Jライブラリー

アフターコロナ第30回(最終回):キャッシュレス決済の行方

吉元利行 コラム

この連載では、コロナ禍において人の移動が極端に減り、経営が困難を極めた公共交通や地域商店街、飲食店などを対象に、ウイズコロナ・アフターコロナに向けたキャッシュレス化への取り組みや地方活性化の在り方などを取り上げてきた。

キャッシュレス化への取り組みは、それ自体が目的であることはなく、他人との物理的接触をできるだけ抑えたいという衛生的な目的であったり、出勤者が少ない中でルーティンワークを回すための合理化だったり、従業員の現金取り扱いの負担を軽減するためだったりした。もちろん、多くの訪日外国人が訪れたコロナ前には、その決済の利便性を提供するとういう外国人顧客向けのサービスも目的の一つだった。

しかし、訪日客の激減にもかかわらず、交通系決済を中心にキャッシュレス化は進んでいる。

分野ごとに異なる決済手段の変化

現在では、「あらゆる決済を現金決済からキャッシュレス決済に」という国際ブランドやクレジットカード会社等の方針があって、現金決済からの切り替えが進んでいる。口座振替や窓口での銀行振込が多かった税金や家賃などは、ポイント獲得目的でのクレジットカード払いやスマホアプリを使った振り込みが増えているし、現金とともに、電子マネーでのキャッシュレス決済が中心だった交通系サービスにおいては、クレジットカードやデビットカード、それも非接触方式の導入が進みつつある。またこれまで、1000円以下の小口決済分野ではクレジットカードを使うことが躊躇され、現金決済が主流であったが、QRコード決済を中心としたスマホ決済が大きく伸びて、クレジットカードを使ったポストペイ型の電子マネーとともに、存在感を増している。 このように、一口にキャッシュレス化といっても多様で、取引分野ごとに、どのような決済手段が用いられるのか、という点にも注目される。

電子マネーとタッチ決済は併用か

交通系料金の決済では、前払式支払手段である電子マネーが全国的に利用されている。電子マネーは、未成年者の通勤用や高齢者向けの割引乗車専用カードなど、クレジットを利用できない層を中心に必要性は高い。一方、全国交通系電子マネーとクレジットカード等のタッチ決済の併用も限定的であるが増えてきた。クレジットカードなどに採用されている非接触方式のType A・Bは、電子マネーで採用されているFelica方式に比べると、決済処理に要する時間がやや長く、ラッシュ時などには、行列を作るおそれがあるという問題がある。しかし、クレジットカードのようなオープンループ型のシステムの利用料金は、請求が1日単位で、利用データが後からまとめて処理されるため、1日の間でどれだけ乗車しても一定以上の金額を請求しないよう上限を設定したり、沿線で購入した商品の代金利用と合わせて割引したり、キャッシュバックをしたりすることが可能である。ここが前払式の電子マネーとは異なる後払いで請求するクレジットカードの強みであり、周遊チケットキャンペーンなども可能な点は大きな魅力である。このように、都度支払いと繰り返しチャージが必要な交通系ICカードは違った料金設定と集客であり、一長一短であるため、利用者による使い分け、地方と都市部での棲み分けなどが考えられる。ただ、地方鉄道路線やバス路線の中には、電子マネーでの決済を採用していないところもあり、今後はコスト的に安いといわれる非接触クレジットカードやデビットカードが、交通系電子マネー非採用の地域から普及していく可能性もある。

銀行の取り組むキャッシュレス決済

銀行の動きにも注目したい。これまで銀行送金や口座振替などで、現金を使わない決済の主流であった銀行が、クレジットカードやデビットカードの発行に加え、昨年10月から個人間の小口送金を無料で行う「ことら」の利用を開始している。従来の銀行間送金システムである全銀ネットを利用せず、銀行のデビットカードシステムを利用した小口送金で、手数料無料を実現している。今後は、家族間の資金移動や本人の複数口座間の資金移動に銀行アプリに組み込まれた「ことら」送金を利用することが増えると思われ、個人間のキャッシュレス化も少しずつ進むものと考えられる。

さらに、新しいキャッシュレス決済手段も出てきた。ステーブルコインである。ブロックチェーン技術を使っているといっても、BIT Coinのように、価値の変動が激しくなく、円やドルの価値と連動して1単位=1円などに固定して決済ができる。ステーブルコインを発行できるのは、預金保険制度で預かり資産が保証されている銀行、預かり資産の100%供託制度がある資金移動業者、資産保全措置を取っている信託会社だけなので、仮に破綻しても安全である。資金決済法が改正され、「電子決済手段」として位置づけられたことで、法的にも明確になり、今後インターネット取引を中心に、BtoC市場だけでなく、CtoCの市場で決済に使われることが考えられる。前払式支払手段型の地域通貨(地域コイン)と比べると利用範囲が広く、利便性が高いため、今後の展開が注目される。

カードはいつまで発行されるか

第21回Jライブラリー|アフターコロナ第21回:バーチャルカードは脱炭素化につながるか (jintec.com)でも取り上げたが、いつまで「カード」が発行されるのかも興味深い。

すでに現在のクレジットカードは、クレジットカード番号のエンボスがなくなっただけでなく、カード番号不表示の「ナンバーレス」に移行しつつある。また、物理カードを一切発行しない「バーチャルカード」も増えてきた。これからは、iPhoneでApple Pay、Androidの携帯電話でGoogle Payに各カード情報を登録して利用するなどの「カードレス」決済が基本となるかもしれない。

そうなると、カードをApple PayやGoogle Payに登録した段階で、カードに独自のアカウント番号が割り振られ、スマホのタッチ決済にはこの番号しか使わないから、カードそのものやカード番号等を入力する利用方法に比べて、安全性が高くなる。また、スマートフォンのセキュリティを利用することで、紛失・盗難時も不正使用を防げ、店舗などにクレジットカード番号そのものが渡らないため、カードを悪用される心配が少ない。電子マネーについても、いちいちアプリを起動しなくてもApple PayやGoogle Payから選択して支払いができる。Apple PayとGoogle Payで利用できるアプリや決済方法に細かい違いはあるが、やがてほぼ同様になるに違いない。

Suicaは、Apple Pay、Google Pay以外に、「モバイルSuica」という専用アプリでも利用できる。定期券の新規購入や払い戻しなどができるのは専用アプリのみ。

このようになると、もはやカードはいらなくなる。果たしてあと何年カードは発行されるのか、興味は尽きない。

キャッシュレス決済手段は、まだまだ成長途上であり、最終形は見えない。今後は特性に応じ分野別の利用者の利便性を考慮したキャッシュレス決済手段が選ばれるのではないだろうか。

(追記)
ひとまず、アフターコロナとしての連載はこれで終えることとし、次月から、新しい分野での連載を始める予定である。

※本内容の引用・転載を禁止します。

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