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第1部 対談

ジンテック セミナー

組織変革とリーダーシップ~組織文化はなぜ勝・敗を決定づけるのか~

【登壇者】
元金融庁長官 遠藤 俊英
チームボックス 代表取締役 中竹 竜二

【モデレーター】
前金融庁 監督局 地域金融企画室長 日下 智晴

日下:本日の対談のテーマは「今求められる組織の心理的安全性とリーダーシップ」です。遠藤元長官と中竹さんの対談は前回に続いて2回目となりますが、組織文化の改革について、前回以上に多くの気づきや答えを得られるような時間になればと願っています。まずは中竹さんから新刊『ウィニングカルチャー』を踏まえたお話を、続いて金融庁長官を退任後、ソニーに移られ、様々な対話をし続けていらっしゃる遠藤さんからお話しいただきます。よろしくお願いします。

チームボックス代表取締役 中竹 竜二 氏

ビジネスは目に見えるものを中心にまわっている

組織の中を“目で見える領域”と“目に見えない領域”の大きく2つに分けたときに、目に見える領域って何でしょう。財務諸表、事業計画戦略、製品、商品、サービス、これらは全部見えますよね。逆に見えないものとは何か。そう聞かれると「え?見えないものって何だろう?」と思いますか。「見えるものと見えないもの、どちらを重視していますか?」と言われたらどうでしょうか。われわれは事業方針や制度、商品やサービスだけでなく、「お客さまの声が聞きたい」と思ったら満足度調査やヒアリングをし、目に見えるようにして共有します。仕事は目に見えるものを中心に進んでいくんです。でも心のどこかに「本当に目に見えるものだけでいいのか」と戸惑いがないですか。この目に見えないところが組織文化だと僕は思っています。

組織文化と愛の共通項

皆さん“愛”という言葉を聞いたことはあると思うんですが、これを自分の言葉として使ったことはありますか。「愛とはね」「俺の愛は」みたいな。私の愛という言葉を使ったことがあるという方はどれぐらいいるでしょうか(会場に挙手を求める)。使ったことない方は。じゃあこれはどうでしょう。「愛は大切ですか」と聞かれたときにイエスの方(会場に挙手を求める)。ノーの方は…あまりいないですよね。では「愛とは何ですか」という質問に答えられる方はいますか。実は愛と組織文化って似ているんです。聞いたことはあるけれど、言葉としてほとんど使わない。大切だと思っているにもかかわらず答えられない。組織文化ってそういうものだと僕は思っています。愛は大切だけれど「愛が大事だ」と愛ばかり叫んでいると、「もう愛はいいから働けよ」とか「愛はいいからお金を頂戴」となってきます。男女間でもありますね。愛は大事だと分かっているけれど、態度で示してとか、もので示してとか。会社もそうです。組織文化やつながりが大事だと言いながら「もうちょっとちゃんと働いてね」と。すごく大事だと思っているけれど、公言するにはためらいがあって、なおかつ扱いづらくて答えがない。これが愛と組織文化の共通項です。

ドラッカーの真意

「文化は戦略に勝る」。ピーター・ドラッカーの言葉です。戦略の専門家が「戦略は大事だが、根底としては文化のほうが圧倒的に大事だ」と言っています。ドラッカーはこれを強調して言っていたにもかかわらずあまり出てこないのが面白いところで、受け手が「そんなことはいいから戦略を教えてよ」と言うから広がらない。ドラッカーが本当に伝えたかったのは「目に見えないものを大事にしないと、目に見えるものがちゃんと整理されませんよ」ということ。「真のリーダーは戦略だけじゃなく組織文化をつくる」と強くうたっています。

組織文化の持つ暗黙の問い

「愛とは何か」と聞かれたときに誰もうまく答えられないし、みんな答えが違っているのと同じで「組織文化とは何か」という問いについても、いろんな人がいろんなことを言っています。日本の文化研究の第一人者である山本七平さんの著書『「空気」の研究』では、組織文化は“空気”だと書かれています。経営戦略の楠木建先生は「組織文化は組織が持つ個人ではなく、組織が団体として持つ好き嫌いだ」と言っています。例えばGAFAとしてまとめられていても、アップルとアマゾンの組織文化は全然違う。極論するとアップルはデスクと椅子。エンジニアのデスクと椅子に相当な金をかけて、かっこいい心地いいものを、好きなものを選んで仕事をしてくれというスタンスです。アマゾンは逆で、とにかくコストは減らせ、ですね。これは文化です。ルールとして明文化されていないけれど、そうなっている。いいとか悪いとかじゃないんです。また、組織文化には暗黙の問いがあります。例えば早稲田大学ラグビー部で言えば、赤と黒のジャージ、通称赤黒を着たのか。「試合に出たのか」という意味なんですが「赤黒を着ていないやつが何を言っているんだ」みたいな空気があります。他にもOBからの「おまえたちは優勝したの?していなくて何言ってるんだ」みたいな問いもあります。僕はそういう文化が大嫌いだったから、キャプテンになった時にいかにしてそれを変えるか、若いながら非常に苦心して変革しました。こういった暗黙の問いは気付くのがすごく難しいです。

組織変革のフェーズ―“知る”ことの重要性

僕の仕事は組織カルチャーの変容を支援することですが、変えるにあたっては知るフェーズ、変えるフェーズ、進化フェーズの3つのフェーズがあります。多くの人が「本読みました。組織文化を変えたいです。いち早くお願いします」とおっしゃるんですが、僕は「待って。すぐには変えられませんよ」と言います。最初の知るフェーズをしっかりやることがとても大事だからです。今の状況、組織文化、どこに向かっているかが分からないまま変えても、すぐ戻ります。ダイエットと同じでリバウンドするんですね。リバウンドすると元に戻るというより悪くなるので気を付けてくださいとお話します。組織には意識と無意識の領域がありますが、知るフェーズでは無意識の、見えない部分にある“何となくやっている習慣”をあぶり出していきます。チームボックスという私の会社では、それをあぶり出すための診断ツールを各種持っていますが、例えば33の要素をみるサーベイがあります。それで、規律性を大事にするのか、タフネスを大事にするのか、一貫性の有無などを見ていきます。

使う言葉に組織文化が表れる

組織文化は使っている言葉でも見えてきます。最近、面白かったのは内閣府の人事院、省庁の人材育成機関との打ち合わせです。依頼は「一人ひとりもっと自立・自走してほしい」というものなのですが、「タイトルは主体性にしてください」と。どういうことかと聞くと「自立・自走と言ってしまうと勝手にやるんじゃないかという懸念があって、なるべく使わないようにしている」と言うんですね。目指しているのは自立・自走。けれども使っちゃいけない。この文化はすごく面白いと思いました。今回は仕方ないとしても、まずはこれを変えましょうと話をしました。本当に言いたいことを言わないなんて、一番もったいない。変える手立てを考えるべきです。もう一つ、外資の製薬会社の例です。リーダーシップの研修をしてほしいけれども、研修ではリーダーシップという言葉を使わず、自己成長と言い換えてくださいと言うんですね。研修の対象者は日本でいうと課長レベルだったんですが、リーダーシップを学ぶのはその上の部長レベルなので、言葉がバッティングするのは困るから使わないでくださいと。そういうことってよく起こるんです。本人たちはそのおかしさに気付いていない。だからこそ外からの目線が必要なんですね。ですから私は一歩引いて、その人たちが普段気付かない違和感なんかをあえて言語化していきます。

対極視点法-最高と最悪の両方を見極める

物事の視点を変換することが僕の専門領域の一つなんですが、知るフェーズでも“対極視点法”というものを使っています。人間は理想が見えるとついゴールに向かって走り出したくなるんですが、これは危険です。立ち止まって最低・最悪の側も見ないといけない。理想と最悪の両方をみることが大切です。組織文化の現在地点が分かって、こんな組織文化にしたいという理想がある程度見えたら、すぐさま行かずに「間違ってもこんな組織文化にはしたくない」という非理想を明言化します。そうしないと気づかぬうちによかれと思ってやっていることが、最悪な組織文化に向かっているということが起きてしまいます。本当に変えていく手前のところ、知るフェーズは重要です。ぜひ皆さん、ちょっと立ち止まって考えてほしいと思います。

元金融庁長官 遠藤 俊英 氏

金融庁の改革は金融機関の変革へとつながっていく

昨年の夏に金融庁長官を退任し、現在はソニーグループに属しています。今日は組織文化の寛容と組織変革というテーマでお話をしたいと思います。1年半前に中竹さんと対談をさせていただいた時に、上の人間が上命下達のような形で下に指示を下す、一般職員同士の横のつながりが細く組織の枠にとどまっている、そんな当時の金融庁の組織構造を変えたいという話をしました。むしろ下から上にあがってきてほしいし、一般職員同士の横のつながりを太くし、組織の枠をはみ出すような組織を作っていきたいと思っていたんですね。これは金融庁の改革であると同時に、われわれのカウンターパートである金融機関の組織を変えるという狙いもありました。金融機関と議論をしても、なかなかビビッドに反応してくれない、組織が動かないという印象があり、いろいろ考えました。金融庁や金融機関の組織はピラミッド型で、経営陣が経営理念やパーパスを設定し、それを基にして経営戦略が策定され、PDCAを実行していきます。ところがいくら立派な経営理念やパーパスがあっても、実際のオペレーションはノルマ至上主義で、その結果、心理的プレッシャーを与えているようにみえました。経営理念やパーパスを職員が腹落ちさせ、自主性や自立性を持ち、お客さんと共に実現するということが出来ていないと感じていたんです。これを実現するにはガバナンスがキーになる。取締役会と経営陣のよい緊張関係によりガバナンスが生まれ、それによって初めて有効な議論が行われて、変わっていくのではないか。そう考えました。金融庁も金融機関に対する検査・監督の仕方を変え、金融機関が自立しながら変化することを応援する。心理的安全性を確保して金融庁と金融機関が対話をするためには、金融庁自身が変わることによる説得力のある対話が必要だと考え、金融庁の改革はスタートしました。

政策オープンラボから地域に入っていく

金融庁の改革の一つとして、職員のイノベーションを促進するための場である“政策オープンラボ”という新しいプロジェクトを立ち上げました。政策オープンラボは、業務時間の2割をプロジェクトに充てられるようにし、自分がやりたいことを金融庁外の人も含んだ仲間と一緒に実現してみようというもので、14のチーム、120名の若手が参加しました。一番大きく広がったのは、金融庁のネットワークを活用した地域課題解決支援で、その中心になったのが年に何回か大きな会合が開かれる“ちいきん会”という組織です。これをベースに地域に入っていき、さらにそこでグループを作りながら地域における独自の課題を現実的に解決していこうという動きが広がりました。ちいきん会の最近の発表の中で非常に印象的だったのが、四国財務局のグループです。寺西くんという職員が中心で、彼のロックフェスティバルということで“テラロック”という活動なんですが、財務局だけではなく、地域の若者を集めて、さまざまな議論がされました。このテラロックの参加者からは「テラロックを通して自分らしく生きてもいいんだと、同調圧力の組織で苦しんでいた私は思考の転換をいただきました。」「金融管財事務中心と思われていた財務局の活動の幅を目に見える形で広げ、全国各地で類似の取り組みが立ち上がったということですね。」「端的に言えば組織や肩書きを超えた心理的安全な場、これは部活動だと思っている。」という声があがっています。こうした部活動は組織経済がどうすることもできない問題に対処できる可能性があります。こうしたつながりをきっかけに地域に移り住もうとか、地域から離れるのをやめようとか、あるいは地域に戻ろうとか。あるいはこういう面白いことをやってみよう、面白いことがあるなら顔を出してみよう。こうした活動は挑戦する人を応援できますし、参加した人同士の触れ合いから化学反応が起きます。この活動は今も引き継がれていて、最新の金融レポートでも、ちいきん会を中心とした地域課題解決の取り組みを継続することを宣言しています。

ソニー回復の源はパーパスとコーポレートダイレクション

企業にも栄枯盛衰のようなものはあり、ソニーも2000年代は非常に苦労しました。そこから回復するにあたって実施したのが、パーパスの再定義、コーポレートダイレクションの決定です。井深さんや盛田さんが言っていた原点に戻るけれど、多くの人の腑に落ちるような、今風な形にするにはどうすればいいかを経営陣が一生懸命考えたんです。その結果生まれたのが「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」というソニーのパーパスであり、コーポレートダイレクションです。この3年間トップを務めている吉田さんは、今年のコーポレートレコードで「ソニーという会社は戦略立案よりも実行力が重要だと考えている。その実行力を担保するのはパーパスに支えられた企業文化です。パーパスを定義し、企業文化として定着してきたことが、私のCEOとしての3年間の最も重要な成果であり、ソニーの11万人の社員は感動を世界に届けることの社会的意義を改めて実感しています」と言っています。ソニーはパーパスに支えられた企業文化をつくるためにいろんな施策を取っていますが、代表的な施策は2014年にできたSony Startup Acceleration Program―SSAPというイニシアチブです。経営が苦しく、赤字が続き、リストラが進んでいた時代に、社員が持つイノベーション、新しいものを作りたいというマインドを実現するために社内で議論をし、下から上がってきたのがこのプログラムなんですが、現在では社会や他の企業にも還元しようと、ソニーがサポートする形で社外と協力しながら大きく発展しています。

右脳と左脳のバランス

カルチャー”は企業文化、組織風土、空気、土壌といったさまざまな言葉で語られます。『イノベーションのジレンマ』を書いたハーバードのクレイトン・クリステンセンはプロセスと価値基準と言っていますが、これもクリステンセン流の書き方で、要はカルチャーのことを言っていると思います。結局は左脳と右脳、両方の議論をバランスよくやらなければ、組織はなかなかうまくいかない。そう感じています。金融機関で語られる様々なコンセプトを、改めて左脳と右脳という観点で整理し直してみました。最上位にあるパーパスや理念、バリューは右脳の領域に属します。パーパスをさらに具体化したビジョンやミッション、行動規範や行動指針。あるいはリーダーシップ、フォロワーシップなどは右脳、左脳どちらにも属する。ビジネスモデル、経営戦略、経営計画、管理体制、人事戦略、人事育成、マニュアルやノルマは左脳領域です。こうしてみてみると、通常、金融庁や金融機関が関わっているのはみんな左脳部分だということが分かります。右脳属性のものについて金融庁と金融機関が語るということはあまりないんですね。自主性、自立性、自分ごと化、モチベーション、一体感、コミュニケーション、腹落ち感、心理的安全性、傾聴。こういった問題は組織にとって非常に重要ですが、それについて語ったり議論したりすることはあまり行われてきませんでした。

カルチャー醸成に関する金融機関の取り組み

MUFGのディスクロージャー誌をみると「カルチャー改革」について2ページにわたって書かれ、基本方針には、カルチャーに対する考え方、それが企業経営にどう結び付くかが明確に述べられています。SMFGも組織風土に重きを置いていて、社内SNSを立ち上げたり、太田社長が従業員との車座対話を行ったりしています。また、みずほFGも組織風土を耕していくために、社員向けの動画配信などをしています。一方、地域金融機関をみてみると、北國銀行のディスクロージャー誌にも同じようなことが書いてあります。北國銀行というとデジタルトランスフォーメーションが前面に出がちですが、ディスクロージャー誌には「デジタルトランスフォーメーションを通じて、広い定義での働き方を変えていく」と書かれていて“広い定義の働き方”とは、意思決定プロセスや権限、判断基準や組織文化であると書いてあるんですね。北國銀行はデジタルトランスフォーメーションというツールを使って、組織文化を変えようとしているわけです。京都信用金庫は『Cスクエア』というタブロイド紙を毎月出していますが、2019年4月の創刊号で“日本一コミュニケーションが豊かな会社を作るために”という見出しで、全職員2,000人で行ったダイアログについて紹介しています。自分たちの経営理念は何か、目指すものは何か、われわれは何者なのかを議論し、そこから自分たちが行うべきことを考えた。これも素晴らしい取り組みだと思います。

組織文化変革 5つのチャレンジ

この1年間、多くの方と議論をし、いろいろと考えましたが、結局は組織の右脳、組織文化を耕すことが非常に重要だということころにいきつきました。そして、多くの金融機関がそのための施策を打ち、チャレンジしているように思います。そんな事例をパターン化して5つにまとめてみました。1つ目はパーパス、バリューの再定義、行動指針の見直しです。パーパス、バリュー、行動指針の策定過程に社員を参加させ、出来上がった文言に対して刺さるワンフレーズを作られています。2つ目はトップ、あるいは経営陣と社員のリアルな接点を作る。タウンホールミーティングの実施などですね。3つ目はコミュニケーションツールの活用。社内SNSやタブロイド紙です。これは情報や職員の体験した経験や感動を共有するためのツールとして使われていますが、ツールを使うことによってアクセスを容易にし、野中郁次郎先生がおっしゃっている“暗黙知”を“形式知”にする試みが行われていると思います。4つ目はイノベーションマインドの涵養です。例えば組織トップが外部有識者と対談して社内SNSで職員に伝えるとか、社内ポストの公募をするとか。ベンチャー企業を中心に他の企業に出向させる、出向先で経営経験をさせるといったこともあります。政策オープンラボやソニーの取り組みのように、社内起業コンテストを実施して、経営がそれを支援するといった試みも有効だと思います。最後の5つ目は心理的安全性の確保で、1 on 1ミーティングの実施。重要なのは対話、傾聴、アクティブリスニングです。自分は何をすべきかを理解し、仕事に取り組む。自分ごとマインドへの転換です。組織の右脳を耕すパターンをまとめると、こんな形になるのではないかと感じています。

対談

前金融庁長官 遠藤 俊英 氏×チームボックス代表取締役 中竹 竜二 氏

日下:中竹さんのおっしゃっていた見える・見えないという言葉が、遠藤さんの左脳・右脳に転換され、符合しているように感じますね。

中竹:まさにそうですね。右脳左脳のほうが分かりやすいかもしれません。最後に5つに分けたところも、右脳の観点から左脳に移り、具体的な施策に落とし込まれていて、右脳と左脳、見えるものと見えないものを行ったり来たりするのが大事だと、改めて感じました。

日下:目に見えない領域に入っていく、あるいは遠藤さんの言葉で言う右脳の領域に入っていくには、問いかけから本質を引っ張り出すことが大事だと思うんですが、その辺りはいかかがですか。

中竹:私たちは一緒にいる人のことを知りたいと思います。これは人間の心理です。経歴、バックグラウンド、その人の持つ知見などを知りたがりますが、本質的にはその人がどう思っているかを知りたいんですよね。でもそれって内側にあるものなので、外から見てもわからない。問いかけないと出てきません。普段使っている問いだと答えが決まっているので、普段聞かれないことやはっとするような問いがいいですね。相手がもやもやした顔をしていたら、それはどこから来ているのか問いかけてみるとか。本人も気づいていないところに問いを投げかけていくことが大切だと思います。

日下:金融庁の新しい組織文化も定着をしてきて、少人数グループや1 on 1ミーティングもリーダーからメンバーへの問いかけを中心に行われるようになってきています。『ソニー再生』には平井さんが全ての現場に行き、どんなことを考えているかを聞いて回ったと書いてありましたが、遠藤さんもソニーに入られて同じようにされたのではないでしょうか。どんな問いかけをされましたか。

遠藤:ソニーはなんといってもエンジニアの会社ですから、これまで縁がなかったエンジニアの方と「どういう製品を作っているのか」「どういう基礎研究をやられているのか」をお聞きして回りました。面白いと思ったのはデディケーションで、普通はどうしても上からいろいろ言ってしまうと思うんですが、任せるというか、自主自立というか。監視、コントロールせずに任せちゃうんですね。ソニーは大きすぎてトップが全部をみることはできませんから、当然といえば当然ですが、それにしてもそれぞれの分野を完全に任せている。任せられた人達と話をすると「吉田社長が言っている経営方針を、私はこういう形で実現しています」とみなさん自信を持って言うんですね。クリエイティビティとテクノロジーで世の中を感動に満たすというのを、私の仕事だとこうやっているんだと。完全に任せられ、自分の判断で独自に仕事をしていますが、根っこにはパーパスやコーポレートダイレクションがしっかりとあって、それを軸に仕事をしている組織なんだなと。大きな組織になればなるほどパーパス、経営理念、行動指針といったものが非常に重要だということを、改めて感じています。

日下:「任せる」という言葉は『ウィニングカルチャー』の中にも出てきましたよね。

中竹:コーチングは物事をティーチ、あるいはテルして伝えていくプッシュ型か、質問して引き出すプル型かに大きく分かれます。今までのリーダーは基本的にプッシュ型でやってきて、その結果として組織が強くなったのも事実ですが、今はプッシュ型からプル型に移行して、究極的には両方を使い分けるようになってきています。また、コーチのスキルの一つである問いかけはとても大事ですが、残念ながら問いかけだけじゃ変わらないんです。最後は遠藤さんがおっしゃっていたデディケーションしないと。チームボックスではオムロンをずっとサポートしているんですが、山田社長がある場でのスピーチで非常にいいことをおっしゃいました。「この10年、いろんな企業の社長から、どうやったら理念を浸透させていけるんですか、パーパスの実現ってどうやったらうまくいくんですかということを聞かれてきたけれど、今年、ふとその問いに違和感を覚えた」と。理念の浸透や組織文化の浸透ということ自体が違うんじゃないかとおっしゃった。「浸透は結果であって、僕が今までやってきたのはそこで働く社員を信じ、彼らの情熱や思いを開放させることにある」と。「本来そこにいる人たちはみんな素晴らしい人材で情熱もある。けれどもそれを閉じている、真面目に働いてきた人の扉を開け、個の解放をすることこそが、結果的に文化の浸透になる」というスピーチで、その通りだと思いました。きれいごとを並べるだけでは組織文化は変わりません。

日下:オーセンティックなリーダーシップについてもお話しいただけますか。

中竹:リーダーシップの研究でいま一番、論文数が多いテーマはオーセンティックです。ちょっと前まではサーバント・リーダーシップとかシチュエーショナル・リーダーシップ、フォロワーシップが注目されていましたよね。でも現在ではハーバードを含めたリーダーシップ研究の最先端の場では、オーセンティック・リーダーシップが注目されています。オーセンティックは日本語では“本質的”といったちょっと高尚な訳語があてられますが、もっとシンプルにいうと「自分らしくいましょう」という言葉になります。自分らしくあることが、いい組織をつくり、いいカルチャーをつくるんですね。優れたリーダー500人を対象に共通項を調べる研究をしたんです。そうしたら共通項はなかった。でも「みんながその人らしくやっていた」という点は同じでした。誰かのまねではなく、その人の本来の好き嫌いに基づいて動いていたんですね。好き嫌いって究極的には理由がありません。人に関しても、食べるものも、何で好きかと聞かれても「理由はないけど好きなんだよ」ということが多い。わけが分からないけれど、理由もないけどわくわくする感覚。これを解き放つことがリーダーにとって大事なんです。いままでは「リーダーはこうあるべき」論が強すぎて、本当はもっと自分らしくやりたくてもできなかった。人は自分らしく頑張ればもっと力が出せるんですが、組織に入った瞬間からアナザージョブ、もう1つの仕事を勝手にやり始めます。皆さん、今この瞬間、普段働いている時、もっといえば家族といる時と同じ感覚でいられますか。たぶんいつもより背筋が伸びて、失礼がないようにという感覚があると思います。人から見られている感覚。これを全部とっぱらって、本当に自分でいいという気持ちになったときに、人間の力は100%発揮されます。これはスポーツ界でいうところのゾーンとかフローとかいうもので「失敗したらどうしよう」ではなく、純粋にそれに浸っている感覚が最もパフォーマンスが高いんです。みんな分かっていても、恥ずかしいとか怖いという気持ちがあって立ち止まってしまう。だからこそリーダー自らが正直に弱さをさらけ出すことが重要なんです。「ごめん、ちょっと失敗した」「言い間違えちゃった」「きのうはちょっと怒り過ぎてごめんね」。そういったことをさらけ出していくということが、組織文化を変えるにあたって、いま最も重要なリーダーシップだといわれています。

日下:遠藤さんは金融庁長官時代にご自身のリーダーシップについてどのようにお考えになっていましたか。

遠藤:「相手は何を感じているんだろう」ということを想像する。相手の立場に立ってものを考えるということを常に心がけていましたね。例えば、検査局の総務課長をやっているといろいろな報告会があるんです。さまざまな報告がありますが、良いところの報告はほとんどなく、もう駄目出しのオンパレード。私はそれを聞きながら「あなたがこの銀行の経営者だったらどうするか」「いろんな環境があって、人材についても資本についても制約がある中で、今できるベストはなんなんだ」と質問していきます。相手の立場に立って考えずに、これもあれも駄目、100点じゃないと言ってもしょうがないだろうと。それでは相手は「だったらどうすればいいんですか」となっちゃいますよね。先ほど左脳・右脳と言いましたが、行政はどうしても左脳で動いていて、理屈を並べがち。でも理屈だけじゃ組織は動きません。左脳の議論だけをしていても悪循環が続くだけで、本質的な金融機関や金融行政の進展はないと思うんです。もし自分が言われる側だったらどうか。「俺にはちょっと次の一手は考えつかない」と思ったら、その自分の気持ちを正直に話してみる。「いろんな問題があるし、私もあなたの立場だったらなかなか難しいかもしれません。でも、ここから手を付けたらどうですか」という一歩踏み込んだ対話が、行政と金融機関の間でもできるはずです。そのためにも相手の立場に立ってものを考えるということが大事だと思います。

日下:遠藤さんは歴代の金融庁の長官の中では最もオーセンティックでプル型のリーダーだったなと感じています。時代の背景もあり、本質に近づくにはそれが必要だと皆さん感じ始めている。どうやって本音に近づいていったらいいでしょうか。

中竹:まずはこちらが表明しないと。みなさんこちらの本音を言わないで、相手に問いを投げがちです。いまの遠藤さんのお話にもあった「相手の立場になったらどうか」と考えるところがオーセンティックです。これまでの金融庁、あるいはリーダーは、頭の中で無意識に「正しいことをやらなきゃ」「正解を言わなきゃ」「それ以外は言っちゃ駄目だ」と思っていた。でも、オーセンティックなリーダー達はAかBかあった時に、「あなたの気持ちはよくわかる。あなたの立場なら俺もAと言いたい。けれども、新しい社会をつくるためにお互いに痛みと責任を伴ってBに行こうよ。」と投げかけるんですね。あたかもそこに自分がいないかのように「国がAと言っています」と正論を言って逃れようとするのって、実は自分の在り方を表明していることになります。自分も苦しんでいるという姿を見せ、ためらいながらも、本音でしっかりものを言うのが大事です。そこに本質的なオーセンティシティが出るんです。

日下:遠藤さん、今の中竹さんのコメントを受けられていかがですか。

遠藤:今の「国としてはAなんだけれども、自分はBと感じるよ」というお話は本当にそうだと思います。そういう形で自分の素を出すことが今の時代に求められるリーダーシップなんだとすると、アカデミックな理論はすごいところまで発展してきているように感じます。人間の気持ちのようなものについて分析された、オーセンティック・リーダーシップについてお伺いすると、やっぱりそうだよなと腑に落ちます。金融庁を離れ、さらに自由な立場になったこともあって、金融機関の皆さんに「どんどん言いましょう、いいですよ」と話すんですが、多くの方が「そんなことを本当に言っちゃっていいんですか」「そんなことを言ったら……」とおっしゃるんです。でも、そんなことを言ったからって何が起こるんでしょうか。あなたが自分の思ったことを正直に言ったところで、行政処分なんか起きませんし、仮に行政処分になったって構わないんです。「これ以上はやっちゃだめ」という空気、日本的な横並び意識が邪魔をしているように感じます。思うがままやりたいと思っている金融機関の方もいると思います。そういう方は自分の思いに正直に動けばいいし、そのまま、まっすぐな思いを当局にもぶつけたらいい。オーセンティックに、気持ちを素直に出して議論することで信頼が増し、金融機関も金融行政も今よりもレベルが上がっていくはずです。結果として地域にも日本経済にもプラスの影響を与えられると思っています。

日下:地域金融を縛っている暗黙の問いをどうしていったらいいでしょうか。

中竹:皆さんの中には「これを言っちゃ駄目」ということがたくさんあると思います。そうすると裸の王様の物語にはまっていきます。多元的無知、あるいは同調圧力というやつですね。「これを言うとまずい。なぜならみんなもまずいと思っているから」という心理です。みんなも本当はそう思っていないのに、自分以外はそう思っているという勘違い、錯覚です。王様は裸だと言った子どもように、誰かが口火を切るためにはどうしたらいいか。安全な場で問いかけをしていくしかありません。「何か違和感があるよね」「何かもやもやするんだけれど」からでいいんです。言語化することによって「それって何だろう」という思考に進みます。ですから、皆さんもちょっとおかしいな、違和感があるなという感覚を大切にしながら、それを話せる関係性を作っていくとよいと思います。

日下:先ほどご紹介いただいたテラロックでも「同調圧力についてあの場で話すことによって少し解放された」という話がありましたが、同調圧力から離れるという意味で、組織を離れて活動をすることの意義ってなんでしょう。

遠藤:ちいきん会の活動は、地域活性化について思いを同じくしている人が集まり、議論して、実行していいんだという意識が全国に広まって、深くなっていっているんですよね。地域金融行政はどうしても左脳的な動きになりますが、変えていくのは一人ひとりの人間ですから、それぞれが思いを持って、協力しながら動かないと、ルールや新しい法律や新しい枠組みをただ作っても、いい形では動かないし変わりません。それぞれが自分の立場で思いを持って、みんなで協力してやろうとする。議論をし始めると、こんなに面白いことができるのかとみんな集まってくるんですよね。共感が共感を呼ぶんです。金融庁は地域課題に関しては財務局に行政を委任しています。でもそこに金融庁の人間が直接行っちゃう。そうすると、財務局との間にあつれきが起きます。いろいろ起きるけれど、そういう問題を一つ一つ乗り越え、財務局の人と協力しながら、試行錯誤しながら、地域でネットワークをつくっていき、学びながら成長してきました。この枠組みの中で何をやってもいい、上はそれを否定しない。そういう環境の中で活動が広まっていった。自由にいろいろな展開をすることで、やっている人自身が楽しく、わくわくする、魅力的な行政になり得ると思っています。

日下:中竹さんはボイシーというインターネットのラジオ番組で、毎朝わたしたちに問いかけをしてくださっていますよね。今日の締めとして、問いかけの大事さについて教えていただけますか。

中竹:心地よい、手触り感のある問いだと人は喜んで答えます。ですから、皆さんが何かを変えようとするときにはぜひその人のオーセンティシティ、自分らしさが出るようないい問いを投げかけてほしいと思います。きょうの最後に皆さんに問いかけたいのは「あなたの組織の口癖は何ですか」というものです。口癖には皆さんの組織文化が潜んでいます。例えば関東圏で質問をすると「すいません、きれいにまとまっていませんが」と言って話し始める。これは金融の、特に関東の方の口癖です。仕事をきっちりやっているからそれがしみ付いていて、どんな質問を投げかけても必ず冒頭に「すいません、ちゃんとまとまっていませんが」がつく。ぜひこれを取ってください。1カ月ぐらいするとだいぶ変わります。もう一つ「何々したいと思います」の最後の「思います」は要りません。「したい」と言い切ってください。口癖を変える。そんなちょっとした行動変容で大きな変化が起きます。

日下:前回の対談から1年半、さらに進化した対談をお届けでき、みなさんの組織変革のお役に立てたのではないでしょうか。本日はありがとうございました。

※本セミナーは2021/10/14に開催されました。

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