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Jintec Special Dialog3

ジンテック セミナー

Let’s Move On!‐先に進もう‐Dialog 3

慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科 教授 前野 隆司 氏
× 株式会社ジンテック 代表取締役 柳 秀樹

■ファシリテーター:株式会社eumo ユーモアカデミーディレクター岩波 直樹氏
■対談日 2021年7月20日 

第3回 Jintec Special Dialogのゲストは、幸福研究の第一人者として、幸せな社会の実現をリードする慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科 教授 前野 隆司 氏。「幸せ探求は果てしのない“人間を磨く道”のようなもの」と語る前野氏。自らが幸せに生き、社会に幸せを広げる在り方を当社 代表取締役 柳 秀樹と語りあいました。


“ウェルビーイング”の広がり

―“ウェルビーイング”という言葉が浸透しつつあります。前野先生は今の世の中の状況をどう感じられていますか。

前野:私がウェルビーイングと言い始めたときには「宗教家になったの?」とか「趣味で幸せを研究しているの?」とかいろいろ言われました。ところがここ2~3年、特にこの1年ぐらいは経営者も政治家もすごい勢いで「ウェルビーイングは大事だ」と言いだして。本当に変わりましたよね。すごく嬉しい反面、ブームのような感じになることはちょっと気をつけたいと思っています。

―幸福学を初めて10年くらいですか。

前野:2008年に本格的に始めたので、13年になります。

―幸福学を始めたきっかけは。

前野ものづくりの観点で次の研究テーマを考えていたときに「使う人が幸せになるかどうかがスペックに入っていないのは、設計の欠陥だ」と気が付いたんです。エンジニアはみんな、使う人の幸せを願ってる。でも、例えばカメラを作っている時に、シャッタースピードが0.3秒以内っていうのは要件に入っていても、使う人が幸せになるかは入っていない。これは設計論として間違っていると思ったんです。今ではトヨタが「幸せを量産する」と言っていたり、積水ハウスが「『わが家』を世界一 幸せな場所にする」と言っていたり。十年経ってそれが当たり前になったのは嬉しいです。

―サービスの先に人の幸せがあるという考え方は、柳さんの思想ともすごく近いですよね。ジンテックが幸福を明確にうたい始めたのはいつからですか。

柳:明文化したのは2020年。その1年前くらいから企業理念や行動指針を見直し始めたんですが、ちょうどアメリカのビジネス・ラウンドテーブルから「『株主至上主義』から『ステークホルダー資本主義』に変えていこう」という宣言が出て、後押しにもなりました。新企業理念をスタートしたら、前野先生が日経新聞で連載を始められたんですよね。「日経で幸せ?」とちょっと驚いて。今まで幸せなんて言うと「この人たちは大丈夫?」みたいな感じでしたから。

―宗教的というか。

柳:そう。でもそこを振り切って幸福追求を掲げて、今や多くの社員が胸を張って言えるようになっています。ただ、前野先生もおしゃっていましたけれど、流行り廃りにはならないでほしい。その意味を世の中全体でしっかり考えていけるようになるといいなと思います。

―「ウェルビーイングって何ですか」と聞かれたら、前野先生は何て答えられますか。

前野:ウェルビーイングを辞書で調べると、“健康”、“幸せ”、“福祉”とでてきます。私は幸せという意味で使いますが、お医者さんは健康、福祉関係の人は福祉という意味で使っています。幸せというとハピネスと思われがちですが、ハピネスはにこにこ笑って、楽しいという意味。一方でウェルビーイングは、やりがいがあるとか、利他性とか、つながりとか、そういうのも含んでいる概念です。そのまま訳せば“よい在り方”。体のよい状態が健康、心のよい状態が幸せ、社会のよい状態をつくるのが福祉です。ウェルビーイングの広い概念の一部に幸せがあって、その中にハピネスがあるという感じですね。


幸せの4因子と幸福経営

―改めて幸せの4因子について教えていただけますか。

前野:心の幸せについて分析した結果、4つの大事な条件があることが分かりました。その1つ目が、「やってみよう」因子。やりがいや主体性、強みを持っている人は幸せなんです。生きがい、働きがいがあるとも言えます。2つ目は「ありがとう」因子と言って、感謝をしていること、利他性、多様なつながりが重要です。ジンテックさんの企業理念にも。

―つながりが入っていますね。

前野:3つ目は「なんとかなる」因子といって、チャレンジ精神のようなもの。「なんともならない」と後ろ向きで悲観的でいるのではなく、「なんとかなるさ」と前向きで楽観的で、チャレンジをする人は幸せです。4つ目は「ありのままに」因子。人と自分を比べる人は幸福度が低い。人と比べずに独自のやり方、個性があること。会社で言えば、個性的なビジネスがあるというのは、非常に幸せだと思います。因子分析をした結果、この4つを満たしている人が幸せだということがわかりました。

―なるほど。

前野:測ってみて、どれかが低かったら高めるほうがいいですが「自分はここが駄目だ」と悲観的になると楽観の因子が下がるから、あんまり気にしないほうがいい。これが幸せのジレンマで、成人発達理論などと一緒です。高いほうが幸せなので、暗黙裡には目指したほうがいいけれど、明示的に「俺はやりがいを高めるぞ」とか「つながりを増やすぞ」とか思う人は不幸せだという研究結果もあります。これが難しいところで「知っているけれども目指さない」みたいな感覚が伝えにくいところですね。

―やりすぎると逆に幸福にならないということですか。

前野:やりすぎとは違いますが、例えば、あいさつをする人はしない人より幸せなんです。でも、ただあいさつをするだけでは別に幸せにはならない。思いや意味とつながってあいさつをしていないと。「あいさつをすると相手の調子も分かるし、コミュニケーションもできる。だからあいさつは大事だよね」という根本を理解してほしいんですが、多くの人は「なるほど、感謝とつながりと何とかですね」と手法論なってしまいがち。分かりやすいから「4つを満たすといいんです」と言いはしますが、それ自体を目指さないでほしいんですよね。

―難しいところですね。ウェルビーイング経営、あるいは幸福経営におけるポイントは何ですか。

前野:社長が僕に「社員を幸せにしたいから頼むよ」、「任せたからな」と言ってすぐ引っ込んじゃう会社は、そこそこ幸せになっても、ある程度以上はいかないですね。実は社長がその気じゃないことをみんなわかっている。逆もあって、社長がやる気すぎて「利他主義だぞ、利他主義だぞ」とか言うと、社員は「なんかきれい事ばっかり言っているな、社長」となる。社長は本気で思っているんだけど「もっとチャレンジしろ」、「利他主義だ」、「やりがいだ」、「4つの因子だ」と上から押し付けすぎると主体性がなくなります。

―お話を聞かれていて、柳さんいかがですか。

柳:私たちはすぐに手段が目的になってしまうんですよね。来年1月から来期が始まるんですが、まずは手段を目的化する事をやめようと思っています。例えば、事業計画と呼ばずに事業方針と呼んでいこうとか、あるいは単年度でのPL脳はもうやめようとか。数字はデザインなんです。デザインだから、多少は狂う。毎年これだけ一生懸命やっても、ぴったりにはいかないんですから。

前野:確かに。

柳:上がりも下がりもするものなのに、PL脳でずっとやっていて、大事なことを見失っちゃったんですよね。これからは「幸福を追求する」、「人と人をつなぐ」という理念のもと、関わる人みんなといかに価値を創り出していくのかに集中する。まさに今、そんな来年の方針を考えているところです。マネジメント、管理もやめていきます。来年から、常識的に見たら変てこりんな経営になる。でもきっとそれがいいというのが何となく分かっているので、やってみようと思って。

―すごいチャレンジですよね。まず理念をしっかり作って、浸透させて、来年からはとうとうマネジメントを手放してみる。

前野:すごいですね。

柳:従来学んできたようなノウハウも大切ではあって、徹底するためにあれこれやったことである程度の成長はできました。でも「本当にこの延長線上に自分たちの未来があるかな」と思うと、全く違うと思うんです。

前野:ぜひホワイト企業大賞に応募してほしいです。経営品質賞とかいろいろありますが、応募はしないんですか。

柳:そこはあんまりこだわっていないんですね。受賞が目的化するのが嫌なのと、小さい会社なので、お客さんから「そこまで振れちゃって大丈夫か」と思われるのもどうかと思って(笑)。

―確かに。旧来型の経営の会社から「この会社は大丈夫か?」と言われる可能性はありますもんね。

柳:なので、今のところは内に秘めてやっていこうと。

前野:先月、ネッツトヨタ南国を見学に行ったんですが、ジンテックと同じように社員と一緒にどうなりたいかを考えて、その中から出てきた言葉を理念にされていました。相談役の横田さんは、いろんなことをどんどん手放しているそうなんですが、理由をきくと「普通に考えて、それがいいからだよ」とおっしゃるんです。柳さんは何でそれが正しいと分かったんですか。

柳:ジンテックの創業者から経営のバトンを受け取った当時は、ユニークなサービスを生み出すフェーズを経て、「ここからいかにマネジメントを効かせてお客さまを増やすか」というフェーズだったんですね。でも、生み出す楽しさから管理監督による経営に移行する中でみんなどこかブルーになっていて。その時にやりがい、今で言うとワクワクがない限り、会社が活性化することはないんだと気が付きました。大切にされてない人が、お客さまを大切にするはずがないじゃないかと。

前野:本当ですね。

柳:KPIで縛り上げるのって確かに効率的かもしれません。でも、みんなくたびれちゃう。身近な人を大切にしよう、お客さまを大切にしようと転換していったら会社の数字がすごく伸びてきたんです。

前野:社長になられたのはいつ頃ですか?

柳:13年前ですね。

前野:ちょうど僕が幸せの研究を始めたころですね。

柳:当時は“非常識経営”と言っていて、今まで常識とされていたことはやめようと。そこから10年以上やってきて「やっぱりそれが正しいんだ」というのが、今、実感として分かってきた感じです。

―お二人とも感性が開いていらっしゃるんでしょうね。高度経済成長の後半には感性を閉じさせられることが多かったじゃないですか。

柳:そうですよね。

―「感覚的に言うな」「そのエビデンスは何だ」と教育されちゃったから、感覚的におかしいと思っていても、証明できなければ動けなくて。

前野:だから僕は幸せが大事だというエビデンスを出し続けているんです。「幸せな人は生産性も創造性も高い」というエビデンスを出すためにこつこつ研究をして、論文を書いて。狙っていたわけではないんですが、今ではお墨付きを与えられるような、社会にとって必要なことを語る立場になりました。

―それがあるから幸福経営に向かいやすくなってきたのは間違いないと思います。感覚だけで動こうとしてもなかなか難しいので。

柳:私はやっぱり実感って大事なんじゃないかと思っていて。例えば心理的安全性がない会社で、社員の貴重な意見が語られる場所は2か所。たばこ部屋か居酒屋です。

―いわゆる本音ですよね。

柳:最近は喫煙する人も減っているので、実際にどこで語られているかは分かりませんが、結局、本音こそがすごく重要。「お客さまがこんなことを言っていた」なんていうネタがみんなの場で語られないというのは、絶対おかしいんです。それこそがエビデンスであって、それをみんなに聞かせてよと。会議で形だけのことが話されて、変な方向に進んでいっちゃうと、真実が語られなくなってしまう。

前野:数字が最重要だったバブル期に就職されたのに、語られるべきことが語られてないことに着目した感性がすごいですよね。どういう少年時代だとそういう感性が養われるんだろう。

柳:感性?私は墨田区の出身なんですが、すごい下町で。地域で育ててもらうような感じで、近所の子がうちにご飯を食べに来たりしましたし、逆に僕も近所のうちにお邪魔したりしてましたね。

前野:人間味があるんですね。僕は田舎出身なんですが、田舎はたぶん下町と似ている。人間味があって、おばあちゃんとかおせっかいな人がいて。そういう感じでしたから。

―今は核家族化しているし、余計な関わりをすると親から文句がきたりするから、関わりがすごく薄くなっていますよね。子どもがいろんな大人に会うって重要だと思います。お二人が育った環境も、今の感性につながっているように感じます。


幸福は伝播する

―幸福は伝播するという話がありましたよね。幸福な人の周りには幸福な人が増えていくし、逆に負の連鎖もあると。

前野:不幸も移ります。

―幸福の連鎖を生むためには、自分がウェルビーイングでいることが大切なんですか。

前野:そうですね。最近やった研究で、周りが幸せだと自分も幸せになるという因果もあるし、自分が幸せだと周りを幸せにするというものがあります。だから、自分が幸せであることと、幸せな場にいること、両方とも有効です。でも周りが幸せだということは一人一人が幸せであるということだから、回りまわって、まずは一人一人が幸せであることですかね。

―幸せな人が多い職場は、幸せな人を生み出す。そんな感じですね。

前野:そうですね。たばこ部屋と居酒屋の話がありましたが、コミュニケーションが取れていれば、幸せの調子が悪くなりそうな人に「頑張ろうよ」とか、「大丈夫か?」と声をかけますよね。だからコミュニケーションがあれば、幸せが下がらないような仕組みになっているんです。でも、成果主義で「やっているか」とだけ言われたら、下がったら下がりっぱなしになる。

―誰も引き上げない。だから成果主義で幸福度が下がると回復が難しいんですね。


幸福探求は“道”のようなもの

―ウェルビーイングの研究や実践の中で、ここ最近の気付きってありますか。

前野:幸せは“道”みたいなもので、分かっていると思っていても、毎日、何かしら気付きがあります。例えば、親として良かれと思って娘に「それやっとけよ」と言う。でもそんな言い方じゃいけないんですよね。こういった微妙な気付きは常にあるんです。まだまだ学びの途中。果てしのない“人間を磨く道”みたいな感じです。

―幸福経営を掲げるというのは、まさにそういう道に向かわれるということですよね。

柳:そうですね。幸福かどうかでいったら今も幸福だと思っていますが、まだまだです。幸福であり続けよう、幸福な状態でい続けようとすることが大事なんですよね。会社にも人にも、その時々でいろんなことが起こりますが、失敗を糧にしながら、プラス思考で前向きに進んでいけば、幸せに生きられるんだと思っています。


会社も夫婦のパートナーシップも同じ

―前野先生は奥さまのマドカさんと一緒に活動をされていますよね。自然体で幸せなパートナーシップを大事にされているように感じます。

前野:ライフとワークは両輪ですから、職場のみんなが仲いいことも、家族が仲いいことも両方が大事。幸せの研究者なのに夫婦の仲が悪かったらちょっとおかしいですしね。子育てを終えた妻に地域の幸せ研究を手伝ってもらったら頭角を現して、今では夫婦で幸せの研究をしています。これはちょっと狙ってやりました。夫婦が幸せの研究を幸せそうにしてるのって絵になるなと思って。

―いいですよね。

前野:二人で仲良くYouTubeとかをやっていたら「50代にもなって仲良くしている夫婦を見たことないです」とか「日本人の男性が『うちの妻は幸せなんです』とか言っているのは革命的だ」と言っていただいて。経営も家族も一緒だと思います。家族の理念を考えたりすればいい。ご家庭はどうですか。

柳:さすがに理念まではつくっていませんが……。うちは高校の同級生で、若いころからお互いを知っているので、共通するものはありますね。

前野:柳さんちの理念は、このジンテックの企業理念「人と人をつなぎ、新しい価値共創から、幸福を追求する。」じゃないですか。家族だってこれですよね(笑)。

―家庭の状態がいいと、仕事の状態もよくなるし、逆もあると思います。そういう意味では、幸せなパートナーシップを築いていることは大切だと思いますが、なにかアドバイスはありますか。

前野:僕は妻とアメリカで知り合ったんですが、アメリカは「子どもは独立するんだから、夫婦の仲がいいのは基本」という考え方がスタンダード。日本のスタンダードは夫婦は会話しないとか、夫は外で働いていて、妻は地域で居場所を作ってとかね。でも、われわれだって恋愛中は仲良くしていたんだから、それを維持するのが普通になるといいなと。ちょっときざかもしれないけれど、何もない日に一輪の花を買ってきて「今日もありがとう」と感謝を伝えるとか。幸せな職場もあいさつや感謝を伝え合うことから始まりますから、同じですよね。国際標準から見ると日本はクールになりすぎです。

―柳さんは工夫されていることはありますか。

柳:工夫というか、コンビニに行って好きそうな食べ物があったら買って帰ったり。そういうことは普通にします。お互いが自然に思いやれていればいい状態が維持できると思っていますが……。

前野:僕は幸せの研究のためにいろんな夫婦にインタビューをするんですが、相当に仲がいい夫婦ですよ。妻が好きなものをコンビニで見かけて「よし、買っていこう」と思う人は、いなくはないけど、かなり少ない。奥さんを大切にするのも、会社を大切にするのも墨田区の頃からの人間味がじわっと出てきている感じがします。いいですね。

―家族へそういう気遣いができる人は幸福経営もできる。逆に言えば「幸福経営だ」と言っていても手法論に陥っちゃったり「こうすればおまえは幸せになれるんだ」みたいな考えでやっている人は、家もそういう感じになっているように感じます。


次世代型 幸福経営

前野:柳さんは次世代型幸福経営ですよね。これまではトップダウン型、ヒエラルキー型の幸福経営が主流だった。稲盛さんとかね。でも柳さんの謙虚さというか、強い命令型ではない「自分は普通に、妻に好きなものを買ってあげているだけですよ」みたいなこの感じ。これが社員や家族の主体性を育むと思うんです。

柳:家内は「情が深くて人のことを思ってあげるのはあなたのいいところでもあるけれど、欠点でもある」って言うんです。「何か失敗するときはそこだよ」と言われたり。

前野:心配してくれているところにも愛を感じます。

柳:いやいや。当社は50人ぐらいの会社なので、私にとっては家族みたいな感覚。何かが起こると「なんとかしないと」となるんですが、必ず規程がどうこうという話が始まって。大きな組織だったら一人の社員のために規程を変えたりはできないし、やらない。でもうちはまだできちゃうから「じゃぁ、そっちの方を変えよう」と。そうするとハレーションが起きるんですよね。今いる人たちのことを考えて、できるだけの施策をしていきたいと思うと、どっかに入り込んでいっちゃたり、どつぼにはまったり。

前野:大丈夫なんじゃないかな。少し前の競争化社会では、優しすぎるとだまされて会社を乗っ取られるみたいなこともあったかもしれないけれど、これからは助け合う、“共創”の時代。僕はそのやり方をピュアにやり続けることこそうまくいくんだと思います。

―ジンテックはまさにそこに向かわれていますよね。果てしのない道に向かって、やればやるほど山の高さが分かってくる。そんな感じですか。

柳:そうですね。「お客さまを選ばない限り、お客さまからも選ばれない」ということに気が付いたり。ある時、どうしても無理難題をおっしゃってくるお客さまがいらして。「断られて取引が終わるだろうな」とは思っていたのですが、当社としての筋を通した回答を持って行ったことがあるんです。その帰り道、社員が「自分たちは思っていても言い出せなかった。そういうふうに柳さんが言ってくれたから、われわれも次の行動を取れます」「このお客さんを失ってしまうかもしれないけれど、他のところと取引ができるようにがんばりますので、全然大丈夫ですよ」と言ってくれたんです。

前野:すごい。

―いい話ですね。

前野:横田さんも同じ話をしていました。ネッツトヨタ南国は値引きをしないんだけれども、社員がいいから、いいお客さんが来ると。別のディーラーは値引きをするので「サービスはいいから安いのが欲しい」というお客さんが集まるんですよね。

―ネッツトヨタ南国は関係性重視のお客さまが増え、他のディーラーには合理性重視のお客さまが増えるんですね。

前野:横田さんとちょっと雰囲気も似ています。何度聞いても「いや、普通ですよ」みたいな感じが。次世代幸福系、太鼓判です。


幸福を探求し続ける

―お互いに聞いてみたいことは何かありますか。

柳:僕はいつも本当にこれでいいのかと悩みながら、手探りしながら、でもやっぱりみんなが幸せな状態であるほうがパフォーマンスが出ると考えてあれこれ動いています。だから確信があるわけではないし、正直「こうなっていっちゃわないかな」という不安のようなものを感じてないわけではない。そんな中でここまでお話しをしてきましたが、第一人者としてどんなふうに聞いていただきましたか。

前野:横田さんの話ばかりで恐縮ですが、暇そうにしているから「あんまり考えてないんですか」って聞いてみたんです。そうしたら「いやいや、ずっと考えています。社員が幸せになるにはどうしたらいいかとずっと悩んでいるんですよ」と言っていました。売り上げのことは全く考えずに、社員が幸せであることについて悩み、考え続けていると。柳さんと近いですよね。だから、悩むのは正しくて、太鼓判なんです。ぜひそれを躊躇せずやり続けてほしいです。

柳:そうなんですね。

前野:だって、時代が完全にこっち側にきているわけではないから。まだまだ主力である古いタイプの人からあれこれ言われ続けます。でも人は幸せになるために生きているから、攻撃する人も含めて幸せになってほしいと心から思えばいい。本当にみんなのことを思っているかと自分に問うて「ああ、思っているな」とわかったら、攻撃した人のことは別に気にしなくていいんですよね。やっぱりホワイト企業大賞に応募するといいんじゃないかな。そこには仲間がいるから。

柳:なるほど。

前野:昔は1人で研究をしていたけれど、最近はeumoさんとか、多くの仲間がいる。世の中じゃまだマイノリティーだけれど、われわれの世界にくると、周りにうようよ仲間がいますよ。多分みんな同じだと思います。悩んだことがあって、苦しんだことがあって。そうやって一緒に歩んでいくのがいいですよね。

柳:そうですね。

前野:ある時、福沢諭吉先生のところに刺客が来たそうなんです。でも「まあまあ、俺の命を取ってどうすんだ」「薩長派と天皇派で争っているけれども、今学問をしとかないと列強にやられちゃうから学問をやっているんだ。俺を殺したりしないで、ここで勉強しなさい」と。結局その人は一番弟子になって、その子孫が今、慶應の教授をしているんです。だから敵が来ても「まあまあ、幸せが大事だから」「話を聞いてくださいよ」というふうにありたいと思っています。

―幸福になるためのエッセンスが詰まった心に響くエピソードですね。今日の対談を通じて、多くの人が幸せであれるようになれたらと願っています。ありがとうございました。

※感染対策を十分行った上で対談・撮影しております。


【対談パートナー】
前野 隆司氏
慶応大学大学院システムデザイン・マネジメント研究所教授
ウェルビーイングリサーチセンター長

山口生まれ。広島育ち。84年東工大卒。86年東工大修士課程修了。キヤノン株式会社、カリフォルニア大学バークレー校客員研究員、慶應義塾大学理工学部教授、ハーバード大学客員教授等を経て、2008年より慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科教授。2011年より同研究科委員長兼任。研究領域は、ヒューマンロボットインタラクション、ハプティックインタフェース、認知心理学・脳科学、心の哲学・倫理学から、地域活性化、イノベーション教育学、創造学、幸福学まで。また、委員長を務める文理融合の大学院SDM研究科では、環境共生・安全などの社会的価値を考慮した様々なシステムのデザインに関する研究・教育を行っている。著書は「思考脳力のつくり方」(角川新書)、「幸せのメカニズム」(講談社)など多数。

【ファシリテーター】
岩波 直樹氏
株式会社 eumo 取締役 ユーモアカデミーディレクター
株式会社 ワークハピネス Co-Founder
一般社団法人 ユーダイモニア研究所 理事

大学卒業後、富士銀行(現みずほ)入行。2002年ワークハピネスを共同創業。組織開発、人材開発を専門領域に現在も活動中。2017年社団法人ユーダイモニア研究所を共同発起人として立ち上げ、理事に就任。ポスト資本主義等の次世代社会システム創造の研究と実践に取り組む。2018年11月~2019年6月、内閣府知財戦略本部価値共創タスクフォース委員に就任。大企業のオープンイノベーションおよび新たな時代の社会創造についての知見と具体的アクションを促進する報告書をまとめる。2019年株式会社eumo立ち上げに参画。同7月取締役就任。人間性の発達や認識の拡大をもたらすためのeumo Academyを設立しディレクターを務める。

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