Jライブラリー

第2部 パネルディスカッション

ジンテック セミナー

ジレンマを乗り越え新たな視界を拓くとき

【パネリスト】
北國銀行 頭取 杖村 修司
京都信用金庫 理事長 榊田 隆之
広島市信用組合 理事長 山本 明弘

【モデレーター】
共同通信社 編集委員 橋本 卓典 氏

橋本:今年最後のパネルディスカッションには、押しも押されもせぬ先端金融機関のお三方にいらしていただきました。それぞれに大変素晴らしい組織であることは皆さんご存じのとおりですが、取材をしていると、昔はとても褒められた組織ではなかったように見えます。多くの金融機関と何ら変わらない、あるいはもっとひどかった組織から改革がなされていったんですね。ですから今日はどうやって変わってきたのか、その歴史といま何を考えていらっしゃるのかを深く伺っていきたいと思っています。では本日もまず、パネリストのみなさんから自己紹介を兼ねたプレゼンテーションをお願いします。

北國銀行 頭取 杖村 修司氏

変革の入り口は「もう一度顧客起点から始めよう」という思い

この10月、北國フィナンシャルホールディングスという持株会社をつくりました。北國銀行はいわばその長男ですが、10年、15年と時間をかけ、いろいろな改革をしてきました。そういうお話をすると「最初は何を思って始められて、当時からいまの青写真、ビジネスモデルが見えていたんですか」というご質問をいただきます。答えはイエスであり、ノーです。いまから15年以上前、一緒にいろいろ変えていこうと仲間と誓った当時は、冒頭、橋本さんからもご指摘いただいたとおり、顧客志向あるいは顧客起点などからはほど遠いところにある会社でした。ですからスタッフに聞いても、役員に聞いても「昔から良かったです」という人は、多分1人もいないと思います。2000年頃は、ちょうど資金需要が減ってきたけれど、まだあまり気付いていないというところで、預金を集めてお貸し出しすればもうかるという非常に単純なモデルでした。お客さまとのリレーションというとできるだけ仲良くなること。そうすれば成績があがる。ちょっと乱暴ですが「無理が利くお客さま」というようなことが当たり前に言われていた時代でした。でも「このままだと絶対持たない、顧客起点で組織をつくり直さないとだめだ」とみんなで話をして、そのためにもう一度お客さまにいろんなお話を聞き直して、変革を始めようと立ち上がった。そこが入り口です。ですから「顧客起点のビジネスモデルに変えたいということを当時から思っていた」というところにおいてはイエスです。一方のノーの部分は何かというと、まさかデジタル、特に昨今のクラウドの技術とか、モビリティーの革命。あるいはSDGsやESGといった波が15年近く後に来るというのは全く想像していませんでした。

営業を変えていくには時間が必要

顧客起点であるためには営業を変えるわけですが、これは本当に大変です。社員のマインドセットも変えなきゃなりませんが、お客さまのマインドセットを変えさせていただくのはもっと難しい。先ほど日下さんがおっしゃった“債権者としてのガバナンス”とは全然違うところにあるお客さまとのリレーションの中で、マインドをまるっきり変えなきゃならない。当然1年、2年でできることではないし、試行錯誤の連続です。営業を変えるのに時間がかかるのは分かってはいましたが、変える過程が長くかかれば絶対に収益は落ちます。ですから、地元の皆さんには申し訳なかったんですが、まずは収益体質を変えるために店舗統廃合とかいろんな取り組みをしました。その後、カード事業、コンサルティング、リースなどさまざまなことをやっていきながら、次世代の地域の商業銀行として営業を変えていくスタートラインに立てたのは2013年くらいでした。ところが営業を変えるというのは、想像していた以上に大変な作業で、行内のマインドセットも1年、2年では変わらないですし、いわんやお客さまも百人百様です。コミュニケーション能力が重要なのは当然ですが、単なる会話じゃなく“対話”のスキルを身に付け、お客さまの言葉の奥にあることを受け止めたり考えたりできるようになるにも、日々の積み重ねが必要です。社員が自らいろんな勉強をし始めたのもちょうどそのころからですが、それでもマインドセットはなかなか変わらず、教育の成果もあまりはっきりと数字にも出ない期間が長らくあって。定期的にご訪問をさせていただいているお客さまから「随分変わったな、俺たちも変わらなきゃいけないな」というお声をいただいたのは、いまから4年くらい前です。ですから非常に時間がかかりました。

持ち株会社化によりお客さまの多様なニーズに応えていく

2013年から“次世代の地域商業銀行”と銘を打ってきましたが、銀行の下にサービサーを付け、銀行の中にコンサルティング部を立ち上げたとしても、債権者とサービサーとコンサルティングのマインドは違います。あるいは投資家と投資ファンド、バックオフィスを束ねるシェアードサービス的なマインドとシステムのマインドも違う。ですから最初はマインドで分けてという話もしてはいたんですが、実際にはなかなか難しかったんです。一方、お客さまの資金需要も変わってきて、年々早く返したい、安く借りたい、自分のお金で投資したいという方が本当に多くなって、われわれのお客さまも恐らく3割以上が既に無借金なんです。お客さまのニーズはもうそこにはなくて、本当に多様化しています。それに対応するために、タイムリーに銀行法が変わったこともあり、10月1日に持株会社化をしました。これからも顧客起点をベースに、子会社法の下で許される限りは、必要な機能をどんどん子会社で展開していくことになります。

デジタルと対話をコーディネートしていく

おかげさまで経産省からDX認定もいただき、デジタルの取り組みについていろいろと取り上げていただいています。ただ、正直デジタルはそんなに差別化にならないと思っています。量子コンピューターは別として、ご存じのとおりデジタルは0と1ですから、コピーしたらすぐ使えます。ですからそこでの差別化なんてできるはずもありません。デジタルに力を入れているというと地元でも「それって対面軽視だね」と言われますが、全くそういうことではないんですね。世界の潮流でいま話されているのは、ハイタッチなのか、ロータッチなのか、テクタッチなのかという議論で、お客さまによって、あるいは同じお客さまでも相談事とか内容によって、べたべたな対話が必要な人と、オンラインとオフラインの両方がいる人と、完全デジタルの人に分かれます。ですから、デジタルも深い対話も両方必要で、それをその地域、お客さまに合わせてコーディネートしていく。それだけです。

顧客起点で全てはつながる

結局は顧客起点でどう立ち向かっていくか、どう対話をしていくかということです。世の中には様々なキーワードがあります。DX、対面や対話、デジタル化というワードのほか、UIやUXというのもありますね。わたしは全てつながっていると思うんです。顧客起点で考えれば、組織の在り方も変えなければなりませんし、業績評価も人事制度も変える必要がでてきます。ですから、われわれは人事部も審査部も随分前に廃止しました。顧客起点で考えるからこそUI、UXが出てくる。10年近く使っているNPSも同じ理由です。結局全てのキーワードはつながっています。

常にバージョンアップをしていく

今後は持株会社の下でいろんなことをやっていこうと考えています。立ち止まっている余裕はありませんから、自分たちで考え、なおかつコミュニケーションを取ってどんどん変化していく。われわれはよく“自前”という言葉を使いますが、100%自分でやるという意味ではなくて、いろんな方と対話し、コラボレーションして、なおかつ自分自身で考えることを忘れないというのが、われわれの定義する“自前”です。顧客起点で、自前主義で、自分で考える。リカレント教育も、50代、60代の人だけを対象にするのではなくて、経営者から新入社員まで全員で常にバージョンアップ、スキルアップしようと。これからも皆さんといろんな議論や対話をさせていただきながら、モデルチェンジを図っていきたい。そんなふうに思っている今日このごろです。

京都信用金庫 理事長 榊田 隆之氏

平たんではない道を乗り越えて

今年創立98周年を迎えますが、わたしどもも決して平たんな道ではありませんでした。事実上、1997年に一度死に、そこから復活をした、そう思っています。当時は職員が20億円を超える巨額の使い込みという不祥事を起こしたり、それをきっかけとして京都の闇のフィクサーと言われるような人物との関係が取り沙汰され、実際に長期間にわたり継続されていたことが表に出たりして、地域の方からは「明日つぶれるんじゃないか」と言われていました。もし京都信用金庫が地域に残るのであれば、われわれはよっぽどの覚悟を持って変わらないとならない。王道に則り、顧客本位でオーソドックスなバンカーとしての姿勢を示し生まれ変わろうとみんなで誓いあって、変革を始めました。その当時はたくさんの空手形を切りましたし、「オープンでフェアな会社にしていくから入社してくれ」を新入生に頼んだりもしました。そこから20年以上が経ち、今日の姿がここにあります。ダイレクトにお客さまに伝わるよう「絆づくり」という言葉を標語にし、地域の方々と目線を合わせ、寄り添う金融、つなげる金融であることを誓い合って続けてきた結果がいまの姿です。

時代の変化が大きなジレンマ

今回のテーマが「ジレンマを乗り越えてこそ見える景色」ですので、そのジレンマを中心にお話を進めていきたいと思います。その前に確認したいのが時代の変化です。いまの社会はただ経済成長が止まっただけではなく、個人の行動様式も変わってきているし、暮らし方や働き方、あるいは会社の存在意義すら変化してきていて、コミュニティー全体が大きな変化の潮流の中にあります。ですから、変化に柔軟にならないといけないのですが、戸惑いの中で試行錯誤し、みんなが苦労をしています。こういった変化の渦に一番さらされている業界の1つが金融業界で、大きく変わらないといけないことはわかっていても、戸惑いも大きい、まずそれがジレンマなのだと思います。

ジレンマ1-業績優先から顧客本位へ

本日は3つのジレンマをお話しします。まず、1つ目。業績優先から顧客本位へというジレンマです。決済機能と仲介機能を中心としたクラシックな金融機関の役割が、低成長、少子化の時代において大きく変わってきています。従来からあるこの機能はもちろん必要ですが、3つ目の新たな機能として「課題解決機能」という役割が重要になってきています。お客さまの事業課題や地域にある社会課題など、様々な課題を金融機関が音頭を取って解決していく。こういったことがますます期待されています。半沢直樹というドラマが視聴率44%をたたき出す我が国では「バンカーと官僚は冷たい」というイメージが定着していますが、失った信頼をどうやって取り戻していくのか。金融機関がそのステータスを取り戻せるかどうかが問われていると思います。社長の頭の中をのぞいてみると大体4つの課題を持っていらっしゃいます。そのうちの1つはお金、財務の話ですが、それ以外にも事業の拡大、コストコントロール、そして人づくりや組織の活性化という課題も抱えています。ですから、先ほど日下さんがおっしゃったように、社長の目線になって考えられるかどうかが非常に重要です。財務の話だけではなく、4つの課題全部に向き合って、一緒に課題解決していくことが求められている。事業性評価シートの作成とかそういうことじゃなくて、実践を通じて社長と、さらには社員さんとも目の前の課題を共有しながら一緒に考えていく。そのためにわれわれは仕事をプロジェクトベースに変えていこうとしています。従来の融資、預金、為替といった仕組みに加えて、店内あるいは社内横断的にプロジェクトを組成し、内勤、営業と言った所属を問わず、新入生もパートタイマ―も自分が得意な分野でプロジェクトの仕事をしていく。フィールドワーク、チームワーク、そしてプレゼンテーション。この3つの要素を合わせて仕事を進めていきます。この3年間で社内を、92店舗2,000人の職員をぐちゃぐちゃに回しながら、1,000を超えるプロジェクトを組成し、あらゆる課題の解決に取り組んできました。そういった中で気付いたのは、制度を作ることよりも、親身になって、一人一人が心から仕事をすることが大事だということ。それは必ずお客さまの喜びの声となり、お客さまに喜んでもらえれば職員も嬉しい。この循環を回すことこそいま、金融機関が一番大切にしなきゃいけない、求められていることだと感じています。ですからこれからは迷わず絶対に顧客本位。これを経営のど真ん中に入れることです。

ジレンマ2-ヒューマンとデジタル 事務改革

2つ目はヒューマンとデジタルのジレンマです。これがジレンマなのかどうかは別にして、「機械にできることは極力機械に任せて、職員、社員は人にしかできない付加価値の高い仕事に専念する」ことをスローガンに、この30年間、技術革新を待ちながら、期待しながら、社内を変えてきました。まずは事務改革です。人にしかできない仕事、つまり接客に専念するために事務作業を極力削る。そこにこだわる中で、従来支店でやっていた事務作業を全部巻き取り、集中して行うバックオフィスセンターを立ち上げました。京都信用金庫の営業店では、もはや事務はしません。本部のバックオフィスセンターの中で、エキスパートの人材100人ぐらいが全店分の事務処理をする。これは、スキャナー、あるいは光回線の技術がないとできません。例えば融資の場合には、営業店に残すべき部分と、営業店でなくてもいい部分をステップ・バイ・ステップで見直し、バックオフィスセンターと業務を切り分けました。コロナにより、この一年半でゼロゼロ融資といわれる緊急融資を1万6,000件実行しましたが、営業店は残業ゼロで乗り切りました。事務のイノベーションが進み、融資のバックオフィスセンターがあったからこそ乗り切れたと自負しています。さらにZoomを使ったリモート体制にも取り組んでいます。知識のない、未成熟な社員の接客は非常に不安定です。そこで2年前から専門の職員がタブレット上で打ち合わせに参加し、サポートをする“リモート接客”を始めました。最初は見向きもされませんでしたが、コロナで一気にZoomが進み、いまでは全店で普通に使っています。事務に関しても10人ぐらいの事務チーフが本部にいて、全店分の問い合わせをZoomで対応していきます。こんな形で事務改革に熱心に取り組んでいます。

ジレンマ2-ヒューマンとデジタル つなぐ機能

デジタルの活用のもう一つの柱はつなぐ機能です。全店をつなぐためにマッチング掲示板を立ち上げました。ビジネスマッチングとお客さまの暮らしのマッチング、2つの掲示板があります。また、社内で起こっているナイスストーリー、クレドストーリーを瞬時に全店2,000人で共有する社内SNS。事務のイノベーションとお客さまの課題解決、さらには共感事例を自由にシェアすることで、仕事の仕方の変革につなげていきます。ですから、これはジレンマというよりは、よりヒューマンな仕事をするためにいかにデジタルを駆使するかという話です。

ジレンマ3-へとへととワクワク

3つ目はへとへとか、ワクワクか。金融機関の人はみんな疲れていてへとへとだ。仕事していて楽しくない。みなさんもどこかで聞いたことがあると思います。これをどうやってワクワクに変えていくのか。これこそが変革期におけるチャレンジだと思います。われわれは対話、ノルマの廃止、お互いをリスペクトする社内風土、この3つの組み合わせで、社内を大きく変えようとしています。社員ファーストの会社にしよう。職員が納得して働け、考えながら仕事ができる、自走できる職場に変えていこうと、対話型経営を実践しています。ポイントはスピード感と距離感。スピードをより高めるため、経営戦略会議を毎朝やっています。距離感を縮める取り組みとしては2,000人の職員と1年中対話をして、現場の不満や、職員が持っている現場目線のアイデアを全部吸い上げ実践していきます。出てくるアイデアは本当にさまざまですけれども、トップダウンでアイデアを降ろさなくても、ボトムアップでいっぱい出てくる。コミュニケーションで社内を革新していくとも言えます。そして、ノルマの廃止。杖村さんもやっていらっしゃいますが、ノルマはやっぱり邪魔です。顧客本位で仕事をするためには、まずこのハードルを取り払うこと。確かに勇気はいりますが、やり始めてから5年が経過して、いまでは一人一人が自分で目標を考えています。中長期的な目線で考えたなら、必ずこちらのやり方のほうが正しい。われわれに迷いはもうないです。全員で全員を評価しながら、最終評価も自分たちで決めるというサイクルを徹底的にやっています。そして褒める文化です。制度をつくっても駄目なんです。制度が風土にならないといけない。だから、制度よりも風土、褒める文化です。1年中、月間MVPみたいなことをやっています。ナイスマッチング賞、リカバリー賞、サポーター賞、ノーベル賞まであって、ノルマがない分、人を褒めます。また社内SNSなどを通じて、徹底的に共感の共有をしていく。いまへとへとの職場だとしたら、これをいかにワクワクに変えていくのか。われわれも試行錯誤の連続ですが、ここにも迷いはありません。これからは絶対ワクワクです。3つの話をしましたけれども、ジレンマを乗り越えて、本当の意味での顧客目線での金融、バンカーとしての仕事を貫いていきたいと思っています。

広島市信用組合 理事長 山本 明弘氏

フィールド重視を徹底する

今日はわれわれ広島市信用組合―地元ではシシンヨーと言われています―についてお話しします。わたしはわがシシンヨーの経営について「われわれはメガ地銀とは全く違う」「この立ち位置を間違えたら、絶対にいい経営はできない」と言っています。われわれが、北國銀行さんのまねをしようと思うてもできんのです。わたしたちはフィールド重視、これを徹底的にやります。わたしも毎日フィールドに出て行きます。まさしく顧客目線。いま何を考えて、何を要望しているか。お客さまの心、ニーズをつかんでいくことが、われわれ地域金融機関の仕事です。われわれは町医者であり、町の交番です。最後の砦です。フィールドを知らずに経営をしたら、後からとんでもない方向にいく。ですから、支店長自らが御用聞きに近所を回っていく。「いま、お悩みはないですか」「何か問題点はないですか」と徹底的に回っていくんです。コロナは早く収束しなければいけないんだが、いま、このタイミングで徹底的に回ることによって、過去にない情報がどんどん集まってきています。大きい声では言えんですが、わがシシンヨーはいまを大変なビジネスチャンスと捉えています。ほとんどの金融機関がゼロゼロ融資をやった後に、顧客のところに行かない。ましてやリスクテイクしない。だから、お客さんは本当に困っていらっしゃる。「いままで30年、50年、あそこの金融機関とメイン取り引きしてきたんだけれども、あれはいったい何やったか」という意見が山ほどあって、それを1件1件拾っていっている。いま、うちがリスクテイクしないといつするんか。いま、われわれがお客を救わないと誰が救うんか。だから、コロナは早く収束せにゃいけんのですが、うちにとってはビジネスチャンス。お客さんは困っている。だから、支店長全員が歩いて回るわけです。

中小零細企業を支援していく

日本製鉄が呉の製鉄所の閉鎖を決めましたが、その呉に3年前に支店を出しました。当組合の役職員も、周りの人も「絶対にあれは失敗する」と言い、反対意見が大多数を占めましたけれど、現場に行ってみたら中小零細企業が非常に多かった。「よし、ここでやろう」と決めました。そして支店長、外交、どんどん投入していった。困っていらっしゃる中小・零細企業がとんでもない数あるから、リスクはあります。でも、わたしは「われわれ信用組合がリスクを取らないで誰が取るんか、誰が救うんか」と言うわけです。だから、そういうところへ伺って、話を聞いて、融資は基本的に3日以内。これを徹底します。融資した企業から「あれはほんまにやってくれたで」とどんどん口コミで広がっていって、わがシシンヨー35店舗中、いまでは融資先で3番手まで来ています。それこそが、小まめに中小零細企業を支援していっているということなんです。

不良債権処理-バルク売りとサービサー

日下さんがサービサーのことをおっしゃったけれど、われわれとしては、融資とサービサーを離すことはできないんです。当組合は平成12年から不良債権を一括して売るバルクを徹底的にやってきました。今期70周年を迎えようとしていますが、過去70年間の不良債権が山ほどあった。わたしはこれを処理しないと当組合は倒産すると思っていました。最初にバルクをするといった時、当時の理事長はこう言いました。「山本、ちょっと来い。おまえは部長でよう分かっとるの。おまえも役員の端くれじゃないか。利益を出さんにゃいけんじゃろう」。でもわたしは入ったときからけんか人生です。徹底的に不良債権をサービサーに売ってきました。当組合は平成12年から今日まで、実に3,200件、金額にして800億円のバルクをやっています。一昨日、東京から取材に来られた方に、こういうことをやっているけれど、何件ぐらいトラブルがあると思うか予想してくださいと言ったんです。「3割ありますね」とおっしゃった。3週間前に取材に来られた方にも聞いてみたら。その方は「半分ある」と答えられた。答えを言えばトラブルはゼロです。世の中が、マスコミが、これほどに理解がないということに、びっくりしとります。

バルクの仕組み―金融機関の覚悟

バルクの仕組みをお話しして終わります。当組合に1億円の債権があるとします。これを今日、出席されているしまなみサービサーが1,000万で買いましょうと言います。1,000万で買われるということは9,000万の損、ロスです。その後、しまなみさんは債務者に「2,000万持ってこられたら、8,000万の債権を放棄してあげましょう」とおっしゃるわけです。そうすると、お客さんはシシンヨーの1億円の負債が2,000万で済みます。2,000万を持っていくことによって、8,000万をカットしてもらえる。当組合は9,000万損するけれども、不良債権がなくなる。しまなみサービサーさんは1,000万で買えたところを、2,000万で売るから1,000万の利益計上できる。お客さんは、2,000万を持っていくことで、8,000万の債権放棄をしてもらえる。1億だったら事業再生できないけれど、2,000万だったら何とかいまの売り上げで再生できるじゃないですか。ですから、お客さんにトラブルで文句を言われることはないんです。もちろんサービサーに売るときには必ずお客さんに事前に相談します。相談して、お客さんがイエスとおっしゃったら売ります。ノーだったら売りません。だから、トラブルゼロです。ですから、日本の金融機関がもし血を流す覚悟でやるならば、日本の中小零細企業は一気に急回復するというのがわたしの持論です。

パネルディスカッション

橋本:日下さんの基調講演の中で、これからのリレーションシップバンキングについて、リレバン2.0という形で提示がありました。リレーションシップについてお伺いしていきたいんですが、杖村さん、お客さまのマインドは、マインドセットする前と後で、どのように変わったのでしょうか。

杖村:10年以上前は、われわれも目標管理をして、サービスをプッシュで売っていました。その時にはお客さまをセグメントする必要もないし、みんな同じ、みんな大事なお客さまという見方をしていました。でも同じ業種でも各社全然違うし、同じ会社の中でも社長と副社長の考え、あるいは経理の考えは違うんですよね。榊田さんがおっしゃったように半沢直樹というドラマが大ヒットして、お客さまはいろんな先入観を間違いなく持っていらっしゃる。表立っておっしゃらなくても、心の底では思っていらっしゃる方が多い。ですから、われわれの営業はこんなふうに変わるんですと言うだけじゃなくて、変わったということをご理解いただかないとならない。面白い話として、われわれはノルマをやめて7~8年になるんですけれども、最初のころは3月末になったらお客さまが「借りてやるから持ってこい」みたいな感じで。わたしがお客さまのところに行くと「今度の支店長はお願いにもこなくてやる気がない。あれは駄目だから代えたほうがいいぞ」といろんなところで言われました。そういうお客さまに対して1人ずつ丁寧に対話をしていかないとなりません。山本理事長がおっしゃったように、わたしもフィールドに行くんですが、うちの場合は、わたしと担当者と支店長では、お客さまの反応が若干違っていたりもして、対話の内容も違ったりする。あるいは社長に聞いた話と、違う方に聞いた話でも内容が180度違っていたりもします。そういうところを全て分かった上で、お客さまとコミュニケーションを深めていかないと、いろんな施策は難しいかなと思っています。

橋本:京都信用金庫では、相続なんかもBOCという本部で集約されて、電話で対応していますよね。デジタル化を求めている方とそうでない方のすみ分けはどうされていますか。

杖村:お客さまは、社長がデジタル嫌いなところもあれば、社長は大好きだけれど周りがついてこないところなどいろいろです。数週間前に「店舗外ATMを廃止します」とリリースしたんですが、それにもいろんな反応がありました。急に全部廃止するわけじゃなくて、3年~5年かけて廃止の方向という話で、リリースしたほうがいろいろと議論も出てきていいと思って出したんですが「あるべき方向だ」というお客さまと「けしからん」というお客さまと、いろいろいらっしゃる。ですから、百人百様の中で本当に深い、深いコミュニケーションをやっていかないと、商売は進まないと思います。先ほど出ていたバルクの話もそうですし、これから難しくなってくるであろう支援とか再生とかもそうですね。われわれはサービサーをつくって10年以上たつんですが、子会社のサービサーも次のフェーズにいかないと先行きはちょっと難しいねという話もしています。いろんなことにおいて、起点となる原動力は、対話かなと思っています。

橋本:コミュニケーションということですね。

杖村:はい。

橋本:デジタルとの組み合わせの中で、ちょっと嫌な言い方をすると「冷たいんじゃない」と思ったりもした部分もあるんですけれども。

榊田:われわれは作業ではなく、お客さまの課題解決に直結する接客に専念する時間を1分1秒でも多くつくりたい。自分で考えて課題解決をしていける、自走できるフロント人材をどれだけつくれるかにすごくこだわっています。相続の手続きとて例外ではないんです。相続のお客さまが店頭に見えます。大抵、複数の金融機関で相続手続きをされてうんざりされている。店頭に行っても邪険に扱われ、面倒くさくて、嫌気がさしていらっしゃるんです。われわれのやろうとしている相続BOCは真逆です。BOCに相続に精通し、何を聞かれても答えられる愛想のいい職員がいるからこそ、的を射た、待ち時間がない、きちんとした対応をさせていただくことができます。知識とヒューマンな心が組み合わされて初めて、相続でさえもセンターでしてもらったほうがいいという状態ができます。“職場の要”という営業部門以外の事例の表彰があるんですが、今月は相続をBOCで対応した職員が表彰されました。「こことここをこういうふうに書いてください」「ここにハイライトを塗って、付箋を張ってください」という懇切丁寧さは半端じゃない。そして作った書類をお送りさせていただいて、基本的に電話で対応する。店頭には書類を持って一度だけきていただきますが、来店されるときには店頭と連携を取って、店頭の職員も温かく対応する。お客さまは感動されます。相続の手続きでこんなに大事にされたことはありませんと。職員一人一人がヒューマンな心を持てるようにするためにデジタルを駆使する。作業レベルの仕事を極端に離して、自分で考えられる職員の集団になる。これが大事だと思います。

橋本:山本さん、コロナに入ってお客さまが随分変わってきている、金融機関との関係性を見直しているというお話がありましたが、どういう心境の変化があるのか。あるいはリレバンはどうなっていくのか。お考えを改めてお願いします。

山本:広島だけかも分かりませんが、金融機関はアフターコロナ時にかなりの不良債権が出ることを危惧しているんじゃないかと感じます。だから、腰が引けて、お客のところに訪問しなくなった。融資にしても「保証協会いらっしゃい」という感じにみえます。金融機関のスタンスが変わってきたのを感じて、これで本当にいいのかと思います。ちょっと話を変えますが、お客さんの中には投資信託、あるいは保険の販売をされるのは絶対に嫌という方もかなりいらっしゃる。あの金融機関にこういう商品、ああいう商品と言われて嫌になってるんよと。融資を借りているから、優越的地位で言われるんよと。だから、リレバン等々言っているけれども、現場を十二分に把握した経営戦略をやっているのかと思うんです。必要なお客さんもいらっしゃいますから、否定はしていないですが、拒絶反応を示していらっしゃる顧客も多いということも理解しなければいけないと思います。また、広島でも店舗統廃合が強烈に進んでいっています。よそがどんどん撤退していっているから、われわれは経営戦略としてATMを増やします。顧客に寄り添った経営です。新しい店舗も来年6月にオープンしますし、これから8年間、毎年1店舗ずつ新しい店舗を出します。先ほどの呉の支店じゃないですが、そうすることによってお客さんがどんどん窓口に来て、相談していただけるんです。リレバンで特に大事なのは外交を増やすこと。御用聞きですから、徹底的に歩く。それが、われわれ広島県の中の地域限定金融機関のあるべき姿であって、それを徹底的にやるんです。われわれは預金、貸金で生きていくんだ。地元の中小零細企業を元気にしていくんだという信念の下に、徐々に拡大傾向にある。いろんなお客さんがうそのように相談に来られます。これが実態です。

橋本:ありがとうございます。お話を伺っていて、打ち手は全然違うけれど、本質の部分での共通点があるように感じました。それは時間をかけるべきことがあるということです。反対に言えば、時間をかけちゃいけないことがある。それが、各金融機関それぞれにあると思います。これは有名な話ですけれども、シシンヨーさんは回収担当者が2人しかいない。回収なんかしていないからこそ、3日で融資するという離れ業ができる。それをやるために投資信託も売っていないと。投資信託を売ること、他の金融機関がどうということじゃなく、自分たちがこの時間をどう考えるかという経営だと感じます。京都信用金庫さんのBOCもまさにそうです。だから、BOCはシシンヨーさんにとってのサービサー的な存在であって、だからこそフロントの対話の時間が、あるいはお客さまのことを考える時間が確保できる。北國さんのお話も、もっと大事なことに付加価値を切り替えましょうということのようにみえます。みなさま、今度は経営者として何をやっちゃいけないのかを伺えますか。

山本:あれもこれもしない。やるターゲットを絞って複雑にしない。だから、当組合はいま、7,000億の融資があっても、管理部は2名です。営業店の支店長が不良債権に手を取られることは全くないんです。捨てる経営です。先ほどの投資信託、保険も捨てるんです。経営陣にはあれもこれもやっとかないと世の中で取り残される、うちだけやっとらんのはどうかという考えがあると思うんです。われわれは共同組織ですけれども、利益を上げなければいけないのは事実であって、なんぼきれい事を言っても、利益を上げなければ顧客サービスができない。預金でも他金融機関との差別化はやらないといけないので、当組合もかなり前から100万円当たるハッピー定期というのをやっている。そういうことに絞っていくわけです。業績面についても、やるときにはゼロゼロ融資、これ1本。他のことはしません。だから、わたしは毎日5時過ぎから会社に入っていますけれども、職員は8時10分より後じゃないと入れないし、5時40分になったら帰ります。当組合には存在価値があって、成長するためにあれもこれもやっちゃいかんのです。経営陣がそこらをジャッジして、よそから見たら大事なことでも、捨てるのは捨てる。デジタル化の話も、われわれ地域金融機関がええかっこすることはないと言っています。われわれがパイロットになることはない。1年遅れでやれと。慌ててそれに人、物、金を注入することはない。デジタルについては成功したところを見て、よそが成功したおいしいところだけをごちそうさんでいこうと。本当に単純明快。そうやっています。

榊田:さっきのジレンマに関係して言うと、1つ目の顧客本位か業績優先かでいうと、意味のないことはやらない。本当にお客さまのためになることしかやりません。うちにも5年前まではパワーセールスがありました。そういったことを一切やめようという、捨てていく勇気が1つ。2つ目のヒューマンかデジタルかについては、事務はやらないというか、作業レベルのことをするんじゃないというところにこだわっていく。そして、3つ目のへとへと、ワクワクの観点からいうと、へとへとになるようなことはしない。職員が自分で納得のできるような仕事、お客さまの役に立てることを自分の喜びとする。これに集中できる環境をつくること。例えばその1つとして、残業をしない職場。これも5年ぐらいで一気に変えました。最初は、できないかもしれないとも思いましたが、ノルマをなくして、風土を変える中で、取りあえず6時に全員電気を消して帰ろうということを言って、いまでは全店がそういう状態になっています。なぜできたのか、わたしも不思議な部分がありますけれども、やっぱりみんなが腑に落ちたんだと思います。働き方を変えて、お客さまに集中しよう。上から与えられる目標じゃなくて、自分で考えていいんだと、徐々に会社を信じ始めてくれた。会社も職員ファーストの会社をつくることに一生懸命、努力しています。人と人との信頼関係、職員との関係性もあるし、お客さまとの関係性もあって物事はあるべき方向に進んでいくんだと思います

橋本:先ほどプレゼンの中で、毎日、経営会議をされているとおっしゃいましたが、もう少し伺えますか。

榊田:金融機関はたいてい月に1回ぐらい経営会議や常務会などをやっていらっしゃると思うんです。でも「この人とこの人は知っているけど、この人は知らない」といったことが組織の中にたくさんあって。わたしはみんなが知っていて、みんなに関係があるという状態を作りたかったんです。担当職分のことばかり考えるんじゃなくて、全体を、マネジメントを考えているかどうかということが、一人一人の職員に問われている。経営参画意識がベースにないと、どんな制度をつくったって、何一つうまくいきません。

橋本:自分事になるし、経営のスピードも格段に早まるわけですね。

榊田:経営戦略会議なので、PDCAを回していきます。上がってきた課題について、期限やアクションを議事録に残しながらやっているので、改善行動は早くなると思います。

橋本:山本さんのところも毎朝、やられていますよね。

山本:うちも議事録をとって毎日、6時半からやっています。とにかくスピードが大切です。今日のことは今日やる。だからお客さんに喜んでいただけるんですよ。

橋本:あえてやらないことについて、杖村さんはいかがですか。

杖村:短期で物事を見ないことですね。1番にやるとか、2番にやるとか、そういうことを考えない。あえて周りを見ない。自分たちで考えて、議論して進めていくために、考えなくなるようなことは見ないようにしています。他がやったからやるんではない。周りではなくて、お客さんを見る。

橋本:他がやっていないから、時期尚早だという議論の封殺はやめようと。

杖村:そういう議論じゃなくて、競合他行を見ず、お客さんを見て必要なものはやると。

橋本:昔、セブンイレブンを取材したことがあるんですが、そこでも競合他社が開発している商品なんて口にしちゃ駄目だ。自分たちがどう考えるのかを重視していると伺った記憶があります。地域金融機関で働くということは、コロナ禍において一層意味のあるものだと感じています。『捨てられる銀行』を書きましたが、逆に言えば選ばれる地域金融機関になれるチャンスがあるということでもある。本日、その先頭を走っていらっしゃるお三方に、お話を伺えたのは大変意義のあることだと思います。皆さま、ありがとうございました。

※本セミナーは2021/11/17に開催されました。

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