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第40回:「知徳報恩の話(5)」

中川郁夫 コラム

<はじめに>

名古屋出張時に知人と昼食をご一緒した。食事中に知人のスマホに通知が届く。

  「あ。ちょっとごめん。投稿しなきゃ。」

スマホを手に取り写真を撮って投稿。なにやら楽しそうだ(笑)。数分後には友達からさっそくメッセージも届いたようだ。なんのアプリを使ってるんだろう?

新手のSNSだろうか。画面を見せてもらったが、写ってるのは食事中の「ひつまぶし(名古屋らしく、笑)」の写真と左上に小さく本人の写真も写ってる。通知をきっかけに投稿したようだけど。即時性もずいぶん高そうだ。インスタグラムとは明らかに違う。

「BeReal」というSNSをご存知だろうか(私は不勉強のため知らなかった)。調べてみると「ありのままを共有するソーシャルアプリ」として人気らしい。スマホの生の写真の機能を使って、その時の、飾らない、ありのままの様子を共有するのがいいのだとか。言い方を変えると「映えない写真を共有するソーシャルアプリ」もしくは「盛らないSNS」。うーむ。マジか(笑)。

 https://bereal.com/ja/
 https://find-model.jp/insta-lab/sns-application-be-real/

興味をひいたのは「自分が投稿することで、他人の投稿が見えるようになる」こと。なるほど。「BeReal」は「知徳報恩」を考える上で分かりやすい例かもしれない。利用者が自身のデータを社会やコミュニティと共有することで、結果的に社会やコミュニティからのサービスを享受する ー「社会に貢献し、社会から報いられる」モデルがここにもありそうだ。

今回は「BeReal」を題材に「知徳報恩」モデルを考察する。同時に、デジタル時代の共創型データエコノミーを実現するための重要な要因についても深堀りしてみよう。

<BeReal>

BeRealは2020年にフランスで生まれた。累計ダウンロード数は7,500万を数え、デイリーアクティブユーザーは1,000万人以上だという。その成長の速度は注目に値する。

(*) https://www.onlineoptimism.com/blog/bereal-stats-app-figures-data-be-real-numbers-to-know/

BeRealはいくつかの特徴を有する。ひとつは投稿の「タイミング」。もうひとつは「生の写真機能」しか使えないこと。そして、それらの結果として「ありのまま」の自分をネットワーク上で共有する仕組みになっていること、などだ。

投稿する「タイミング」は通知が届いたときに限られる。通知は、1日1回、ランダムに届く (正確には、運営側が指定する特定の時刻なのだが、利用者がその時間をあらかじめ知る方法はない)。利用者は通知が届いてから2分以内に投稿する必要がある。(2分って… 会議中だったらどないすんねん、笑)

利用者にとっては、いつ通知が届くかわからない。チャンスは1日1回のみ。寝てるときだろうが、朝ごはん中だろうが、歯磨きをしていようが、あるいは通勤中だろうが、その瞬間を写真にとって投稿することが求められる。(そう考えると、ひつまぶしを食べてる時に通知が来たのは、なかなかいいタイミングだったのかもしれない、笑)

BeRealでは「生の写真機能」を直接利用する。しかも、フロント・リア、両方のカメラ機能を使って、利用者から見えている景色と利用者自身の写真の両方を重ねて投稿する。

引用:Apple AppStore より

SNSで多用されるエフェクト(美肌効果や若返り効果、他)を一切許容しないのも興味深い。写真に写る状態をそのまま投稿することが求められる。

BeRealは「ありのままの自分」を共有するためのソーシャル・ネットワークである。上記の説明でお気づきだろう。BeRealでは、狙って「映える」写真をとることは不可能に近い。他のSNSでありがちな「盛った」写真も難しいだろう。どこまでも、ありのままで。だからこそ、「Be Real」をうたっているのだろう。

なお、BeRealはリアクションも「ありのまま」に伝える。イイネ、などの1クリックのアクションではなく「生の写真機能」を使って、自分の表情で反応する。どこまでも「ありのまま」にこだわった仕組みと言えそうだ。

<BeRealと知徳報恩>

BeRealは「自分が投稿することで、他人の投稿を見ることができる」ことを前提とする。言い方を変えると、自らが積極的に投稿することではじめてソーシャルネットワークに加わることができる。それを「標準機能」として実装しているのは興味深い。

上記のモデルは「知徳報恩」の考え方に極めて近い。知徳報恩型データエコノミーは顕名市場の特徴的なモデルである。繰り返し伝えているとおり、その考え方は以下に集約される。

 「社会に貢献し、社会から報いられる」

BeRealでは、自らのありのままの姿をコミュニティに共有することが「社会への貢献」に、他の利用者の投稿を参照し、コメントやリアクションでつながることができることが「社会から報いられる」ことに相当すると考えられる。

BeRealは利用者がコミュニティに積極的に参加することを前提としている。インターネットの歴史を飾ってきた従来のソーシャルサービスでは、少数の積極的な利用者がコミュニティに大きく貢献し、多数の利用者はそのメリットを享受する側にいた。Facebookも、githubも、古くはblogやウェブでさえも、その構造は同じだった。一方で、BeRealはすべての利用者が「社会に貢献する」ことを前提とする。もしかすると、データエコノミーの考え方がすこしずつ変わってきたことの表れなのかもしれない。

なお、現時点では、BeRealは上記の考え方に賛同する人のコミュニティを形成した、と捉えるのが良いだろう。そのコミュニティは「このサービスを楽しい・面白いと感じる人の集まり」である。サービスは始まったばかりだ。このコミュニティがどれだけ大きくなるかは未知数だが、特定のニーズを捉え、「知徳報恩」を前提とするコミュニティが形成できることを示した、という意味で、BeRealの事例は注目に値する。

<おわりに>

「知徳報恩」型のデータエコノミーはデータ活用の特徴的なモデルのひとつである。特に、ソーシャルサービスは「知徳報恩」型のデータエコノミーとの相性が良いと考えられてきた。従来、一部の人たちだけがコミュニティに貢献することがあたりまえだった。対して、すべての人が「知徳報恩」型の共創モデルを前提とするサービスも可能だということをBeRealが示してくれた。

変化の時代、さまざまなサービスが登場し、展開・浸透しようとしている。自分がどのようなデータを共有し、どのようなメリットを享受しているのかを把握することは極めて重要である。その意味でも、これらのサービスをデータエコノミーの視点で捉えてみるのも良いかもしれない。

※本内容の引用・転載を禁止します。

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