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第23回:「広告ビジネスの構造変化と顕名化(続)」

中川郁夫 コラム

<はじめに>

筆者はFacebookのヘビーユーザーである。直接の知人、名刺交換した人、講演の聴講者しか承認してないつもりだが、それでも友達の数は2,100人を超える。友達の投稿を読むのも楽しいが、私自身も、毎日数件の投稿をしてイイネの数にドキドキしたりしている (笑)。

<筆者のFacebookの投稿記事の例>

Facebookは智のネットワークを構成する。友達が投稿した記事を参照しながら、近況はもちろんのこと、最新情報に触れたり、専門家の意見を参考にしたりもできる。もっとも、上の写真にあるような他愛もないネタ投稿や、食レポ・オヤジギャクに溢れているとも指摘され、最近では「オジサンのSNS」化していることも懸念されているが (笑)

Facebookは、顕名個人を特定したサービスを提供する。自分のページに表示されるのは、自分の友達が投稿した記事であり、さらに、過去にイイネした記事や、よく参照・コメントしている友達の記事が優先して表示される。個人の行動履歴を参考にしながら一人ひとりの体験を最適化しようとするのは、典型的な顕名個客のサービスと言える。

Facebookも、Google同様主たる収益は広告ビジネスである。前回、Googleを参考にしながら広告ビジネスの構造変化と顕名化について紹介したが、実は、FacebookなどのSNSによる顕名化はGoogleのさらに上を行く。

今回は、Facebookを参考に、SNSがもたらした広告ビジネスの構造変化と顕名化のさらなる深化について紹介する。

<Facebook概要>

Facebookは、時代の寵児とされるほどの急成長を果たした。創業は2004年2月、創業者はマーク・ザッカーバーグと、ルームメイトのエドゥアルド・サベリンの2人。当初、大学生向けのコミュニティサービスとしてスタートし、やがて、一般にも開放された (2006年9月) ことをきっかけに急激に市場に浸透した。今では30億人弱がFacebookを使っていると言われる (2021年6月現在)。

同社に関するニュースは絶えない。挑戦的で時代の変革を感じさせる驚きのニュースはもちろん、マーク・ザッカーバーグが米国議会で謝罪するほどのネガティブインパクトのある話まで。評価は分かれるが、いろいろな意味で注目される企業であることは間違いないだろう。ここでは、前者のうち印象に残る話をいくつかだけ紹介しておく。

同社の歴史を振り返ると、2012年は衝撃的な年だった。ユーザー数が10億に達し、5月にはNASDAQに上場した。当時、評価額は1,042億ドル (約11兆円) を記録。それと前後して、10億ドル (約1,100億円) でInstagramを買収 (当時、Instagramは、社員が13名、売上はほぼゼロだった!) したことも世界に驚きを与えた。

VR (Virtual Reality) にも積極的である。2014年にOcculusを買収し、VRゴーグルの技術を手に入れたことを皮切りに、さまざまな取り組みを展開している。最近では、仮想空間であるメタバース (Metaverse) サービスの実現に1兆円を投資すると表明し、社名も Meta Platform に変更した (2021年10月) のもホットな話である。

<Facebookの広告事業>

Facebookは主たる収益を広告事業から得ている。2020年度の売上高860億ドル (約9.8兆円)のうち、実に842億ドル (97%) が広告収入である。同社が提供する主力サービスである Facebook、Instagram、Messengerなどに広告商品を表示することで収入を得ている。

同社の広告ビジネスはターゲティング広告に分類される。Facebookは実名登録を前提としており、生年月日、略歴、住所なども登録することが多い。ユーザーをかなり厳密に絞り込めるため、ターゲティングには「もってこい」といえる。加えて、Facebookならでは、の特徴として、自分自身の投稿記事、つながっている友達や友達が投稿する記事へのイイネから、興味・関心がかなりの精度で紐付けられるのが強みである。

Facebookの広告モデルを理解するには、同社で広告を出す際に指定する項目が参考になる。例えば、代表的なものとして以下を指定可能である。

  • 地域 (住んでいる、住んでいた、旅行中、etc…)
  • 年齢
  • 性別
  • 言語
  • つながり (ページへのイイネ有無、イベントへの参加有無、etc…)
  • 利用者層 (特性、学歴、仕事、収入、家族状況、etc…)
  • 興味・関心 (投稿内容、イイネの状況から判断)
  • 行動 (決済、ゲーム、利用アプリ、他…)

Facebookの広告の精度は抜群である。前回も紹介したとおり、広告ビジネスの鍵を握るのは「獲得率」である。Facebookは、明確に顕名個人を特定できることの強みを活かして、詳細な絞り込みから、一人ひとりにピンポイントに最適な広告を表示することで高い「獲得率」を実現している。

特に、ユーザーの興味・関心や行動に紐付いた広告の仕組みは興味深い。ユーザー自らが時間をかけて投稿した記事の文章のストックから本人の興味・関心の範囲を特定するのは「SNSサービスならでは」である。さらに、友達の投稿記事への「イイネ」から興味・関心のあるキーワードを分析し、あるいはFacebookからアプリ起動した場合の行動パターンなどからさらに広告の精度を高めるなど、顕名個客の特徴を活かした広告モデルは注目に値する。

<広告業界の構造変革と顕名化>

前回に引き続き、広告業界の構造変革と顕名化について見てみよう。前回の記事では、媒体の変化、コンテンツ、コンテンツの作成者、枠、対象、方向、強み、及び獲得率の視点から、従来の広告と検索型 (Search) の広告の比較を行った。では、実名登録型のSNSはどのような特徴があるのだろうか。

前回の図に (実名登録型) SNSを追記して整理する。

 BroadcastSearchSNS
媒体電波・印刷ネットネット
コンテンツ番組・記事参照情報投稿記事
作成者事業者ウェブ作成者ユーザー
固定無制限無制限
対象匿名大衆顕名個人顕名個人
方向単方向双方向双方向
強みコンテンツ智の集積Social Graph
獲得率低い高い

<Broadcast型、Search型、SNS型の比較>

前述の通り、Facebookの広告モデルの特徴は「実名を前提とする本人の詳細情報」や「本人が時間をかけて投稿した記事のストック」及び「ソーシャルグラフ」の活用にある。言うまでもないが、実名登録を前提とし、各種の本人情報を参照できることは、ターゲティング広告を行う上で圧倒的な強みである。

ソーシャルグラフ (Social Graph) について触れておこう。Facebookの強みはソーシャルグラフにある。SNSは友達とのつながりを表現する仕組みである。友達のつながりを表現するのがソーシャルグラフであり、Facebookは、世界30億人弱のユーザーがどのようにつながっているかを把握し、アプリ上で表現している。そのつながりを活かした情報発信、広告発信ができることが強みであり、さらに、そのためにユーザーが実名を前提とする情報を主体的に登録してくれるようなサービス設計になっていることも秀逸である。

獲得率 (Conversion Rate) についても言及しておく。前回の記事で述べた通り、ブロードキャスト (Broadcast) 型と比較して、検索 (Search) 型の広告は圧倒的に獲得率が高い。Facebook のような実名登録型のSNSが提供する広告の獲得率はさらにその上をいくと考えられている。前述の通り、ターゲティング広告時に参照できる情報の種類と量を考えれば、それも頷ける話ではあるが。

<広告の顕名化と収益率の変化>

広告モデルの変化、特に顕名化が浸透することは広告ビジネスに大きなインパクトを与える。容易に想像できるように、従来の広告から、検索連動 (Google)、実名登録SNS+投稿記事連動 (Facebook) と深化するとともに、広告の効果や効率も高くなることは自明である。

今回は、広告ビジネスの効率を数値化・視覚化することに挑戦してみよう。といっても、獲得率や個々の広告掲載が広告主にどれだけのメリットを還元するかを考えるのは難しい。今回は、広告を主ビジネスとする各社の生産性 (ビジネスの効率) を比較してみたい。

以下は、広告を主たるビジネスとする企業4社の売上総利益 (2020年度) を比較したものである。日本テレビホールディングス、電通グループ、Google (Alphabet)、Facebook (Meta Platform)の4社の決算資料を参考にグラフを作成した。前者2社が日本国内、後者2社がグローバルを対象にビジネスをしていることを考えれば、その差は仕方ないだろうか。

<広告を主たるビジネスとする企業の売上総利益>

では、広告ビジネスの「効率」はどうだろうか。ビジネスの効率を考えるには、労働生産性がヒントになる。従業員数を比較すると、それぞれの決算期末時点で、日本テレビホールディングス:4,760人、電通グループ:64,000人、Google (Alphabet):150,000人、Facebook (Meta Platform):52,500人、のようだ。売上総利益を従業員数で割ったものが労働生産性とされるので、これをグラフ化したものが以下である。

<広告を主たるビジネスとする企業の労働生産性>

デジタル時代、顕名化の浸透とともに広告モデルの変化が収益構造を大きく変化させた。グラフから分かる通り、収益構造の差は対象とする国・地域の差だけではない。Facebookの収益の効率は圧倒的である。もちろん、各社さまざまなビジネスを展開しているので詳細は議論が尽きないところだが、広告事業が主たる収益であることを起点に考えると、その収益モデルの差は一考に値する。

<おわりに>

前回に続いて今回も、広告業界にも「顕名化」が浸透していることを紹介した。従来型の匿名大衆を対象とする広告モデルから、デジタル時代の顕名個人を対象とする広告モデルへ。広告ビジネスは、ネットとともに大きく様変わりした。さらに、検索 (Search) 型による個人の検索キーワードに紐付けた広告から、実名登録型SNS型の詳細なターゲティングを可能とする広告への深化は特筆に値する。

デジタル技術の進歩・浸透はさらに広告を高度化・複雑化させる。個客接点は増え (減らない)、取得できる情報も増え (減らない)、処理能力も指数的に増え (減らない)、さらに技術は高度化する (逆戻りはしない)。検索キーワードや、登録・投稿した情報だけではなく、今後は、個人のさまざまな行動や周囲の環境なども情報として参照されるようになるかもしれない。(一部は、すでになっているのだが……)

顕名化はプライバシーの問題と向き合うことが重要になる。企業の利益を優先させプライバシーを蔑ろにすることが市場に受け入れられない (世界中から叩かれる) ことは、いくつもの事例が教えてくれている。顕名個人へのベネフィット (便益) を最優先しつつ、プライバシーをどう守るかのバランスが何より重視されるべきである。

前回と同じ締めくくりになるが、今後、顕名化とともに広告技術が進化することで、プライバシーに不安を感じることなく、より自然で、心地よい広告が提供されるようになることに期待したい。

※本内容の引用・転載を禁止します。

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