Jライブラリー

第22回:「広告ビジネスの構造変化と顕名化」

中川郁夫 コラム

<はじめに>

知り合いがホームページを作った。Googleに「ホームページ作成」と入力すると、近所の業者が出てきたので頼んでみたのだという。(言ってくれれば手伝ったのに、笑)

Googleは優秀だ。入力したキーワードに応じて瞬時に答えてくれる。しかも、欲しい回答がかなりの確率で見つかる。世界中のありとあらゆる情報を集めていることも驚異的だが、検索した人の求めている情報を予測して的確に答えることにも驚く。

検索したキーワードによって検索結果の表示の仕方も工夫されている。レストランや病院などを探している場合には画面上部に地図が表示される。本や小物を探すと、ネットショップや店舗の紹介が出てくる。学術的なキーワードを入れると関連する論文のリストが最初に表示されたりする。

Googleの検索結果には広告が表示されることもある。それも、ごく自然な形で。検索したキーワードにあわせて、関連性の高い広告が表示される。冒頭のホームページの業者もGoogleの広告を使っていたようだ。検索したキーワードに関連して、検索した人の位置情報にあわせて近くの業者の広告を表示するとは、なかなか手が込んでいる (笑)。

ネットの普及・浸透に伴い広告の技術は高度化した。キーワードはもちろん、位置情報をはじめとして様々な情報が参照される。誰が検索するかによって表示される結果が違うことも興味深い。広告が「顕名化」されていると言っても良いだろう。

今回は、広告業界で進む構造変革と、その中でももっとも重要な変化である「顕名化」について、Googleの広告モデルを参考にしながら考えてみたい。

<Google登場>

Googleの創業は1998年9月。カリフォルニア州メンロパークのガレージでスタンフォード大学出身のラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンの2人が創業した。ネットの普及を背景に、ウェブページの重要性を判断する独自の検索エンジンを開発したことがきっかけだった。

Googleの急成長を覚えている方は多いだろう。世界中のウェブ情報を対象に高速な検索を実現したサービスは注目を集めた。2000年にはYahoo!のサーチエンジンとして、2003年にはAppleが提供するSafariの標準検索エンジンとして採用された。時を前後して、2001年3月にはエリック・シュミットが経営に参加。その後、2004年8月に上場し、時価総額は230億ドル (約2.3兆円) を超えた。2015年にGoogle及びグループ会社の持株会社Alphabetを設立。現在、時価総額は2兆ドル (約200兆円)、社員数は15万人を超える。

Googleは様々なビジネスを手掛ける。もちろん、Googleの収益の主力は広告事業だが、あらゆる領域で同社のサービスが展開されているのは皆が知る通りである。スマートフォンOSであるAndroidや、動画サービスであるYouTubeの台頭はいうまでもないが、他にもGoogle Mail、Google Maps、Google Earth、Google Meetなどの著名サービスや、企業向けのGoogle Workplace、クラウドサービスとしてのGoogle Cloud Platformもある。

<Googleの広告事業>

Googleの広告事業は、主としてGoogle AdSenseおよびGoogle Ads (旧Google Adwords) の2つが有名である。それぞれの仕組みについて簡単に紹介しておこう。

Google AdSenseは、ウェブページやブログの運営者が所有するコンテンツに広告を表示する場所を準備することで、その広告がクリックされた際に報酬が発生する仕組みである。初期費用や月額料金などは不要。サイトを所有していれば、審査を経て同サービスが利用できる。誰でも簡単に広告収入が得られることで急速に広がった。現在、Googleの収益の多くが同サービスを介したものだと言われる。

Google Adsは、広告を掲載したい広告主向けのサービスである。自社の広告をGoogleや他社のサービスに掲載したい場合にGoogleに申し込む。事前に広告に関連するワードを設定しておくことで、Google検索結果の表示画面で、ユーザーの検索ワードに適した広告が表示される。さらに、前述Google AdSenseを使用したWebサイトでも表示される。広告がクリックされた回数に応じて課金される「クリック課金」が特徴である。

<ネット広告の台頭>

Googleによる広告事業は、広告業界に大きな変革を突きつけた。Google以降、さまざまなネット事業者が広告ビジネスを手掛けてきた。ネット型広告は、従来の広告事業とは明らかに異なる特徴を有する。その結果、広告市場は激変したといっても過言ではない。

<媒体別広告費 (国内) – 2020日本の広告費を参考に筆者作成>

広告業界の構造変革は、広告市場の媒体別シェアの推移を見ると明らかである。上記のグラフは、国内の媒体別広告費の推移を示している。インターネット広告市場の伸びは注目に値する。いずれは、と言われ続けてきたが、2019年、ついにインターネット広告の市場規模がテレビ広告のそれを超えた。

<広告業界の構造変革と顕名化>

ネット広告が登場して以来、広告業界には大きな構造変革があった。ここでは、比較を簡単にするため、従来型の代表であるテレビ型広告 (Broadcast) とネット検索型広告 (Search) を比較してみよう。

媒体の変化:

テレビ型では「電波」が広告媒体 (新聞・雑誌は印刷物) である。一方、ネット検索型は「ネット (Internet)」が媒体であると考える。

コンテンツ:

テレビ型では利用者はコンテンツ (番組) を「見る」ためにテレビを視聴する。一方、ネット検索型では、ウェブコンテンツを「検索」するために検索画面にアクセスする。

作成者:

テレビ型のコンテンツ作成者は「事業者」である。一方、ネット検索型では、ウェブページを制作・公開するすべて「ウェブ制作者」がコンテンツ作成に携わると考える。

枠:

テレビ型では、番組の合間に流れるのコマーシャル枠が重要である。この「固定」の時間が広告を流すための枠である。一方、ネット検索型では、枠はすべての利用者に提供される。事実上、枠は「無制限」である。

対象:

テレビ型は「匿名大衆」に対して単一共通のコンテンツを提供する。これは、電波の特性上必然でもある。一方、ネット検索、特にGoogle Adsのような仕組みでは、個人を特定し、一人ひとりに適した広告を提示する。ネット検索型が「顕名個人」を対象とすることは最大の特徴のひとつである。

方向:

テレビ型は「単方向 (片方向)」の一方的な広告提供を行う。一方、ネット検索型は、利用者が入力したキーワードに応じて提示する広告を変えることができる。すなわち、「双方向」の広告モデルである。

強み:

テレビ型にとって、広告媒体としての強みは「コンテンツ」の魅力である。視聴率を稼ぐコンテンツが強いとされるのは良く知られた話である。一方、ネット検索、特にGoogle Adsのような仕組みでは「知の集積」が強みである。

獲得率:

獲得率 (Conversion Rate) はテレビ広告と比較して、ネット検索のほうが圧倒的に高い。

以上を表にして整理する。

<テレビ広告型 (Broadcast) とネット検索型 (Search) の比較>

特に注目すべきは獲得率 (Conversion Rate) である。獲得率は、広告を見た人が、実際に何らかの行動を起こす率を意味する。テレビ型とネット検索型では獲得率に大きな違いが生まれる。正確な数字を統計的に示すのは難しいが、ある研究によると、ブロードキャスト型の広告に比べてネット検索型の広告の獲得率は1-2桁 (10-100倍!) も上とされる。以下、その理由を考えてみよう。

テレビ型では獲得率は低くなる。考えてみれば当然だが、電波の特性上、匿名大衆に単一共通の広告を流し、すべての人が同じ広告を目にする。ほとんどの人にとっては興味のない内容でも、わずかに、興味を持った人が反応することを期待して広告が流される。

ネット検索型では、本人が興味を持っている (調べようと思っている) キーワードに関連した広告が表示される。冒頭で紹介した、ホームページを作りたいと思っている人に対して、ホームページを作る事業者の広告が表示される例は分かりやすい。一人ひとりに合わせて最適な広告を表示する仕組みがあれば、獲得率が高くなるのは必然である。

ネット検索型、特にGoogle Adsでは、個人を特定し、キーワードはもちろん、位置情報、時間、過去の検索履歴、その他さまざまな情報を参照し、一人ひとりに最適な広告を表示する。顕名個人を対象とする仕組みが獲得率の高い広告を実現していると言える。

<おわりに>

今回は、広告業界にも「顕名化」が浸透していることを紹介した。従来型の匿名大衆を対象とする広告モデルから、デジタル時代の顕名個人を対象とする広告モデルへ。広告ビジネスは、ネットとともに大きく様変わりした。

実は、広告と顕名化の話は悩ましい話に溢れている。例えば、あるところで調べ物や買い物をした結果、それに関連する (関連しそうな) 広告が、まったく関係のないページで表示されてしまったという経験を持つ人は多いだろう。プライバシーやパーソナルデータの扱いとも関連し、広告業界がどのようにデータを処理すべきかは大きな議論を呼んでいる。

とはいえ、デジタル技術の進歩・浸透はさらに広告を高度化・複雑化させるのは間違いない。個客接点は増え (減らない)、取得できる情報も増え (減らない)、処理能力も指数的に増え (減らない)、さらに技術は高度化する (逆戻りはしない)。必然的に、顕名化は進み、さらに個客一人ひとりにあわせて最適な広告を提供する仕組みが開発されるだろう。顕名化が進むことを考えれば (本連載で繰り返し伝えてきた通り)事業者・業界ともに、利用者にとってのメリットの最大化を徹底していくべきである。

今後、顕名化とともに広告技術が進化することで、プライバシーに不安を感じることなく、より自然で、心地よい広告が提供されるようになることに期待したい。

※本内容の引用・転載を禁止します。

pagetop