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アフターコロナ第28回:只見線の復旧に地域交通の在り方を考える

吉元利行 コラム

2011年の新潟・福島豪雨で不通となっていたJR只見線が、22年10月に実に11年ぶりに全線が再開通した。只見線は福島県から新潟県まで、36駅135.2㎞を走る路線である。複数の橋梁流出があった会津川口駅―只見駅間27.6㎞は復旧工事が行われず、同じく台風の影響で復旧されないまま廃線になった北海道の日高本線の一部のように廃線なるのではないかと危惧されていた。只見線は赤字路線のうえ復旧費用は85億円。復旧には4年かかるとの試算が示されていたからだ。

地元の熱望と復旧支援

2021年に公表された赤字路線でダントツ一位であった只見線が、地元民の熱望と財政支援によってJR東日本と国を動かし、復旧ができたのは、乗り鉄としては非常に喜ばしい。只見線の一部は代行バスでしか走破できておらず、鉄道で走破できる機会を与えられたことはこの上ない喜びである。

廃線の例は多い。2014年3月末に岩泉線、2014年5月12日に江差線(木古内―江差)、2016年12月5日に留萌本線(留萌―増毛間)、2018年に三江線(三次―江津)、2019年3月末には石勝線夕張支線と、多くの路線がここ数年で廃線に追い込まれている。 只見線が復旧できた理由はいくつか挙げられるが、第一に只見線が走る地域は豪雪地帯のため、冬になると福島県只見町と新潟県魚沼市を結ぶ国道252号線が数か月間通行止めになることがあり、唯一の交通機関としての地元の期待である。第二には只見線の観光資源としての価値、地元への恩恵の大きさであろう。只見線は、只見川沿いに越後三山只見国定公園に指定された地域を走り、いくつもの秘境駅と呼ばれる駅がある。また、車窓から眺められる沿線の渓谷、新緑、紅葉の美しいことなどが知られている。新聞の特集やテレビ番組、観光雑誌に「紅葉の美しい鉄道路線」などで取り上げられるなど、人気の路線であった。第三に、復旧に向けて「福島県只見線復旧基金」を創設し、相応の地元負担に備えて、積み立てを開始していたことである。2013年1月、福島県と周辺自治体はJR東日本に対し同線の復旧と存続を要請するとともに、国にもJR東日本への財政支援を求めたが、さらに只見町、福島県、只見町観光まちづくり協会などが復旧のための寄付を募るサイトを開設し、「福島県只見線復旧基金」は地元東邦銀行なども寄付し、最終的に21億円が積み立てられた。

どのようにして復旧したか

復旧までにはいろいろな議論があったが、結局、2017年3月27日の復興推進会議において、上下分離方式での鉄道復旧が決まった。上下分離方式というのは、第19回のJライブラリー|アフターコロナ第19回:既存インフラの再活用 (jintec.com)にもあるように、鉄道インフラそのものを維持・管理する事業者と列車を運行する事業者が別々に鉄道事業を運営するということである。只見線の場合は福島県が鉄道の維持管理を行い、JR東日本が列車を運行する。福島県は、鉄道の維持管理費の一部を賃借使用料という形でJR東日本から受け取るが、不足分(年間2億1,000万円)は「県が7割、地元17市町村が3割」を負担して行う。

国内のJRの赤字路線存続では、沿線自治体と地元企業の出資による第三セクターでの運営化、もしくは、代行バスで運営する形で、交通手段を残す形がよく報道されるが、只見線の場合、上下分離方式での運営継続になったのである。

廃線後のバス運行には課題がある

国鉄(日本国有鉄道)は、行政改革の一環として中曽根内閣の下で、分割民営化された。1987年に6つの地域別旅客鉄道会社と貨物鉄道会社に分割されたときに、赤字路線で改善見込みのない路線は廃止か、民間旅客事業者への譲渡、地元自治体が中心になって設立した第三セクターへの譲渡が行われた。しかし、その後廃線になった路線も少なくない。最大の原因は、少子高齢化に伴う過疎化の進展と、過疎地域を中心に、世帯人数に応じた自動車の大量普及である。

しかし、自動車を運転できない高校生以下の学生・児童や高齢者にとって、安定的な交通手段としての鉄道のニーズは強い。そこで、気仙沼線や大船渡線は、鉄道線路を専用道路に変えてBRT(Bus Rapid Transit)で運行している。台風被害により運休し、代行バスでの営業が行われていた日高本線の鵡川―様似間は、2021年3月末での鉄道営業が終了に伴い、代行バスの運行も終了し、日高地域広域公共バスが静内~浦河~様似~広尾を走り、様似の先はJR北海道が札幌発と苫小牧初の予約制の高速バスを走らせている。

このように、鉄道廃止時にも地域の足を確保するため、運行経費が安いバス輸送に切り替えることが多い。

しかしながらバスでの運行は、専用道路運航の場合を除き、鉄道に比較して定時性が確保できない弱点があるほか、イベント開催時、朝夕の通勤・通学利用時など乗客の大幅増加時に柔軟に対応できないなどの難点も多い。また、CO2排出量を比べると、1人を1km輸送するのに、175gが排出される自家用乗用車に比べると、バスは53gと低いが、鉄道の19gには大きく劣っている。

地域公共交通活性化再生法による多様な運行が可能に

2007年(2014年に改正)に「地域公共交通活性化再生法」が制定され、JRの路線廃止に伴う地域公共交通の維持のための対策が取られるようになり、LRT(Light Rail Transit)の整備、BRTの普及促進、 地方鉄道の上下分離による運航が可能になった。民営化後第三セクター方式で第一種鉄道として営業していた鉄道事業者が、地方公共団体の協力のもと第二種鉄道事業者として鉄道運航だけを行うことができるようになった。

まず最初に青い森鉄道線の八戸駅―青森駅間における青い森鉄道の第二種鉄道事業(旅客運送)および青森県の第三種鉄道事業の運行が認められたが、その後、2009年に若桜鉄道若桜線、2013年に信楽高原鉄道設楽線、2015年に北近畿タンゴ鉄道宮津線、先に挙げた只見線など10例以上の上下分離方式が認められている。

バスには、輸送人員の許容範囲が狭く、運行の正確性に欠け、CO2削減策としては弱いという課題がある。その点、鉄道にはこの問題が少ない。成功しているといえる鉄道路線は、高校の近くや病院、神社・仏閣の近所に新駅を設けたり、朝夕の便の増発を図るなど、バスにも匹敵する利便性を取り入れて、主要利用者の中高校生と高齢者のニーズに対応している。また、旧車両を改造した観光列車で地域外の乗客を呼び込みにも成功している。上下分離方式以外でも、専用道路にした道路の両方をシームレスに走るDMV(Dual Mode Vhicle。徳島県阿佐海岸鉄道で運転されている)による存続も考えられる。いずれにしろ、過疎化を避け、地方住民のニーズを満たす意味でも、地方自治体と民間事業者が工夫をし、地域住民と観光資源を支えられる鉄道へと進化することで、鉄道がオワコンにならないことを切に願っている。

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