Jライブラリー

Jintec Special Dialog5

ジンテック つなタイ-対談

Let’s Move On!‐先に進もう‐

人と人をつなぎ、新しい価値共創から、幸福を追求する。(ジンテック 企業理念)

Jintec Special Dialog “Let’s Move On!-先に進もう-”は、各分野で活躍する識者をゲストにお招きし、当社 代表取締役 柳 秀樹と共に、これからの組織や社会、世界、さらには人々の生き方や幸福について深く掘り下げ、「本当に大切なもの」を浮き彫りにしていく対談シリーズです。

「皆さんと共に、すべての人が幸福な、新しい世界を創造していきたい。」

私たちはそう願っています。Let’s Move On !

つなタイ Dialog5

Let’s Move On!‐先に進もう‐Dialog 5

京都大学経営管理大学院客員教授 『たった1人からはじめるイノベーション入門』著者 竹林 一 氏 × 株式会社ジンテック 代表取締役 柳 秀樹

■ファシリテーター:株式会社ジンテック 未来ビジネス アドバイザー・大阪大学 招聘准教授 中川 郁夫 氏
■対談日 2022年5月26日

第5回 Jintec Special Dialogのゲストは、オムロンで鉄道カード事業を筆頭に数々のプロジェクトを成功させ、ソフト開発事業、生産受託事業を始めとした多くの企業の経営再建に携わってきた“しーさん”こと竹林 一氏。様々な体験から編み出した独自のイノベーションロジックをまとめた著書『たった1人からはじめるイノベーション入門』は目からうろこ、腹落ちどころ満載です。イノベーションは“エフェクチュエーション”で起こると語る竹林氏。いかにしてしーさん流イノベーションロジックを発見してきたのか。どうやって新事業の“幹”を立ち上げていったらいいのか。当社 代表取締役 柳 秀樹が中川氏と共にリアルに語り合いました。


共通の視点は「お客さまにとってなくてはならない存在になること」

柳:竹林さんには、昨年のジンテックDXセミナーにご登壇いただきまして。私がお目にかかったのはそれが初めてだったんですよね。セミナーでのお話にすごく共感して「ぜひ一度、食事でもしながらゆっくりお話をしたい」と思ってはいたんですが、コロナの関係で実現が難しくて。

中川:開催が遅れたんですよね。

柳:コロナの“谷”を見計らってようやく実現したので、食事会の時には本が出た後で。そのときにもお見せしましたが、かなり読み込ませてもらいました。

竹林:付せん紙をたくさん貼っていただいて。ありがとうございます。

柳:普段、私が考えていることと近いし、同じ方向をさらに突き詰めていらっしゃるなと感じて、非常に共感したんです。私もIQよりEQと考えていましたし、右脳や左脳についても。いろいろなことが改めて腑に落ちました。左脳の領域だけでは無理があるのではないかというのは、まさに竹林さんが言われるエフェクチュエーションの話ですよね。

竹林:そうですね。

中川:竹林さんはバランス感覚がすごくいいと思います。

竹林:もともと絵が描きたくて、デザイナーになりたかったし、どちらかと言えば右脳型なんです。一人っ子だったので、妄想したものを絵に描いて「こんな都市があったら面白いな」とか、そんなことをしていたっていう話なんですが。だけどデザインの大学をすべってしまって。

柳:本にも書かれてましたね。

竹林:それで、いきなりデジタルな、コンピューターの世界に行ったんですが、結局「何をデザインして、何を目指すのか」なんだと思ったんです。目指すものを実現する手段が、絵やったらデッサンに、コンピューターやったらプログラミングになる。会社やったら最後はマーケティングやプロダクトの技術になってくるんです。「何のためか」という最初のところが分かっていないと「点になっちゃうやん」という感じです。

柳:デザインという言葉に関して言うと、本の中で何度も“設計”という視点で書かれているじゃないですか。「妄想設計」とか。その“設計”がデザインと重なっているのかなという感じがしていて、その辺りに竹林さんのセンスが現れてますよね。

竹林:プログラミングするにしたっていきなりはプログラムを組んでいかないんですよね。まず「お客さんをどうやって喜ばそうか」ということがあって、その後にシステムの構想を練って、どんな機能を付けていくのかを考えて。最後にプログラミングをして、テストをするんです。いきなりプログラミングだけしていたら、それはやっぱり疲れてきますし。

柳:「お客さまをどうやって喜ばそうか」というのは、ジンテックでも常に考えていることです。

竹林:社長から「共感した」って言ってもらいましたけど、ブランドブックを見せていただいて、実は僕も「そのままやん」と感じました。いろいろな会社の立て直しをしたり、新しい会社を興したりしてきたけれど「お客さんにとってなくてはならない存在になる」というのがいつもベースになっています。それと「社員の目が輝く」こと。この両輪がなかったら、何のためにやっているのかわからなくなって、へとへとになっていきます。これまでの延長線上だけを見て、KPIがあって、「お客さんに売りに行け」言うたら、もうドアに足を突っ込んででも、売ってくる。「それでお客さんは本当に喜ばれたのか?」という話ですよね。

柳:足を突っ込んで売っても、1回は売れるかもしれないけれど、その1回で切れちゃう。例えば、成人式の着物だけをメインに販売している呉服屋さんとかでしたら、1回売って終わりということもできてしまうのかもしれませんけれども、うちのビジネスはそういったサービスではない。だから、直接のお客さまに喜ばれることはもちろんのこと、「お客さまの顧客から喜んでもらう」ということが自分たちの一番の喜びであり、サステナビリティの源なんじゃないかなと思っているんです。


変わらないために変わっていく

竹林:僕の尊敬するオムロン創業者の立石一真氏が「企業にとっての利益は、人間にとっての空気と一緒や。空気がなかったら生きていけへん」と言われているんですが、その後に「でも空気を吸うために生きている人間はいない」と言われています。

中川:確かにいないですよね。

竹林:ジンテックさんも、もう30年近くなるということは、何か存在意義があるんですよね。存在意義があって、お客さんが喜んでくれるから続いているのかなと。結局それが全て。確かに空気がなかったら生きていけへんけど「今日、人よりたくさん空気吸うたろう」とか「年率何%ずつ空気を吸うたろう」とか思いませんよね。

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中川:でも日本の企業はやっぱり数字を求めていますよね。数字を見て働いている人も多い。なので、私はこれをきいて「そうか」と目が覚めました。

竹林:最近、パーパス経営とか言い出していますけれども、あらためてパーパスが大切だと。まず何の為かという経営の「軸」がはっきりしていないとぶれますよね。

柳:当社には実は、企業理念以外にも私が社員に伝えているジンテック哲学が3つあるんですよ。それは当社の企業理念・行動指針の実践によって後からわかってきたことなんですけどね。

竹林:ほう、なんなんですか。

柳:1つ目は「お客さまを選ばない限り、お客さまから選ばれない」。だからわれわれはお客さまを選ぼうじゃないかと。われわれが大切にしたいと思えるお客さまでないならば、もう。

竹林:いいと。

柳:そう。例えばうちが大事にするお客さまはこのカテゴリーのここ。だったら、こっちのお客さまは大事にできないじゃないかと。欲張ってもしょうがない。そこからぐるっとまわって、結果的にはお客さまに選んでもらえたらいいという。2つ目は「大切にされない従業員がお客さまを大切にするはずがない」。私が社員をというよりも、会社が、そしてメンバー同士が互いに大切にし合えば、結果的にお客さまを大切にするはずなんですよね。そして3つ目は当たり前の話なんですが、「協力会社さんは対等なパートナーである」。受発注に主従関係を持たせないとかそういうことではなくて「いい話があれば、いの一番に提案してもらえる会社になろうよ」という関係性のことなんです。いい話がたくさんくれば、それをお客さまにも繋げられますし。これが私が社員に口を酸っぱくして伝えているジンテック哲学です。

竹林:大事なポイントですね。僕は京都出身なんですが、京都には祇園東、祇園甲部、上七軒、先斗町、宮川町と五花街があって、450年続いているんです。「一見さん、お断り」なのに450年。まさにお客さんを選んでいるんですね。京都に生まれたから「行きますわ」と言っても、誰かの紹介がなかったら絶対入れてくれません。例えば海外から大統領クラスの方が来られて、「行くわ」と言われても「困ります。来てもらったらSPさんとかがいっぱいついてこられて、今までのお客さんにとって……」「毎週来てくれますか?毎月1回でもいいですけど、来てくれはりますか?」と言ってお断りされます。お客さんを選んではるんですよね。

中川:信頼の連鎖の話ですよね。

竹林:そう。花街は舞妓さんが芸とかいろいろなものを学んで成長していくというある種の教育のビジネスなんですけれども、お客さんも育てているんです。僕が行っても遊び方とか分からないんですけれど、「ここはこうや」とか、支払いの仕方とか教えてくれはって。そうやって次のお客さんを育てていっているんです。そしてまた僕が誰かをご紹介するという。この信頼の連鎖が続いているから450年続いてるのやろうなと。

中川:ある意味“本当の信頼で成り立つビジネス”というか、そういうエッセンスが濃縮して詰まっている感じがして、すごく面白いですよね。

竹林:では変われないのかというと「変わらないからこそ変われる」みたいな。ジンテックさんもブランドブックに書かれてましたよね。花街も「一見さん、お断り」という絶対変わらないところがある一方、外資系ホテルが出てきたときにタイアップしたり、お茶屋バーができたり。お茶屋バーは予約しておいたら、一見さんでも行けるんです。誰かがやり始めたら「私のところもやるわ」と言うて、今ではエリアみんなでやっていて「特許はどうすんねん」とかそういうことは言いません。でも、ぶれたらあかんものをぶらしてしまうと、ビジネスは続かないという。

中川:幹が1つあって、その周りに展開というか、変化がある。その辺りがすごくしっかりしていますよね。

柳:変わらないでいることが大事だから変わり続けていくということですよね。お客さまを大切にして、お客さまから支持を得て、その結果サステナブルでいられる。京都でいったら、「ちまき」の川端道喜でしょうか。応仁の乱から同じ「ちまき」を作り続けて成り立っているという。うちの会社はなかなかそういうわけにはいかないので、「お客さまの支持を得て成り立っていく」というビジネスを維持するためには、変わっていかなければと考えています。

竹林:京都には1000年以上続いている「あぶりもち屋さん」もあるんですけれども、ベースが1000年あるから、前に変わったのは例えば百年前という話なんですよ。先日、「あぶりもち屋」のおかみさんに「コロナで観光客が来なくなって大変ですね」と言うたら「観光客が来はったのは、たかだか70年前からですわ」と言うて(笑)。

中川:たかだか70年前(笑)。

竹林:350年ぐらい続いている西陣織の会社、細尾の社長さんに、京大の授業で話してもらったのですが、「織物はぶれない縦糸があるから、横糸が入れられる」と話しておられたのが印象的でした。今細尾さんのところは、レクサスとタイアップして西陣織で内装をやられてますね。

柳:見たことがあります。

竹林:どんどん新しいものをやられているんですけれども、でも「ぶれない縦糸があるから横糸のアライアンスが組めんねん」と言われてました。

中川:格好いい。

竹林:糸がぶれていたら「あんたのところは、何をしてはるんですか」となるけれど「変わらないものがあって、横糸が入るんや」というのにはなるほどと。学ぶことがいっぱいありますよね。

柳:このブランドブックは、社内で改めてブランディングを見直し、再構築する中で作成したものなんですが、プロジェクトには全社員が関わっているんです。1年ぐらいかけて、情報共有しながらみんなで作ってきたものなので、ぶれない縦糸のような位置付けになったのかなと。ただこれを作ったから、ここから一歩たりとも横に行ってはいけないということではなくて、柔軟性も持ちながら、でもここは大事にしようねと。

竹林:もう一つ別の話ですが、組織って縦になっていますよね。そして縦の組織と縦の組織の間によく壁があると言われます。だから社内にも、お客さんのところにも、1人でも横をつなぐ営業マンがいるといい。「隣の部署は何を考えとるんや」「こういうことをやろうとしてはりますよ」「そうなら一緒にやったほうがええんやないですか」「あっちの部も同じものを買うてますから、まとめて買ったら安いんじゃないですか」とかが出てくるから。

中川:確かにそういう役割の人は必要なんだろうなという気がします。


「巻き込む力」と「巻き込まれる力」-“起承転結”人材

竹林:新規事業の立ち上げの部隊にいた時、課長に「お前はいつも同じやつと飯を食うとるな」と言われたんです。さっきまで新規事業のディスカッションとかをやって、そのまま同じメンバーで大食堂に行ってたんですが「この後もあるのに、なんでお前は同じやつと飯を食うてんねん」と。それが普通やと思っていたから「え?」って(笑)。それからは同じ課のメンバーと飯を食わずに、同期を探しては声をかけて。同期の部門の人としゃべってたら、いろいろな情報が入ってくるんです。そのときに、仕様がちょっと違うだけで「同じものを同じところから買うてるやん」ということが分かって。「足したら何万個になるやん」「これを交渉しようか」言うて。課長に言われたことで気が付いたんですよね。

中川:それはEMSにいらっしゃったときの話ですか?

竹林:もっと若いころ、20~30代ぐらい。「毎日同じやつと飯を食べてて、新しい情報が入ってくるんか?」と言われて。

中川:うわぁ、厳しい(笑)。そのころからつなぎ役をされていたんですね。

竹林:つなぐのか、つながれるのかわかりませんけど。ある女性が「つながる力とか、吸引力とかと言いますけれども、私は“巻き込まれ力”も大切と思うんです」と言ったんです。これは面白いなと思って。

中川:巻き込まれ力。

竹林:そう。「私は巻き込まれ力がすごいんです」と。さらに、巻き込まれ力にはいくつかポイントがあると言っていて、1個は、暇そうなふりをしておく(笑)。そうすると声が掛かると。もう1つは何がしたいのか、何ができるのかを発信しておく。

中川:大事なポイント。

竹林:声が掛かったらそこで選んだらいいんだと。その時に、実は僕も全部巻き込まれてるのではと思ったんです。起承転結で人材をみてみると、すごくおもろいアイデアを持っていて0から1を生むような「起」の人がいて、そのアイデアのグランドデザインを描くことで、1を何十倍、何百倍とかにするような「承」の人がいる。さらに具体的なテーマに落とし込んでマーケティングするとかKPIを立てるとかが得意な「転」の人がいて、最後にきっちりプログラミングして、オペレーションをやり続ける「結」の人がいる。僕は「承」が得意でグランドデザインを描くから、一見巻き込んでいるように見えるんですけれども、実は「起」の人に巻き込まれている。

※竹林氏対談時資料をベースに一部修正

柳:巻き込まれ力があるから、巻き込んでいるとも。

竹林:かもしれないです。

柳:今の話を聞いていて、住んでいるマンションの管理組合の話が思い浮かんで。組合の役員自体は10年に1回ぐらいの頻度なんですが、役員でない時も「このマンションを運営していくためには、こういうことが必要だ」ということを発信してたら、何かがあると声が掛かるようになって。「何か意見があるんだったら、少し出てきて」って。月に1回ある理事会の最初の15分とかそんな感じなんですけどね。発信することでほかの人たちをもっと巻き込みたいという意図があるから、巻き込まれてもいいんです。

中川:両方ありそうですね。

竹林:若い人で「これというものがない」と言う人がいるんですけれど、やっていたら何か出てくる。“Will”とかも、頭でやりたいことを考えていても出てこないけれども、巻き込まれている間に自然に出てくる気がします。

中川:本の中でも「いきなり大きなことをぶち上げなくてもいい」「小さいところからでもやっていくうちに少しずつ」と書かれてますよね。

竹林:お客さんとの関係性もそうなんだと思います。


いかにして、しーさんはしーさんになったのか?

柳:私もいろいろと悩みながら、傍からは少し変わっているようにみえるやり方で会社運営をしていると思うんですが、竹林さんってWebで検索してみても、本当にいろいろな側面が出てきますよね。

竹林:何をやっているのかよく分からないですけれども(笑)。

柳:どういうふうにして、“しーさん理論”みたいなものを編み出されたんですか?その都度その都度、体得していったものなのか。どんなふうに今のしーさんになっていったんだろうと思って。

竹林:もともとは、普通のソフトウェアエンジニアで入社しました。そこからシステムエンジニア、SEになって、プロマネになっていったんです。その途中で新規事業をやっていくんですが、もらえるテーマがもう“置きに行けない”ものばかりで。「この延長線上でやったらいける」っていうようなテーマはくれないんです。さらに、好奇心が旺盛なばかりに「何かあのプロジェクトはおかしい」って賢い人は絶対に近寄らないようなプロジェクトを開けちゃう。そうすると腐ってる(笑)。賢い人はそこで閉めてなかったふりをするんでしょうけれどもそれもできない。お客さんがいてはるし「このまま行ったら、このプロジェクトはあかんやろ」と言ったら「お前がやれ」と言われて、何か月も家に帰られへん。家に帰ったら、嫁さんも子どもも誰もいなかったという。

中川:怖いな(笑)。

竹林:その後、関東エリアの公民鉄17社局に磁気カードシステムを一斉導入するプロジェクトのリーダーを任されたんです。600のテーマ、430万ステップを平行してやったんですが、そうなるともう、やり方をどんどん変えていかないと。そんな風に今までの延長線上ではできないテーマばかりをもらっていると、いろんな工夫をしない限り、突破できないんです。そういうのをずっと繰り返してきました。


4つの仕事

竹林:ある時、社内の人事制度で3か月ほど休みが取れて。ふと思いついて、単身赴任先の東京の恵比寿から、家族のいる滋賀まで15泊16日かけて歩いて帰ったんです。誰にも会わずにひたすら歩いていると、どんどん頭がクリアになってランナーズ・ハイ、正確にはウォーカーズ・ハイになってくるんです。そうしたら「なんで歩いてるのかな?」とか、「何のために生きているのかな?」と考えはじめるんですね。そのときに「しごと」には4つあると思ったんです。1つが“私事”。自分自身がエネルギーをもらえるようなこと。人間はエネルギー源がなかったら、生きていけません。だから、エネルギーを家族からもらったり、趣味からもらったり、人とのつながりからもらったり。いろいろなエネルギーの取り方がある。エネルギーを充電させておかないと、仕事もできない。そのための活動が“私事”です。次は一般的に言われる“仕事”です。職業や業務で、何らかのミッションを持って、それに対する対価をもらえるというもの。あとは“志事”というのもある。お金をもらってなくても「これはやらなあかん」みたいな心を突き動かされることってあるじゃないですか。最後は“使事”で、使命として与えられたこと。生まれてきたからには何かやらないとというものですね。その4つの「しごと」があるのだろうなあと。そして、自分のやっていることを分類してみたら、私の“使事”は「エンジニアの目を輝かせること」だということに気が付いたんです。昔はエンジニアってみんな楽しそうだったのに、いつしかQCDに追われ、部分最適でここだけやっておけとなって。QCDに追われると、発想の枠も広がらないんですよね。そこから、やってきたことをまとめて「エンジニアたちの目を輝かせるのに、こういうやり方をやったらええで」ということを話し始めたんです。

中川:その辺からですか。

竹林:そう。もともと目の輝くエンジニアを育てたくって、やってきたことを体系化して、まとめて、発信し始めたんですよね。

柳:15泊16日は、いつごろですか。

竹林:新規事業を立ち上げていたときだから、もう15~16年前です。発信し始めたら「こういう話をして」と、お声掛けをいただけるようになって。そう言われると、またこれがラッキーでそこまでの体験を改めてまとめ直せるんです。イノベーションと言う観点で1回まとめても、しばらくしたら、EQとか、心理的安全性とかを軸に再編して話をしてとか、DXについて語ってとか。タイミングごとに思考を整理してバージョンアップができる。そういう流れで、ぐるぐる回り始めました。

中川:外で講演されるようになったのも、その辺りから?

竹林:その辺ぐらい。最初の講演はパスネットのプロジェクトマネジメントからです。1年半で600のテーマ、430万ステップのプログラム開発を支えたマネージメントってどうやったかみたいな話からです。

中川:もう単位が分かんない(笑)。

竹林:1個のプロジェクトでも大変なのに、600ものプロジェクトが一斉に走ったらエンジニアはみんな死んでしまうかもしれない。だからもう「どんなグランドデザインを描いたら、この600のプロジェクトが全てうまくいくか」、そこだけを考えました。部下たちもみんな見ているから「このプロジェクトについていったらやばいな」とか思われ始めたら嫌ですし。みんな出世もしたいやろうし、お金もたくさん欲しいやろう。だからいかにしてモチベーションを上げて「これやったら成功するんちゃうか」と思ってもらえる絵を描くか。そこがぶれると、600ものプロジェクトは無理。だから「システムの骨格をこの鉄道会社さんで作って、これをよそに展開して」とかっていう作戦、グランドデザインだけを3か月間考え抜きました。これが最初に言った“デザイン”です。たった数枚で「このビジネス、この600のテーマがいける」というきれいなデザインを描ききるんですね。


具体と抽象を行き来する

中川:先ほど柳さんがおっしゃっていましたけれども、しーさんは既にかなり体系化されていますよね。言語化が上手で、表現される言葉が端的。本質を突く言葉を使われるから刺さるんです。どうやってまとめられているんですか。

竹林:それもそのころの課長に言われたんだと思いますが、比喩とか何か。

柳:メタファー。

竹林:そう、メタファーです。わかりやすい言葉で説明しないとみんな腹落ちしないんです。

中川:しーさんの本にもジンテックのブランドブックにも書いてありますが、抽象と具体を行ったり来たりするというのは、すごく大事なポイントですよね。しーさんはそれが実にうまいんです。抽象化して、上位概念からメタファーを使って説明をして、ご自身の豊富な体験から具体的な事例を語ってはまた戻ってきて。

竹林:行ったり来たりしているんでしょうね。でも、その思考パターンを使ってきたっていうよりは、追い詰められてやっているんで(笑)。「こんなところに来るのはみんな嫌やろうな」とか「このまま行ったら3年でつぶれるな」とかってところに行かされるから。赤字が10年続いてる会社では「また本社から生産を知らん人が立て直しに来はったで」と言われて。

中川:九州ですね。

竹林:そう。日本には、頑張ってない人ってほとんどいないんですよね。「今日は少しはんだを付けるのをやめておいたろう」とかね。昔は「今日はもう2時間も働いたから喫茶店にいこう」とかっていう人がいたじゃないですか。でも今はみんな真面目でそんな人はいません。ということは従業員が働いていないわけじゃなくて、最初のデザインが悪いんです。すごい戦略資料を見せて「会社がつぶれるぞ」と言ったって、危機感じゃ1年くらいしか引っ張れない。

柳:危機感だけでは無理ですよね。

竹林:危機感をあおっても現場の責任と違いますから。経営の責任なんですよ。


6か月考え続けた新しい事業の“幹”

中川:事業の幹を見付けるのに何か月もかけたという話もありましたよね。

竹林:6か月ぐらいね。

中川:あの話は強烈だった。たしか上の方から指示があった。

竹林:そのときは事業部長で、「新しい事業を立ち上げろ」と言われて。既存事業の構造改革をやりながら、「既存だけじゃもうやばいから、全く新しいもの、次のものを持ってこい」と。カンパニー社長直属で、毎週アイデアを持っていかなあかんのがすごくきつかった。アイデアを持っていったら「お前が持ってくるアイデアは葉っぱや。葉っぱを持ってこいと言ってない」「木の幹を持ってこい。こっちの木はもう樹齢何百年やってあかんようになってくるんや。次の幹や」と言われて。また部下を集めて「次、どういうものを持っていこう」と考えるんですが、結局6か月「葉っぱや」言われ続けました。

中川:6か月かけるのがすごいですよね。

竹林:もう死にそうでした。しんどかったです。

中川:“事業の幹”を言語化するには、かなり抽象化しないといけないですよね。

竹林:抽象化のイメージがわからず「お前が持ってきたのは、具体の1個のアイデアだけや」と言われて。ただ、たくさん出していると「そもそも何でこういうことを思い付くのか」とか「現場で何が起こっているのか」とか、柳社長がおっしゃっている「“お客さまの現場”で何が起こっているのか」を俯瞰して考えるようになってくる。今現場で起きていることをそのまま持っていってしまうと単なる改善になってしまうから、それをさらに鳥瞰して、そのときに何が起こっているのかというのを6か月考え続けました。

中川:何度聞いてもその話が本当に強烈で。

竹林:何回も持っていくうちに「お前が言おうとしていることはこういうことやろう」と言われたんで、次の週にそれを持っていったら「それは俺が考えたやつや。お前らが考えてこい」と怒られて。これはもうなかなか大変でした。でも6か月、考え続けたときにこれやというものが出てきたんです。それを語ったらメンバーは腹落ちしました。

中川:腹落ちの瞬間があるんですよね。

竹林:「これやったら自分の言葉で語れる」と、腹落ちしたところから1人ずつ「こんなサービスもできんのんとちゃうか」というものを出してマップにして。そうすると「こんなサービスもできるけれども、これは3年ぐらいかかるな」とか「これはすぐできるな」とかって、時間感の軸が入ってくるんですよね。


新しい“幹”を生み出すには

柳:竹林さんのおっしゃるように、既存のビジネスは樹齢が経てばだんだんくたびれてきてしまう。そこでイノベーション、新しい事業の幹を生みたいわけですが、そこが悩みどころで。「どう進めていったら新しい幹が育っていくのか」というところがなかなか見付けられなくて、もがき苦しんでます。そうは言っても、5年前からそう思っていながら、今も既存の幹で何とか暮らしているわけではあるんですが。漠とした不安感というか、そういうものをどう整理していったらいいのか、あるいはどういうふうにこれから先、進んでいったらいいのか。何かアドバイスをいただけたらと。

竹林:私も日々、悩んでいるんですけれども。

中川:キャッチボールができる相手がいると、だいぶ違ってくるんじゃないですかね。

竹林:それはもう全然、違います。

中川:1週間に1回持っていって怒られるという(笑)。

竹林:それもキャッチボールをしてくれてたんかもしれませんよね。

中川:視点が変わる瞬間を作ってくれる相手がいるって、実はすごく大きいですよね。

竹林:大きいです。イノベーションは新結合と言うんですね。1×1×1……はどこまでかけても1。だから同じように生きてきて、同じところにいる人とはキャッチボールにならないんです。全く違う業界の人とか、知らん人のほうがキャッチボールになる可能性がある。

柳:まさに。

竹林:ヘルスケアビジネスを始めたとき、当然ながら業界のことは全然分からなかったんです。そこでも軸をみつけていくわけですが、昼間はヘルスケア業界の人とディスカッションをして、夜はそれ以外の人と飯を食っていました。温泉協会の会長とか。温泉協会から見たヘルスケアとかすごく面白くて。あとはエステ協会の会長とか。女性がたくさんいてはって、エステとヘルスケアでも新しいものが生まれてくるんです。

中川:女性向けのサービスの立ち上げは結構大きな軸になりましたよね。

竹林:ゼロから立ち上げて、3年で100億近くいきましたね。ヘルスケア領域の事業の幹、軸を見つけるために、まず「ヘルスケアというのは何や?」というところの整理をしました。ずっとその業界にいてしまうと「こういうもんや」という先入観が入っちゃうから。

中川:バイアスですよね。

竹林:「バイアスはあかん」とどんなに思ってても入っちゃう。だけど、私はソフト会社から生産会社の立て直しに行ったから、それがなかった。ないどころか、現場の人に「生産というのは何や」と聞かなあかんし「ヘルスケアというのは何や」と聞かなあかん状態。でもそれがお互いのキャッチボールになっていった。だからこそヘルスケアは2週間で軸ができました。

柳:それは早い。

竹林:それは僕が全く知らんかったから。逆にソフトウェア領域で会社の幹を作る時には、社長でしたけど、僕は具体的な検討には入らず、すべて若手に任せました。ソフトウェア領域はよく知っているので。僕の経験の延長線で考えてしまうので。


お客さまが勝つための提案を―トロイの木馬大作戦

竹林:若手を集めて、僕の友達の何人かにソフトウェア領域、或いは他の事業領域の話をしてもらって。そうしたら6か月後に若手のPJからすごい幹が出てきたんです。僕からのインプットは「今後、相見積もりを取られるテーマは一切やらない会社になる、そのためにどんな幹にしたらええか」という1個だけ命題を与えて。ちょうどリーマンショックの時にソフト会社の社長をやっていて、目の前から何億の受託開発の仕事がどんどんなくなっていったんです。リーマンショックやから仕事がなくなるのは仕方がない。日本中から仕事がなくなっていましたから。ただ見事に一番先に契約を切っていただいて。「何でうちからですか」と何社か回ったら理由は明確。「1人あたりの月単価が高いです。以上」と。

柳:厳しい。

竹林:忙しいから頼んでいただけで、「あんたんとこである必要はない」ということだったんです。僕らは何のためにソフトウェアを学んできたのかと思って。受託して、徹底的にQCDを守って、コストも下げて。だから「相見積もりを取られるテーマは一切やらへん」と。そうしたら6か月間、幹を徹底的に考えてくれたんです。

中川:でも6か月だ。

竹林:これはちょっとすごかった。リーマンショックで売り上げは下がっていくんですけれども、利益は上がっていったんです。「僕らでなかったらあかん」というころばかりを見付けるから。まさに柳社長が言っておられる「お客さんにとってなくてはならないところはどこや」ということですよね。「人が足りひんから10人よこしてくれ」と言われたとします。その瞬間は10人分の売り上げにはなっても、忙しくなくなったら仕事が無くなります。だから10人受注を受けたら、プログラマーだけでなくて、お客さんの課題を見つけ、「お客さんが勝つための仕組み」を設計できる既存事業部のトップクラスのアーキテクト(構想設計が出来る人材)を、3人くらいお客さんのところに送り込むんです。それが本にも書いた「トロイの木馬大作戦」というやつですね。

柳:ありましたね。

竹林:「皆さんの仕事はプログラムを組みに行くことではありません。お客さんの開発体制の中に入って、お客さんが勝つためのソフトウェアの構造を提案することです」と伝えて派遣しました。プログラマーは「これをやってほしい」と言われたらそれをやるんですが、アーキテクトは「ここはこうしたほうがいいじゃないですか」と語るんです。そうやってだんだん枝葉から幹へと近付いていき、システムの根幹のところのお話をいただけるようになってく。「君たちはトロイの木馬で、中から鍵を開けてきてと。そうしたら後から全軍でそこへ入っていくから」という話です。

中川:お客さまの幹を一緒に考えられる人材がいたというのがすごいですよね。

竹林:「受託開発から“知のエンジンを創造する会社”になる」と言ったんですよね。“知のエンジン”というのは、お客さんの根幹の仕組みであって、勝つための仕組みを提案できる会社になるということ。要は「アーキテクトが行かなあかん」という話です。

柳:本当の意味で必要とされる会社になる。

竹林:そうなると最初に声が掛かるようになってきます。

中川:単なる開発会社ではなく。

竹林:そのとおりです。単なる開発会社だと「どちらの開発費が安いねん」となります。そこから脱却したかったんです。


先のことはエフェクチュエーションで

柳:今までやってきたことは間違いではないし、見えないからといって不安に思わなくたっていい。

竹林:いいです。

柳:ここが当社の勝てるポイントというところは何となく分かってきているんです。ここから突き進んで先にいけば、いろいろなものが見えてくる。あるいは生まれてくるということですか。

竹林:それがエフェクチュエーションと言う考え方だと思います。エフェクチュエーションとは世界で連続して事業を成功させている起業家の思考プロセスです。既存で立ち上がっているものの改造とか、さらに詳細分析してセグメンテーションを変えてというのは、従来型の思考プロセス、コーゼーションと呼ばれています。一方、少し先のことはエフェクチュエーション的にやったらいい。エフェクチュエーションが面白いのは、まずは「自分が何者で、何を知っていて」から始まること。そして「誰と出会ったか」によってモデリングが変わっていくところなんです。まさにこういうディスカッションの中から、さらにモデリングが変わって、それをスパイラル的に回していく。そこから何かが生まれて形になってきたなら、コーゼーション的なプロセスで、きっちりQCDを守るほうへ送り出してあげたらいいんです。柳社長の場合は、自分が何者かということは十分知っておられるので、あとは誰と出会って、どんな話をしたかで更に目的もモデルも変わっていくと思います。

柳:なるほど。

竹林:先日、キリロム工科大学をカンボジアで立ち上げた猪塚さんにも京大の講座に来ていただいたんですが、最初は大学を作るのが目的じゃなかったみたいです。現地に行って、ソフトウェア関連の仕事をして、失敗しながらぐるぐる回していたら最後に大学が出来ていた。「エフェクチュエーションというものがあるんです」と説明したら、まさに「私はこれをやってきたんです」と言っておられました。

中川:本ではそれを「わらしべ長者」で説明されてますよね。それがまたすごく分かりやすい。

竹林:この「わらしべ長者」の話とビジネスの関係を論じるだけでも、話がつきません。


抽象化・メタファーと具体

竹林:先ほど抽象化とメタファーについて話がでましたけど、これも難しくて。抽象度が高過ぎると現場は「何をやってええか分かりません」になるし、上の人が具体に降り過ぎると、現場は、具体的に指示されたことしかやらなくなるんです。僕の場合は、抽象度の高いマネジャーの方が力を発揮できるんですよね。どの方向からでも具体化できるから。でも抽象度が下がってくると、やる範囲が決まってくる。そうしたら僕も置きにかかるんで、楽しさもわくわくもなくなってきちゃうので。

中川:そこも難しいところですよね。抽象と具体を行ったり来たりできる人って、実は結構少ないと思うんです。普通に仕事をしていると、なかなかそこまで抽象度が上がらないですから。

竹林:それも周りから学んだんですよね。僕の場合にはそういう上司がいるときには伸びますし、裁量の範囲も大きくなるので具体性な成果もあがります。反対に「てにをは」まで直す人の場合には(苦笑)。「てにをは」を直されても、それ以上は発想が広がりませんから。そういうのは大嫌い(笑)。

中川:大嫌いな上司(笑)。

竹林:でも、直属のときにはお互いが大嫌いでしたけれども、離れれば彼の言ってる具体も正しいし、僕が言ってる抽象も正しいとわかるんですよ。だから、直属から離れた後は応援してくださって、そういう人間関係なんかも学びましたね。いろいろな先輩から教えていただいたものがあって、だからきっと僕が本に書いたり、こういうところでお話しさせていただいたりする中にも、なんかヒントがあるはずなんですよね。

中川:確かブランドブックの中に「物事の本質を捉え」とも書いてあります。本質を捉えるって“俯瞰(ふかん)視点”だと思うんですが、ブランドブックにこれを書かれた意図はなんだったんですか。

柳:「何のためにそれをやるのか」というところが語られないまま、“真のイシュー”を理解せずに動くようなところがあって。特に管理職が「自分はこの領域を管轄しているんだ」みたいになってしまうと、自分の視点や視座で、部門に都合のいいように解釈されてしまう。なので「もう少し視座を上げて、会社として眺めるとどうなるか。さらに上司の立場でこれを見たら、今の話は本質的ではないんじゃないか」というようなことを伝えたかったんです。

中川:「本来、何のためにやっているのか」というのは、結局「何のために企業は存在しているのか」という話にもつながってくる。

竹林:「そもそも」なんですよね。あとは「なぜなぜ」というものもあって。ある課題を与えられたときに、「なぜなぜ」を5回ぐらい深堀りしたら答えが出てくる。でもそもそもその課題が正しいのかどうか、問わないといけない時代になってきてる気がします。


工業化社会から最適化社会へ

中川:相当昔ですが、高度成長期は効率化やコスト、品質なんかを重視した時代でしたよね。でも今はだいぶ価値観が変わってきたのかなという気がしていて。それこそ満足度とか、喜びとか。最近は「Wow(ワオ)」という表現がよくされますよね。「驚きをどうやって提供するか」といったようなところに少しずつシフトしてきたように感じてます。

竹林:普段の生活で「Wow」がないのに、「Wow」を考えろと言われても……。眉間にしわを寄せて、机上で「Wowとは何だ」と言うてるみたいな(笑)。

中川:最初に柳さんがおっしゃった「社員が幸せでないのに、お客さまを幸せにできるか」という、結局、そこにつながってくるのかもしれないですね。

竹林:それは絶対ありますよね。僕も新しい会社へ経営者として行ったときには「お客さんにとって、なくてはならない存在になる」というのと「社員の目が輝く」という両輪で経営をしていきますと言う話をしています。その2つが回っていたら、絶対経営は上手くいきます。

柳:SINIC理論でいうところのまさに最適化社会から自律社会へ向かっています。

竹林:すごい勢いで向かっていますね。

柳:工業化社会はもう卒業したということなんですよね。工業化社会は高度成長でもあったし、それに合ったやり方でよかったんだと思うんです。でも、変わってきている中で同じことをやっていたら駄目なんです。もうそれは成功の方程式ではなくなってしまっている。「今、どんな社会なのか」を捉えながら、新しい仕組みを作り上げていかないと難しいんだろうなと。既に工業化社会でなく、オムロンさんのSINIC理論でいう最適化社会から、自律社会になってきているからこそ、成長の源は働いている個々の人たちだと思うんです。だって、お客さまに一番接しているわけだから。その人たちが考えを持ち寄ったところに成長の原動力があるような感じがしています。

中川:一人一人がというところに強く共感します。

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※竹林氏対談時資料をベースに一部修正

竹林:ものがない社会では工業での量産が売り上げにつながり、幸福が生まれたんですよね。でも今は、工業化社会の価値観から最適化社会へ、そしてその先の自律社会へと動き出している。SINIC理論では2005年から2025年が最適化社会、1人ずつの幸せにシフトしていって、その後に自律社会へ、そして自然社会になると書かれています。最適化社会はまさにSDGsの世界、「持続的な社会に向け、どういう社会的な課題を解決していくねん」ということでもあると思う。でもこれをまた工業化の価値観でやってしまうと「儲けるために何番をやっておこう」とかになっちゃうんですよ。SDGsは17項目ありますけど、じゃあ17項目を達成したら幸せが訪れるのかが重要なポイント。例えばお金のある国が、貧しい国のSDGsの何番を解決してあげると言って解決しても、その国の雇用が生まれていなかったり、笑顔を生んでいなかったり。それで18番目に“笑顔”を入れてみたんです。17項目を達成することによって、18番目に笑顔が来るかどうか。

柳:それは重要ですよね。

竹林:18というのは、日本語では「十八番(おはこ)」。いうなら自分の得意技。だから「ジンテックの得意技はこれです。これで持続的社会に貢献します」と言い切ったら、17個のどれかに無くても良いと思います。また「この十八番でもって3番をやります」と言ったほうが、社員も分かりやすいんです。自律の反対は他律。誰かが作った律によってコントロールされるから、比較する。偏差値が高いとか低いとかね。それはそれであってもいいんですけれども、大事なのは自分の軸、あるいは自社の軸。これを持っているとブランドになっていく。この他律も自律もどちらも大事なんで「両律して」と言ってます。

中川:価値観が変わってきたというのは、まさにその辺ですよね。偏差値とかは本当に分かりやすい。一直線に並べて「あなたはここ」と言われてきたけれど、今は一人一人が全然違う個性を持っていることが重要になってきていて、それぞれが自分の軸を持ち始めてる。

竹林:他軸なんてどこで切るかによって、順番は変わりますしね。近畿大学の広報の方とご飯を食べた時に「早慶近」という話をされていました。早稲田、慶應、近畿大学と。一般的には、関西は「関関同立」なんですけど、普通だったらこのブランドが染みついている。早慶近というのは、何かのランキングのある年の私立総合大学を切り取ったもの。「こちらの基準を使ったらいいやん」と言うて。バズったって言っておられました(笑)。

柳:面白い。

中川:もう自社が、もしくは自分が価値観を作るぐらいの時代かもしれない。

竹林:自分で軸を作って並べたらいい。「間違っていたらあかんけれども、別の軸を定めて、その軸で比較する」というところも笑いました。


イノベーションとは何か

中川:一人一人というところに、すごく大きなメッセージ性を感じていて。竹林さんの本も「1人で始める」というタイトルでしたよね。

竹林:「たった1人から始める」ですね。

中川:いわゆるイノベーションの本かなと思ったら「自分でも始められる」というところが強調されているのがすごく面白いと思って。

竹林:「1人から」と書いてあるので「じゃあ1人でイノベーションを起こせるんですか」とよく聞かれるんです。でも1人でとは書いてないんですね。1人から始めていくと、仲間が増えていくという話なんです。

中川:自分でもできることがあるんだから、できるところからチャレンジするということでもありますよね。

竹林:だから『たった1人から始めるイノベーション入門』と書いたんですが、あまり理論的なイノベーションの話とかは書いてないんですよ。

柳:一般的にはそういうもの、ハウツー的な方法論を求めてしまいますよね。

竹林:イノベーションって、「非連続で0から1を生み出す」という定義もありますが、なかなかそんなこと出来る人少ないですね。会社の若い人たちが「竹林さん、会社の偉い人がイノベーションは非連続と言ってはるんですが、言ってはる偉い人は非連続な事をひとつもやられたことがないんです」と。非連続は難しいし、ほんまに非連続なんかやったら「あいつは何をやっとんねん」言うて、絶対怒られますから(笑)。

中川:ちょっとしたことでもイノベーションになり得るんだということを強調されている。その視点がすごくいいと思って。いわゆる事業企画をやる人のための本というよりは、誰が読んでも「自分にもできることがあるかもしれない」と思わせるような。

竹林:『会計の世界史』を書いた田中さんから、経営から見たイノベーションの本はあるけれども、個人から見たイノベーションの本はなかったと言っていただけました。この本は、経営とか会社とか事業から見たイノベーションじゃなくて、個人側から見たイノベーションについて書かれているんですよねと。

中川:言われてみたら確かにそうかもしれない。

竹林:会社としてのイノベーション論はそれでまたあると思うんです。だから、そこがマッチするかどうか。それが合うと動き出します。

中川:最後にイノベーションについて思うところを一言、二言。あるいは今、チャレンジしていることなどをいただけますか。

竹林:僕はこの3年、イノベーションが起こり続ける仕組みを作ってきたんです。会社を辞める前にそれを作ってくれと言われて。「新規事業を立ち上げてくれ」と言われるのと「イノベーションが起こる仕組みを作ってくれ」といわれるのは違うんです。

柳:それは全然違いますよね。

竹林:そう全然。結局は何を軸に組織を動かしていくかとうことなんです。それが大体見えてきたんで、今回ファースト部門長を全部降りて、部下に事業を任せました。

中川:今、オムロンにはどのぐらいの頻度で会社に行かれているんですか。

竹林:あまり言えないんですけれど、オムロンは週休4日にしてもらって、あとは京大とか。

中川:経営管理大学院でやられていますもんね。

竹林:教えたり、講演したり。あとはお手伝いできるところがあったらオブザーバーや顧問とかも。仕組みさえ作ったら、あとはできると思うんで。

中川:これからもいろいろなところでイノベーションに関わっていかれるでしょうね。

竹林:共通言語を作っていったら、日本は勝てると思うんです。イノベーション1つにしても共通言語になっていないので。

柳:言葉が。

竹林:そう言葉が。「非連続や」と言われたら、誰もついてこないですし。「『イノベーション』と叫んで席に戻って『オペレーション』」と言いましたけれど、実際そういうことが起こってるんです。事業もそうで「新規事業を作れ。何でもええから持ってこい」と言うて、ほんまに何でも持っていったら怒られるんです。上の人の頭の中で1つの事業が100億やったとしたら「これはどう考えても100億にならへんな」「それでは新規事業とは言えないな」と。結局、新規事業と新商品の定義って何ですかということなんです。分からないままに新規事業を立ち上げろと言われてもすり合わない。「うちの会社の新規事業はいくらぐらいの規模」と言うのがあるはずで、規模によって仕掛け方は変わってくる。

柳:言葉問題は結構大きいですね。

竹林:下は「持ってこい」と言われて元気に持っていったらぼろかすに言われる。上は「下のやつはうまいこと考えられへんねん」と思う。それって擦り合ってないだけなんです。どちらもできへんわけじゃない。企業の中でもったいないのがここなんですよ。だから「新規事業」という言葉1つにしてもきちんとしておかないと。

中川:そういう意味でいうと、大学の先生というのは言葉を整理していくのにすごくいいポジションな気がしますね。

柳:今日は見えてきたこと、なるほどと思うことがたくさんありました。頭を整理して、さらに進めていきたいです。ぜひ壁打ちをさせてください。

竹林:ありがとうございます。全然違う話ですけれども、友達がプレゼントとして大きさの違う3冊のスケッチブックを送ってきたんです。1年先はこの小さなスケッチブックで考えて、中期計画はこれで、もっと先まで考えるときには一番大きなやつで描いてくださいと。この人はよう見てはるなと思って、すごく面白かったです。事業の壁打ちもやっていくとまた新しいもんが出てくると思いますんで、ぜひまたよろしくお願いします。

柳:よろしくお願いします。今日はありがとうございました。

中川:ありがとうございました。

※感染対策を十分行った上で対談・撮影しております。


【対談パートナー】
竹林 一
京都大学経営管理大学院 客員教授
オムロン株式会社 
イノベーション推進本部 シニアアドバイザー

“機械に出来ることは機械にまかせ、人間はより創造的な分野での活動を楽しむべきである”との理念に感動して立石電機(現オムロン)に入社。以後新規事業開発、事業構造改革の推進、オムロンソフトウェア代表取締役社長、オムロン直方代表取締役社長、ドコモ・ヘルスケア代表取締役社長、オムロン株式会社イノベーション推進本部インキュベーションセンタ長を経て現職。京都大学経営管理大学院客員教授として「100年続くベンチャーが生まれ育つ都」に向けた研究・実践を推進する。日本プロジェクトマネージメント協会特別賞受賞、同協会PMマイスター。その他一般社団法人データ社会推進協議会理事他、政府、経済団体関連各種委員会の諮問委員を務める。著書に「たった一人からはじめるイノベーション入門」「モバイルマーケティング進化論」「PMO構築事例・実践法、利益創造型プロジェクトへの三段階進化論」等がある。

【ファシリテーター】
中川 郁夫 氏
株式会社ソシオラボ 代表取締役 / 博士 (情報理工学) / 株式会社ジンテック 未来ビジネス アドバイザー / 一般社団法人DeruQui 発起人 & 理事

デジタル技術が社会に与えるインパクトを独自視点で分析し、未来志向の事業創造を手掛ける。デジタルの発展・浸透が、企業、市場、経済、社会にどのような影響をあたえるかがテーマ。デジタル社会の到来を独自視点で調査・分析しつつ、構造変革をビジネスチャンスと捉え、新事業の企画・立ち上げを推進する。

最近は DeruQui を通して若手人材発掘〜成長・挑戦の機会を作る。とんがった人材が活躍する社会を実現するための仕組みづくりに邁進。学生向けオンラインゼミ、企業の若手社員向けワークショップなどを展開中。

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