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第39回:「知徳報恩の話(4)」

中川郁夫 コラム

<はじめに>

仲間から嬉しいメールが届いた。

  「やっと気兼ねなく飲みにいける♪ 連休明けたら飲みにいこう!」

なにやら、連休明けからイロイロと変わるらしい。この3年間、自粛でなにかと会食など、気にすることが多かった。飲み会にお客さんを誘うとか、仲間とカラオケに行くとか、躊躇していた人も多いことだろう。その制約が緩和されることになった。(嬉しい!!笑)

上記は、新型コロナの扱いが変わることを背景とする。政府の感染症対策本部(本部長:岸田文雄首相)は、2023年5月8日(月)を境に、新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けを季節性インフルエンザと同じ「5類」に引き下げる。(この決定が 1月末 というのも興味深いが、笑)

コロナ禍、あらゆる人が影響を受けた。飲食店の営業自粛、イベントの中止、旅行・出張の延期、さまざまな行動が制限された。「3密 = 密閉・密集・密接」を避けることが推奨され、「ソーシャルディスタンス」などの言葉も生まれた。

この時期、多数の「コロナ対策」に関わる動きもあった。2022年2月の政府発表によると、発表時点までのコロナ経済対策費の総額は293兆円(GDPの54%)にも及ぶという。その効果がどうだったのか、コロナ対策の振り返りを求める声も聞く。

https://www.at-s.com/news/article/national/1023360.html

実は、その中に「知徳報恩」の視点で興味深いものがいくつかあった。「知徳報恩」は「社会に貢献し、社会から報いられる」ことによる共創モデルである。デジタル時代の新しいデータエコノミーの考え方の一つとして、ここ数回、続けて紹介・解説してきた。

今回は、コロナ接触確認アプリ「COCOA(ココア)」を「知徳報恩」の視点で考察する。COCOAについては、開発から導入・運用にいたるまで、賛否両論、さまざまな意見があるようだ。ここではその賛否については触れないが、そこから得られる知見をもとに、データ共有による共創モデルについて考える。加えて、「知徳報恩」モデルの実現の難しさと、考慮すべき点についても触れてみたい。

<COCOA>

COCOAは新型コロナウイルスに関する「接触確認アプリ」として登場した。スマートフォンにアプリをインストールしてあれば、陽性確認者と接触した可能性がある場合にそれを利用者に通知する。政府主導で開発され、多くの人への利用が呼びかけられた。

https://news.yahoo.co.jp/articles/9a7f7b99f7c5b474e46a9474776281c7c75e12d9

少しだけ、具体的に説明しておこう。COCOAは、自分が約1メートル以内の距離で15分以上接触した人が新型コロナウイルスに感染したことが確認された場合に、陽性確認者と接触した可能性がある、と判断する。同アプリはブルートゥース技術を用いて、複数のスマホが一定時間以上、近距離に存在したことを計測する。悩ましいのは、1メートルの距離や、15分の時間設定が「適切」なのか、を科学的・医学的に説明するのが難しいことだろうか。

同アプリは2020年6月に運用を開始、ダウンロード数は累計で4100万件超に達した。ただ、接触が通知されないなどの不具合も多く、政府が感染者の全数把握見直しを受けてココアの機能停止を決めた。技術的な課題が理由で停止されたのは残念だが、同アプリの実験的運用は、別の視点で、多くの気づきをあたえてくれた。

https://dempa-digital.com/article/406531

<COCOAと知徳報恩>

知徳報恩型データエコノミーは顕名市場の特徴的なモデルである。基本的な考え方は、すでに本連載の中でも紹介しているので割愛するが、以下の点は覚えておきたい。

 「社会に貢献し、社会から報いられる」

COCOAは「利用者の存在と状態をコミュニティで共有する」ことを前提とする。その目的からも「利用者の存在を他利用者と共有」し、また、「他利用者との接触情報を事業者と共有」していることは明らかだろう。また、利用者が陽性であることが判明した場合に、利用者の接触可能性を判定するため「利用者の状態を共有」することも必要である。

COCOAは「利用者のデータをコミュニティと共有」することで有効性が発揮される。利用者がデータ共有を許諾することでコミュニティ全体での同アプリの有効性が期待される、と言い換えてもいいかもしれない。これが「社会に貢献」することを意味する。

同時に、COCOAはコミュニティで集まった情報をもとに利用者にメリットを還元する。上記の通り、他利用者が存在と状態を共有してくれることで、利用者自身の接触可能性を判断することができる。これが「社会から報いられる」ことに相当する。

<COCOAの振り返り>

COCOAの実験的運用はさまざまな課題を明らかにした。前述の通り、COCOAそのものの成否・賛否については本稿では議論しない。一方、より一般的な視点で「知徳報恩」を考えるうえで、社会への浸透と利用者の主体性が「知徳報恩」モデルが機能するために重要だという知見が得られたことは特記しておきたい。

社会への浸透は前提条件だった。COCOAが有効に機能するためには、多くの人(10人に6人以上)が同アプリを使うことが望ましいと言われた。COCOAを使っていない人の状態は把握できないため、当然といえば当然なのだが。「知徳報恩型データエコノミー」ではサービスが一定以上の母数に浸透する(割合や絶対数はサービスに依存する)ことが重要である。

利用者の主体性は「社会に貢献」することの重要な前提である。COCOAは政府主導で開発・展開されたが、そのインストールは任意だった。これは、データエコノミーの形成には極めて重要であり、その判断は高く評価したい。利用者は、主体的にデータを提供することで「報いられる(メリットがある)」と感じる。データ参照を「強制」することは「管理・監視」と同義であり、知徳報恩のコンセプトには程遠いことは強調しておきたい。

利用者の主体性を促すためには分かりやすく具体的なメリットが必要である。COCOAでは、接触判断の理論的裏付けの弱さや技術的な課題などから、利用者が明確なメリットを実感するには至らなかったことが危惧される。利用者が主体的に「社会に貢献」するには、利用者が体感し、(強制ではなく)口コミで広がるほどの分かりやすいメリットが重要な鍵を握るのかもしれない。

<おわりに>

「知徳報恩」型のデータエコノミーはデータ活用の特徴的なモデルのひとつである。企業が提供するさまざまなサービスはもちろん、行政や学術・医療分野のサービスでもデータエコノミーモデルはサービスの普及・浸透に直結する。

今回は、コロナ禍に開発・運用が行われたCOCOAを例に、「知徳報恩」モデルによるデータ活用の意味を考察した。COCOAそのものの賛否はさておき、そこにはいろいろな気付きや学びがあった。デジタル時代、さまざまな「共創」型のデータ活用サービスが登場してきている。普段、何気なく使っているサービスでも、どんなデータを共有し、それが、自分自身にとってどんなメリットにつながるのか、を考えてみるのも面白いかもしれない。

※本内容の引用・転載を禁止します。

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