Jライブラリー

第2部 基調講演

ジンテック セミナー

次世代型地域金融を目指して

北國銀行 頭取 杖村 修司 氏

変革のトリガーはお客さまの声

北國銀行の業務改革における取り組みについて、20年ほど前にさかのぼったところからお話をさせていただきたいと思います。最近、DXという言葉がはやりだしていますが、私たちはITを使って社内改革を進めてきました。起点は2000年。顧客アンケートを第三者に委託して実施しました。紙のアンケートだけでなく、第三者にお客さまのところに出向いてインタビューもしていただき、その結果が出たのが2000年のちょうど今頃でした。われわれは石川県では一番シェアが高く、それなりの歴史がある銀行ですし、インタビューにお答えいただいたお客さまは、本部の営業部門と支店長が選んだ信頼性が高く、関係が強固なお客さまでしたが、結果は惨憺たるものでした。一言でまとめれば「今の銀行にはもう期待していない」。なぜなら、銀行は融資するか預金か決済だけで銀行はそれ以上でもそれ以下でもないから。それ以上の相談は弁護士、公認会計士、税理士、その他の様々なコンサルタントにしていると。そういうアンケート結果が出たことによって、当時の頭取から「これでは5年後、10年後、いわんや20年後には銀行はなくなるぞ。なんとかしなければ」と指令が出たことによりスタートしました。ですからわれわれの変革のトリガーはお客さまの声でした。

システムがついてこないなら人海戦術で

最初に取り組まなければならなかったのはコスト問題です。投資が進んでいくに伴い償却が始まり、ゆくゆくは決算が成り立たなくなる。従ってまずやらなければならないのはコスト体質を変えることでした。当時、われわれの銀行は3兆円前後の銀行でしたが、行員が約2,500名、パートを入れて3,000名弱で、経費が全体で365億円、1日1億円でした。ところが、どうシミュレーションしても様々な投資をしていくと、向こう5年くらいは税引き後の利益が10億とか15億とか。さらに不良債権処理、引き当てが進むと、もしかしたらゼロくらいになってしまう。そこでコスト削減を進めるために始めたのがエリア営業体制の導入、店舗統廃合でした。当時154店舗のフルバンキング体制でしたがエリア営業体制に向けて全部で30くらいのエリアに分けて母店を作り、残りを衛星店、いわゆる個人特化店にしました。それだけでは経費の削減具合が少ないので、残念ながら店舗統廃合をせざるを得ず、20%の統廃合しようと進めました。当時の銀行業務は当たり前のように支店別になっていて、いろんなサービスがその支店に行かないとできないシステム構成になっていましたから、そこでも議論百出。「システムを伴わなければ店舗統廃合ができない。いわんや、エリア制なんて無理だ」そういう議論もありましたが、そんなことを言っているとエリア制や店舗統廃合を始めるのが5年先になってしまう。ですから、システムがついてこないなら取りあえず人海戦術でエリア制、店舗統廃合を進めてしまおう。ある支店の端末をある支店まで持って行って設置し、その支店の中で取りあえず2つの支店のオペレーションをやってしまおうということになりました。事務に詳しい方はご存じだと思いますが、そうなると締め上げを2つ、ないしは3つやらなきゃいけないとか、いわゆる還元資料と言われているその支店でしか出てこない紙ベースの事務処理を最後にまとめて持って行くとか、なんとか人海戦術でやる術を考えました。何かあると「システムやオペレーションがついてこないと何もできない」という議論になりがちですが、プランB、プランCを考えて、できることからやるということに最初の5年くらいでチャレンジし、学べたことは大変貴重だったと思います。

入口はコスト体質の変革

コスト削減によりその先の展開が可能になり、結果として店舗統廃合とエリア制だけではなく、戦略的コスト削減を始めました。自分たちだけではノウハウがなかったので、億単位のコストをかけて戦略系のコンサルタントに入ってもらいましたが、あまりお金に余裕がありませんでしたから、実行フェーズは自分たちで行いました。すったもんだありながらも、自力で実行していったことで多くのノウハウが溜まったのはかえってよかったと感じていますし、2017年に365億円だった経費が今では280億円まで落ちました。現在はIT投資がかなり嵩んでいるので290億まで揺り戻っていますが、将来的には250億円くらいまで落ち、20年前と比較して115億円の削減になると試算しています。ビジネスモデルの変革や業務改革はお金がないとできません。ですから、コスト体質を変えていくというところが入口だと思います。

システムは経営のコアだからこそ自力で

ちょうど2000年頃、ある会社に運用も開発もITに関する全てをアウトソースしました。われわれの仮説は、アウトソースによってシステム部門は要らなくなり、プロフェッショナルなコアな人材が増え、質も良くなりスピードも速くなるというものでしたが、残念ながら実現できませんでした。そこで大きく方針を転換し、やっぱり自分たちでやろうと。2004年にシステム部をもう一度作り、できる限り自分たちで企画・開発して運用できる体制に戻すことを決めました。いったんアウトソースしたものを戻すというのは大変な作業でしたが、システムは経営のコア。「大きな柱であり力を付けていくべき」という方針に変えたことは非常に大きな、重要な決断であったと思います。

利己的にならず、お客さまを強くしていくことが最重要

取り組みのスタート時点で社員に伝えていたことは「1人当たりの給与は絶対下げない。むしろ増やしていく方向だが、生産性は上げていってほしい」ということ。余談になりますが、地方銀行のコスト削減はとても難しいんです。大体8割前後は地元のお客さまですから、戦略的コスト削減といっても、コンペをしてただ安い方を選択するという手法は取っていません。利己的にならず、お客さまも強くしていく。そういう姿勢を忘れずに進めることこそが、戦略的コスト削減、ストラテジックソーシングであって、そこを忘れずにやり遂げたこと、そして今でもやり続けているという点が一番大切なところだと思っています。

電子決済はボディーブローのように効く

われわれがグループウェアの刷新、決済の電子化を完成させたのは10年ほど前。世間では電子決済について、文化やマインドによる影響が語られますが、ツールそのものの使い勝手も大きな影響があると思います。われわれはPOWER EGGという非常にシンプルなグループウェアを導入し、それを使い倒そうとしたのがよかった。ウェブデータベース、あるいはバーチャル会議室といった機能もあり、その中でほぼ全ての業務が回せます。今、私の机の上には27インチのディスプレーがありますが、左側がPOWER EGG、右側がマイクロソフトのTeams。その両方を見ることで、仕事の8割5分くらいが終わります。残りはCRMとか融資支援システム、あるいは人事システムで、全てが完結します。ですから、基本的に行内業務において判子は要りません。いいクラウドシステムが導入でき、今月から取締役会の議事録にも判子が不要になりました。よく「ペーパーレスや判子の撤廃でどれぐらい利益に貢献できるんですか」と聞かれますが、「ボディーブローのように効いている」と実感しています。銀行はもちろん収益を上げなければなりませんが、“適正利益”というものがあると思います。われわれも収益を上げる様々な工夫をしていますが、一定を超えたものはどんどん地域に投資していきたい。最近は投資家の皆さんにもその辺りをご理解いただけるようになってきていると感じています。ペーパーレスや判子レスで年間10億、20億収益が上がるというものではありません。ですが、社員のストレスの軽減や、たまったノウハウをお客さまへのコンサルティングに活かせるということも含めて、トータルでは非常に大きな効果があると思います。

融資係を廃止し、事務を総合センターへ集約

2012年に営業店の融資係を廃止しました。いま考えても「何で分けていたんだろう」と思いますが、われわれも元々は融資係と外交係に分けていたんです。当時「お客さまを理解し、お客さまごとに取引方針を決めるところが出発点だ」という議論をしていて、その中で「何で融資係と外交係って分かれているんだっけ?」と論点が出てきました。そして、営業店での融資営業事務を総合事務センターへ移行、集約しました。営業店の現場では融資係をなくし、オペレーションも営業店でやらない。そういう改革を合わせて行ったことで非常に効果が上がったんではないかなと思っています。

経営戦略・営業戦略に合わせた人事

様々な改革を進めていく中で、人事部門を企画部門へ集約し廃止しました。当たり前ですが、人事は経営戦略、そして営業戦略と合わせなければなりません。それを突き詰めていった結果、現在は各部門で人事の案を作り、それを統合的に見るのが経営企画部の中にある人材開発室という形になりました。戦略に合った人事配置、人事施策がとれる一方、各部門は言い訳できない。そういう状況になっていること自体が、人事部門を企画部門へ集約した一番大きな効果だと感じています。

インターネットバンキングはお客さまのニーズ

2015年に勘定系システムを変えました。どうしてもやりたかったのはオープン系への変更。外部の様々なサブシステムとつながらなければならない時代に、オープン系で作っておかなければ、5年、10年、20年先を見たときに整合性が取れなくなる。また効率性、生産性の面も検討して実行しました。そして、われわれの変革は内部のシステム化、オペレーションを中心に進めてきましたが、5年ほど前からお客さまとの接点に力を入れ、インターネットバンキングの開発と運用に取り組んでいます。北國銀行の店舗も97店舗まで減り、最近のデータでは、1店舗当たりの平均の来店客数は、ATMだけを使う方を除けば100人を切りました。インターネットバンキングの目的は効率性の向上だけでなく、お客さまの利便性の向上でもあります。お客さまのニーズに合わせて素早く開発し、しっかりと運用していくためには、自前で作るのが一番です。昨年、マイクロソフト社のAzureで動かすクラウドバンキングをリリースしましたが、いまのところ大きなトラブルはありません。クラウドベースですから場合によってはコールセンターにつないで、Teamsでお話したりと、少しずつ自分たちで拡張していくことができる。しかも、自社で開発するとAzureの運用費用しかかからない。そういう意味でも、自社で開発する体制を整えるということは非常に重要なことだと考えています。

改革における時間短縮の要はオペレーションとIT時間

他の金融機関の若手の方から「北國銀行は2000年からそんなことをやっていたのか。10年、15年もかかるならとてもやっていられない」というお話をよく聞きます。15年もかかってしまった理由はオペレーションとITにあって、社風などではありません。オペレーションとITさえついてくれば、そんなに時間はかからないと思います。冒頭にお話したとおり、われわれは「まずできることからやっていこう」と進めてきました。「システムがついてこなくてもとりあえず進めていこう」というのも大切なんですが、システムとオペレーションが追い付かなければ事務のミスが増え、結局はお客さまにご迷惑がかかってしまいます。ですから、どこかのタイミングでオペレーションとITに集中する。そこさえ乗り越えればそんなに時間はかからないと思います。

飴と鞭の評価では顧客志向はなりたたない

こうしておけばよかったと後から思うことはいくつもありますが、最も大きなものは業績評価です。われわれは「ノルマなし」とマスコミにご紹介いただいた時が大きな転換点だったんですが、さらに5、6年早く、業績評価をやっていれば随分と進化が早かっただろうと感じています。われわれも2009年まではトップダウン型で、本部が残高件数と数値目標を決めて営業店に割り振っていました。本部は「いろんな特別な事情を考慮して調整しました」と説明しますから「なるほど。それなら現場も満足だろう」と思っていた経営陣も多かったんだと思います。でも、実際には地区によってお客さまのボリュームも違えば業種も違う。各エリアに張られる人材だって異なります。ですから今から振り返れば本部で勝手に目標を振り分けて「現場と議論しました」なんてよくやっていたなと。そしてその中での優績者の手法といえば、今からもう10年近く前とはいえ、あまりにも稚拙だったと反省しています。ノルマを廃止し、今は残高や件数といったKPIは現場に決めてもらっています。本部はどちらかというとサーバント型本部として機能していて、営業店が決めたKPIをどうやったら達成できるのか。例えば人材面などをサポートする。そういう役割にしています。それによって営業現場の動きが全く変わり、大きく進歩しました。結局、顧客志向と言いながら、業績評価が昔のままでは絵に描いた餅でしかない。飴と鞭の評価では、コンサルティングによるお客さま中心の営業は不可能だと思います。

ECサイトは地域企業の複合的なツール

カード事業を基点としたキャッシュレス環境の創出、地域活性化を目的とするプラットフォームとしてECサイトを運営しています。カード戦略、キャッシュレス戦略、あるいはお客さまの事務BPR、それら全部をつなげた複合的なツールとしてのECサイトという位置付けでやらなければ上手く機能しないと考えています。われわれはAmazonや楽天のように大きな投資ができるわけではないですし、これで儲けようという事業でもありません。地域企業の販路開拓には楽天やAmazon、都会の百貨店への出店という道もありますが、売り上げは上がっても儲けはゼロどころか赤字というところがほとんどですから、実際はかなり厳しい道です。開始からまだ1年ちょっとですが、これから販路をしっかり作り、5年、10年と経過していけば、必ずお客さまをサポートできる、共に繁栄できるチャンネルになると信じています。Amazonでさえ黒字になるのに10年近くかかったわけですから、スタッフには10年は赤字でもいいよと伝えて進めています。

リーマンショックの反省からサービサーを立ち上げる

コンサルティングは構想が20年前、実際に始めたのが10年前、そして有料化できたのは6年前です。われわれにはリーマンショックで各企業の状況が非常に悪くなった時に、やや力不足だったという反省があります。力不足だった点は3つあって、一つは、当時、自前の債権回収会社がなかったこと。外のサービサーを利用せざるを得ませんでした。当たり前ですが彼らは儲けなきゃいけないですから、残念ながら思いどおりにはコントロールできませんでした。もう一つは、再生ファンドがなくノウハウもなかったこと。そして最後は悪くなった先を支援するコンサルティングのノウハウも人材もなかったということ。これらの反省を基に、まずサービサーを作りました。債権回収会社というと、一般的には悪くなったところから回収するための会社と思いがちですが、再生には不可欠です。ファンドも自分たちも身銭を切りつつ、中小企業基盤整備機構、REVIC、中小企業支援機構とコラボレーションし、“いしかわ中小企業再生ファンド”として現在3号ファンドを設立し、総額70億円を運用。地域を支える企業の存続や地域の持続的な成長を支援しています。

将来のビジョンに向かった取り組みこそが重要

コンサルティング部隊には現在100名が在籍しています。この部隊はビジネスマッチングだけではなく、経営戦略やIT戦略の立案から人事施策の構築まで、本気の本業としてのコンサルティングをしています。この人材をさらに高度化し、なおかつ個社を超えて面でコンサルティングをしていかなければならないと考えています。例えば旅館業の3社をまとめてセントラルキッチンを作って応援するような面のコンサルティングをどんどんやっていくフェーズに来たと感じています。そのためには、事業再生をしていくノウハウを積み上げ、地公体の皆さん、あるいは他のファンド会社とも連携しながらのファンドも早急に整えていきたいと考えています。最も重要、かつ難易度が高いのは営業の変革です。コンサルティングの売り上げは100人で年間およそ7~8億円。人件費はまかなえても、物件費までは出ないという状況です。カード事業も事業全体で10億弱の儲けがありますが、ものすごく儲かっているかといえばそうでもない。再生ファンドもそこそこです。だったら違うところに投入した方がもっと儲かるんじゃないかという議論もあるとは思います。ただ地域金融機関には、そして地方創生には目先の利益よりも5年、10年後に向けた大きなビジョンが必要です。ですから、われわれの取り組みは、未来に向かって絶対に必要なことだと信じて進めてきました。ようやくそれぞれが巡航速度になってきましたので、ぜひともここから数年の間に、さらに高いレベルになるように力を入れていきたいと思います。

カスタマイズを極力抑えればシステム移管は怖くない

金融機関の経営陣、あるいはトップの方からすると「システムってやっぱり怖い」という印象があると思います。東証のシステムトラブルもあり「トラブルが一度起これば、重い責任問題に発展してしまうから、あまり手を付けない方がいい」。そういうマインドになりがちですが、私は勘定系のシステムを変えていくこと自体はそんなに難しくないと思っています。われわれの場合は、IBMから日本ユニシスに移行するのに決断からカットオーバーまで3年ほどでした。なぜそれが可能だったのか。分かりやすく、語弊を恐れず言うと、システム移行は引っ越しと同じだと思うんです。新しい家に引っ越す時に、同じ形の家に違う世帯がたくさん入っていて、電気やガスなどの必要なインフラが既に普通に動いていれば全く問題ないはずです。あとは自分たちの荷物を移行するだけ。そして移行の時に「このテーブルはここ、ここの椅子はここ」あるいは、「こういう道具はここに入れる」としっかり定義して、引っ越しの練習をしっかりする。われわれの場合は10回以上練習をしました。この場合の荷物はデータですね。でも「新しい家のここが気にいらないから改装しましょう」とか、「こういう別棟も付けましょう」とか言いだすと、引っ越した後に「この別棟に入れませんでした」というようなことが起きるんです。改築したければ、引っ越した後にすればいい。取りあえずは引っ越しの中身、データの置き場さえきちんと定義すれば、勘定系を移行するのはそんなに怖いことではないと思います。実際に6年前のお正月に移行作業をしましたが、何の問題もなく動いています。ですから、独自性を出したいときは移行してから。カスタマイズを極力抑えれば何ら問題ないと思っています。

最新の技術で生産性を上げコストを下げる

サブシステムを含めたオープン勘定系をクラウド上で動かしていれば、つなぎの通信サーバーなど余計なものは一切要りません。ですから、そこにつながっているCRM、タブレット、あるいは営業店端末、インターネットバンキング。そういったものも勘定系さえ移行すれば全て使える状態になる。クラウドで勘定系のサブシステムを展開することで、非常に分かりやすいシステム構築が可能になります。しかもわれわれは、このあたりのサブシステムを全て自分達で作りこみをしています。今、システム領域ではDXの話ばかりされますが、われわれはその裏にあるシステムの近代化の方が重要だと考えています。システムの近代化は著しくて、新しい技術を使っているからこそGAFAはこれだけ伸びている。新しい技術をどんどん使っていくことによって生産性が上がり、コストは落ちていきます。これからやるべきことは、ただクラウドに上げるだけではなく、それを活かすための新しい技術、新しいアーキテクチャーを使っていくということです。われわれは2024年にさらにモダナイズした勘定系に替えていきます。技術的にはPaaS化といいますが、それも見通してクラウド上に全てのシステムを上げています。われわれは中堅行で、人もいないしお金もない。ですから一緒に作っていただいたパートナーの方にそれを無償提供していきたいと考えています。もし売りたいというベンダーがいらっしゃり、ご興味のある中小の金融機関があれば使っていただき、移行した後にどんどんカスタマイズしていただくのもよいのではないか、そんなふうに思っています。

←『可能性の地域金融』」へ戻る

pagetop