオリジナルのジェネレーティブAI “Bard” がついに一般公開になった。技術的にはChatGPTに勝るとも劣らないと言われるが、さて、どんな展開になるのだろうか。しばらくは目が離せなさそうだ)。

<様々なツールとの連携>

Microsoft社は同社のExcelやWordなどのオフィスツールにChatGPTを連携させると発表した。Excelで各種テーブルを作っているときに、ChatGPTに問い合わせた結果が自動的にセルに入力されるのは魅力的だろう。Wordで文章を作るときにも、専門的な言葉の注意書きをChatGPTの回答で自動的に生成できるのも助かる。同様に、Googleが提供するツールでもChatGPTを使うための拡張機能が登場している。

<GPT-4の可能性>

最新の言語モデルGPT-4は、ベースとなる知識量(データの量)が飛躍的に増えている。一部の記事によるとパラメーターの数は100兆にも及ぶという。これは、人間の脳が100兆個のシナプスを有することに匹敵する(それが、何を意味するのかは別の話だが)。圧倒的なベースになる知識の量と、パラメーター数の増加が、GPT-4に「質」の変化をもたらしたように感じる。

マルチモーダルについても言及したい。GPT-4は、テキストだけではなく、画像も一緒に理解できるのだという。以下は、GPT-4が解いた「物理の問題」の例である。問題を理解し、図を読み取り、それに適切に回答する。これは衝撃的で言葉を失う。内容もさることながら、図を読み取って問いの意図を理解できるとは、想像を絶するのだが…(汗;)

GPT-4が解いた物理テストの例(出典:OpenAI)

<4. ChatGPT / GPT-4の登場のインパクト>

AI 〜 人工知能。この言葉は何度も世間を騒がせてきた。実際は、玉石混交、何が本当のイノベーションかを理解することは難しい。なので、筆者は、言葉だけで大騒ぎすることは控えてきた。それでも、過去に「明らかなAIの進歩」を感じたことが何度かある。

一つはGoogleのAlphaGOだった。囲碁の最高峰プロ棋士が完敗した。囲碁は形勢や厚みという抽象的な概念や、大きな流れを理解する「大局観」が必要とされる(筆者はアマチュアながら囲碁4段なので、その感覚は理解できる)。まさか、自分が生きているうちに、AIが「大局観」を理解する日が来るとは思ってもいなかった。

もう一つは自動運転の実現である。自動運転はかなり具体的な未来が見えつつあるが、そこでは、コンピューターが「目」を持ち、視野を操れるようになったことが鍵を握る。人間の「目」とそこからの入力を理解する人間の脳は極めて高度である。それに相当する力をコンピューターが持ったことは大きい。

そしてChatGPTが登場した。特にGPT-4の登場はこれらの衝撃に匹敵する、もしくはそれを超えるかもしれない。言葉を認識し、必要であれば補足情報で補って、さらには図表も読み取って、人間の意図を理解し、それに適切に答えるのは極めて高度な「意思疎通」の能力である。実際には「意思」を持っているわけではないと言われているので、膨大な量の学習と高度な統計処理により「臨界点」を超え、自然な会話ができているように見えるのかもしれないが。いずれにせよ、それを、あらゆる分野で、しかも、多言語でできるようになったのは驚異的である。

<5. ChatGPTと顕名市場の話>

最後に、ChatGPTと顕名市場の関係についても触れておきたい。本連載の主テーマは「匿名市場から顕名市場へのシフト」である。ChatGPTの登場が顕名市場の構造にどのような影響をもたらすのだろうか。

正直に言うと、あまりに影響が大きすぎて、まだ整理しきれていない(笑)。だが、いくつかの大きな方向性があることも実感した。

デジタルサービスにおいて「顕名化」は間違いなく深化する。ChatGPTの利用は「ログイン」を前提とし、利用者との過去のすべての会話を踏まえて、新しい会話に臨む。これは、Googleが過去の検索履歴を参照して検索結果を返していることに似ている。必然的に、会話は顕名化された状態で高度化されていく。言葉の使い方、興味・関心、知的レベル、など、使えば使うほど、利用者のことを深く理解した「コミュニケーションパートナー」として成長する。もしかすると、近未来には、パーソナライズされたAIが、顕名個人の「経験」や「体験」を覚えていてくれるのだろうか。

利用者のことを深く理解した「パーソナルアシスタント」も登場するだろう。専属秘書、というとイメージがしやすいだろうか。メールを書くときも、スケジュール調整も、報告書も、経理処理も、税金の手続きも、さらには買い物や会食や遊びにいくときも、はてはデートでの服選びまで。あらゆるシーンで「個客一人ひとりを深く理解した」アシスタントが手伝ってくれる。表現を変えると、顕名市場の鍵を握る「個客一人ひとりの体験」の創出には、顕名の個人一人ひとりに最適化されたアシスタント(AI)の存在が欠かせなくなるのかもしれない。

<6. おわりに>

GPT-4の登場は強烈だ。まだまだ、影響は計り知れないが、世の中が大きな転機を迎えていることは肌で感じる。前述の通り、言葉に踊らされることは避けたいと思いつつ、変化を分析し、未来を冷静に洞察すべきときなのだろうと感じる。

しばらくは、ジェネレーティブAIの話題が続きそうだ。ChatGPTはその一つとして注目を集めたが、画像や動画の自動生成、音声の生成、他にもさまざまな領域で生成系のAIが登場している。さらに驚くべきは、その成長の速さである。ChatGPTが登場してからまだ半年もたっていない。他のサービスもものすごい勢いで進化を遂げている。いや、ホント。この先を予想するのも相当に難しそうだ(汗;)

最後に、次回のテーマの話を。

今回は、急遽予定を変更して「ChatGPTの話」を書いてみた。本来なら次回は「知徳報恩(4)」について紹介するところだが、最近、あまりに世の中の動きが早すぎるのが悩ましい。今回のように、臨機応変にホットトピックスについて紹介することもアリ得ることを、読者の皆様には、ぜひ、ご理解いただきたい。

※本内容の引用・転載を禁止します。

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