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第16回:顔が見えるニュースサービス

中川郁夫 コラム

<はじめに>

最近、テレビや新聞のニュースがイマイチ面白くない。

興味のある話が扱われていないからだろうか。芸能人や政治家がどうだとか、オリンピックを開催するとかしないとか、コロナで禁酒令+灯火管制がとか……。でも、どう考えてもネットのほうが情報は早いし、広く、詳しく説明されている。そもそも私の興味は世界経済や環境問題なのだが (嘘です、ごめんなさい… >_<)、ともあれ、興味を引く話題が少ないうえに、情報が浅すぎる。

実は、ネットの普及に伴いテレビや新聞のニュースが面白くなくなるのは必然である。考えてみて欲しい。ネットを使うことで、興味のあることはいくらでも詳しく調べることができる。昔のように他に手段がなくテレビや新聞が「数少ない情報源」だったころは、その情報は極めて貴重だった。しかし、一人ひとりの興味に応じて多様な情報の入手が可能な時代に、万人に向けたニュース記事で満足なんてできるわけがない。

今回は、ニュースサービスを巡る変化について考察する。ニュースサービスはさまざまな変化を迎えている。今回は、その中でも2つの変化に注目したい。1つは、ニュースサービスのパーソナライズ化であり、もう1つは、識者による知見の共有である。本連載のメインテーマは匿名市場から顕名市場へのシフトだが、今回はニュースサービスの顕名化について考えてみたい。

<ニュースサービスのパーソナライズ化>

ニュースサービスは、一人ひとりにあわせて情報をよりすぐって提供するよう変化してきた。ネットの台頭を受けて、一人がアクセスできる情報量は爆発的に増えた。世の中に溢れるニュースソースから、一人ひとりの興味や関係度に応じて情報を絞り込む作業が必要になる。それがサービス化されることは必然とも言える。

昔はマスメディアがニュースを配信する主要媒体だった。他に手段がなく「数少ない情報源」だったころのニュースは、できるだけ多くの人に情報が届けられるように、マスメディア (大衆向けの媒体) を通して配信された。できるだけ多くの人達が理解し、興味を持つようなニュース記事が提供された。特定の誰かのためではなく、匿名大衆に向けたニュース配信であり、一方向の、単一・共通の情報提供モデルである。

今はパーソナルメディアの時代である。一人ひとりが複数の (多数の) アクセス手段で異なる情報を入手する。おまけに、ネットでは情報が溢れ、かつ、膨大な量の情報が常に提供され続けている。パーソナルメディア (個々人にあわせた媒体) の時代、一人ひとりに提供すべきニュース記事も「パーソナライズ」されて然るべきである。

<以前は限られた情報源だったが、今では膨大な情報量から絞り込みが必要>

Gunosyの登場は印象的だった。2012年に創業した同社は、情報のキュレーションを得意とし、ニュース配信アプリを提供する。SNSを分析しつつ、AIがニュースをキュレーションする仕組みとして注目を集めた。市場に受け入れられるには若干早すぎた感はあったが、明らかに、パーソナルメディアの時代を見越して、ニュースがパーソナライズされる世界観を感じさせてくれた。

SmartNewsも2012年の創業である。その名もSmartNewsと呼ばれるスマホ用のニュースアプリを提供する。こちらも、パーソナルメディアを前提に、ニュースのパーソナライズを行うことを強みとしている。

LINE NEWSは、800を超える媒体から、1日あたり約8,000記事を提供する。この膨大な記事の中から一人ひとりに合わせて (1億人が購読していると仮定して、笑)、1億通りのトップ画面が生成されるという。AIを使った「ニュースの個人化 (パーソナライズ化)」が同社のメッセージであり、リコメンドの仕組みがウリとされる。

Google NewsはAIを使って、ウェブ上の膨大な量の記事や動画、ポッドキャスト、コメントをスキャンし、ユーザーの関心に基づいてそれらを編集する。利用者が自分の好みをアプリに伝える作業は不要。使っているうちに、アプリがユーザーの興味を学習してくれる。Googleアカウントに紐付けられてパーソナライズが行われることを考えれば、Googleが知り得るさまざまな情報が (同意の範囲で) パーソナライズに活かされていることは容易に想像できる。

パーソナライズは顕名化を意味する。ニュースサービスにおいても、一人ひとりに合わせたサービスが主流になりつつある。同市場でも顕名化の波は必然である。

<識者による知見の共有>

最近、識者がニュース記事にコメントするサービスに注目している。ニュース記事に関連して、専門家が知見や理解・解釈を共有してくれる、と言っても良いだろう。有名なところでは、NewsPicksなどがこれに相当する。

識者による知見の共有は、ニュースを読み解く上でのヒントが溢れている。一見、読み流してしまいそうなニュースでも、識者が問題点を指摘してくれることでコトの重要性を理解できることがある。あるいは、一人では専門的な理解が足りないときに識者のコメントから必要な情報を参照できることもある。識者独自の考え方、解釈の仕方が披露されていれば、「なるほど!そういう考え方もあるのか!」と納得することもある。

識者による知見の共有はニュース記事を面白くする。第三者の考え方・視点や理解・解釈の仕方が共有されるので、当該ニュース記事に対する興味の度合いがまったく違ってくる。ひとつのニュース記事から、いろいろな立場・視点で議論が繰り広げられることもあり、知的好奇心が揺さぶられる感じもある (笑)。

識者に対してファンやフォロワーなどが増えていく仕組みは、さらに興味深い。識者は顕名で登場し、自分の知見を披露する。それに共感する人がファンとなり、フォロワーとなり、また次もその人のコメントを参照するようになる。NewsPicksでは、ニュースを単なる記事として扱うのではなく、そこからインフルエンサー (NewsPicksではProPickerと呼ぶ) とフォロワーの「つながり」を形成していく仕組みが秀逸である。

NewsPicksは顔が見えるニュースサービスを作り上げたと言える。単なるニュース記事の配信サービスではなく、顕名を前提に、識者の知見を共有することで、ひとつの記事に対して、一人ひとりの意見・解釈を共有するサービスを作り上げた。

実は「顔が見えるニュースサービス」の考え方は、前回のAirbnbの記事の話にも共通する。従来のニュース記事は、マス (大衆) を対象に平均的な内容を平均的な多数の人たちに向かって配信することを狙うマス市場戦略だった(青縦軸から左)。NewsPicksは、一人ひとりが求めるニュース記事と関連する情報を一人ひとりが求める形で提供する。パーソナライズされた、ロングテール市場に向けたニュースサービスである(赤曲線)。明らかに、パーソナライズ市場戦略を前提としていることが伺える。

<ニュース記事の市場戦略の比較>

<NewsPicksのもうひとつのイノベーション>

実は、NewsPicksのサービスの仕組みも注目に値する。

新聞など従来の報道機関は、取材・記事執筆・編集を行う編集機能を持つ。必然的にオリジナルコンテンツを持つ代わりに、取材や記事執筆を行う記者や、編集を行うデスクと呼ばれる人たちが多数存在する。

一方、Gunosy、SmartNews、LINE NEWS、Google Newsなど、ニュースの配信サービスを行う事業者は配信の仕組みを強みとする。提携事業者など、他社が制作する記事をパーソナライズした上で配信するが、オリジナルのコンテンツは持たない。

NewsPicksは上記の両方の機能を持つ。提携事業者から記事提供を受けてNewsPicks上で配信するし、同社のオリジナル記事の配信も手掛ける。何より、インフルエンサー (ProPicker) による知見の共有は、他では参照できない強力なオリジナルコンテンツである。

<NewsPicksのサービスの概念>

ここで、NewsPicksのオリジナルコンテンツ提供モデルが「スケール可能」であることに注目したい。多数のインフルエンサー (ProPicker) を抱え、さまざまなニュース記事に対して独創的な知見の共有が行われていく。その、共有される知見もNewsPicksでしか得られないオリジナルなものであるが、インフルエンサーは外部リソースであり、NewsPicksが抱える経営資源とは異なる。前回、Airbnbの事例紹介の中で「オンデマンドエコノミー」の考え方と、その「スケールの仕組み」について言及した。NewsPicksも、外部リソース (ProPicker) によってオリジナルコンテンツが増える仕組みを有していることは興味深い。

<おわりに>

今回は「ニュースのパーソナライズ」について考えてみた。マスメディアの時代から、パーソナルメディアの時代へのシフト。他に選択肢がなく「限られた情報源」だったニュースの時代から、膨大な情報ソースから自分に「必要な情報を絞り込む」時代へのシフト。一人ひとりの知識や興味、関連度などに応じてニュースがパーソナライズ (顕名化) されることは必然の流れである。

同時に、ニュース記事に関する「識者による知見の共有」が興味深い。識者が登場し専門的な視点から理解・解釈の仕方を共有してくれるのはありがたい。NewsPicks のように、インフルエンサー (ProPicker) に注目して、顕名の、顔が見えるカタチでコメントを紹介するサービスは注目に値すると思うのだが、いかがだろうか。

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