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第33回:「市場構造の変化から考えるポイントサービスの今後 (1)」

中川郁夫 コラム

<はじめに>

先日、友達の買い物の様子を見て気がついたことがある。

店員:「ポイントカードはお持ちですか?」
友人:「あ。えっと。いや、いいです。」

友人の購買行動が変わった。以前、コンビニでは必ずポイントカードを出していたが、最近はそうでもないらしい。先日、「規約は読んでるよね?」と問い詰めた (第32回の記事を参照、笑) のが影響しているかもしれない。聞いてみると、それもあるが (あるのか!笑)、もうひとつ理由があった。

私: 「ポイントカード使わないの?」
友人:「コンビニによって対象のポイントが違うから、なかなか貯まらなくて」

うん。それはそうかもしれない。あるサイトでは、コンビニごとのおすすめのポイントサービスを次のように整理していた。複数のコンビニを使う人には、なかなかポイントが貯まらない、というのはわかる。事業者側の (囲い込み、という) 理屈が優先されるのは理解するが、日本では利用者メリットの優先順位は低いのか、と残念でもある。

セブン-イレブン:nanaco
ローソン:Ponta
ファミリーマート:T-POINT
ミニストップ:WAON
(参考) https://d-money.jp/dotmagazine/articles/898779918403165126

そういえば、ヤフーサービスのT-POINT付与も2022年3月末で終了した (ヤフーサービスはPayPayポイントに集約する模様)。最近は、楽天ポイントやdポイントを貯める人もいるようだ。ますます、ポイントサービスは複雑化しているようにも見える。いったい、国内のポイントサービスはどうなっていくのだろうか。

実は、国内のポイントサービスは大きな転機にある。第3132回はT-POINTの新たな挑戦について紹介したが、同業界は、まさに激動の最中である。一部のポイントサービスは、いかに貯まりやすく・使いやすい商圏を作るか、ということを意識しているようだ。だが、どうもそれだけでは済まなそうだ。もしかすると、市場構造の変化を背景に、サービスモデル、ビジネスモデルを変革していく時期にあるのかもしれない。

第33-34回では、市場構造の変化を踏まえつつ、ポイントサービスの今後を考察する。

<驚きのニュース>

最近、驚きのニュースが立て続けに耳に入ってきた。第31回に紹介した、CCCマーケティングとトレジャーデータの業務提携による「Tポイントデータをオープン化」のニュースが流れたのが2022年7月28日 (*1)。当該記事執筆後も注目すべきニュースが続いた。

(*1) CCCマーケティングとトレジャーデータ、生活者のライフスタイルを基点とした
 情報プラットフォーム構築に向けCDP領域で提携 (2022/7/28)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000824.000000983.html

まずは、Tポイント事業に関連する役員辞任のニュースが報じられた (*2)。長らくTポイント事業を牽引してきた株式会社Tポイント・ジャパン 取締役会長 の 北村和彦 氏、株式会社Tポイント 代表取締役社長 (兼 株式会社Tポイント・ジャパン 取締役 兼 CCCマーケテイング株式会社 取締役) の尾瀬明寛 氏の二人の辞任の報である。詳細はわからないが、このタイミングでの「辞任」のニュースにいろいろな推測が飛び交った。

(*2) 当社グループ取締役の辞任に関するお知らせ (2022.8.19)
https://www.ccc.co.jp/news/2022/20220819_002390.html

次に、SMBCグループ とCCCグループとの資本・業務提携のニュースが続いた (*3)。SMBCグループは、株式会社三井住友フィナンシャルグループと同社グループの総称と読み替えてほしい。リリースによると、三井住友カードが提供するV POINTとCCCによるT-POINTを統合した新たなポイントブランドを創出するという。決済・ポイント事業の共同運営実現のために、CCCMKHD (CCCMKホールディングス) をSMBCグループとCCCグループの共同事業会社化し、株式をCCCが6割、SMBCグループが4割で持つことを想定しているようだ。

(*3) SMBCグループとCCCグループによる資本・業務提携に関する基本合意のお知らせ (2022.10.3)
https://www.ccc.co.jp/news/2022/20221003_002416.html

(図はニュースリリース記事より引用)

後者のニュースは若干詳しい説明が続く。ポイント事業の統合の背景を理解するうえで重要なキーワードや数字が含まれるので触れておきたい。詳細はリリースに掲載されている画像がわかりやすいので参照いただきたいが、利用者数で、V POINT (SMBCグループのカード会員) が5,200万人、T-POINT (T会員) が7,000万人を数えるのは注目に値する。

(図はニュースリリースより引用)

重要なのは、ポイントサービス統合後にどんなことを目指すのか、だろう。これも、ニュースリリースに掲載されている図がわかりやすい。リリース中にも「両社グループの強みを掛け合わせ、互いのポイントの貯まりやすさ、使いやすさを大幅に向上させることを目的に、両ポイントを統合し」と書かれている。V POINT & T-POINT の統合によって、新ポイントが貯まる・使える店舗数が圧倒的に増える、ことを重視しているように見える。確かに、冒頭の友人のような状況を考えると、ポイントが貯まりやすい・使いやすいことは重要なのだろう、とは思うが…

(図はニュースリリースより引用)

V POINTとT-POINT統合の本当の狙いはどこにあるのだろうか。ポイントの貯まりやすさと使いやすさが重要なのだろうか。様々な議論があり、戦略的な検討を経て今回の業務提携に至ったことは容易に推測できる。最近のさまざまなニュースからは、業界全体が大きな転機にあることも感じ取れる。そこには、単なる規模による利便性の向上だけではなく、構造変革へ適応しようとする挑戦が控えている、と期待するのは私の思考がポジティブ過ぎなのだろうか (笑)。

<ポイントサービスの今後に関する考察>

繰り返しになるが、ポイントサービス業界は大きな転機を迎えている。V POINT & T-POINTに限った話ではなく、どのポイントサービスも同様に転機を感じているはずである。以降は、他のポイントサービスを含め、議論を一般化させて考察したい。

転機を迎えている背景にはいくつかの理由がありそうだ。多数のポイントサービスが登場し、レッドオーシャン化したこともそのひとつだろう。一方で、本連載の趣旨からは、市場構造や消費者心理の変化も大きな理由である、と分析したい。匿名市場から顕名市場へのシフトは、個客接点の意味を変えた。個客理解が個客価値創造に欠かせない。ポイントサービスは重要な個客接点のひとつとして捉えられるべきだろう。

取引と関連する情報の意味も大きく変化した。本連載の主メッセージを繰り返すことになるが、匿名市場から顕名市場へのシフトが、取引のありかたを根本から変えようとしていることが大きな背景にある。

匿名市場ではモノとカネを交換することを取引と考える。購買情報は匿名化と統計処理を経て、マーケティングデータとして利用されることが多かった。ポイントサービスのデータはもっぱら事業者 (商品・サービスの作り手・売り手) 視点で活用されていた。結果的に、ポイントサービスは、データ取得時に一時的にわずかばかりのポイントを付与し、データを第三者に提供することをデータビジネスの主とした。自分のデータが売られることを危惧する声が聞かれたのも、そのデータの流れを考えれば当然か。

顕名市場では、個客一人ひとりに特別な体験を提供する。取引 (サービスの提供) 時に、個客に紐づく情報を参照し、体験をパーソナライズすることが重視される。個客に紐づくデータは「個客体験・個客価値」を生み出すために利用される。Alipay (第8回)、ZOZO (第17回)、他、いくつもの事例を紹介してきたが、顕名市場では、特別な体験を享受するために、個客が自らの情報を事業者と共有することが自然に行われている。

ポイントサービスは顕名市場に適応できるのだろうか。上記の通り、市場構造は大きく変化している。匿名市場がなくなるとは思わないが、世界的にも、顕名市場を前提とするサービスが主流になりつつあることは間違いないだろう。

では、ポイントサービスが、市場構造の変革にあわせて提供価値・提供モデルを適応させていくにはどうすればいいのだろうか。

<おわりに>

今回は、国内のポイントサービスの今後について問題提起をしてみた。国内のポイントサービスは大きな転機を迎えている。V POINTとT-POINTの統合に関するニュースは、ポイントサービスの今後を考えるきっかけを与えてくれた。だが、せっかくポイントサービスの今後を考えるのであれば、単にポイントが貯まりやすく、使いやすいことを目指すだけではなく、市場構造の変化を踏まえた、さらなる価値創造と挑戦に期待したい。

次回は、ポイントサービスの今後に期待を込めて(笑)顕名市場でのポイントサービスの可能性について議論したい。

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