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ジンテック セミナー

今こそ地域経済エコシステムを
~可能性の地域金融を俯瞰して~

金融庁 監督局 地域金融企画室長 日下 智晴 氏

金融行政を、リスク起点からビジネスモデル起点に変えていく

昨年12月に金融検査マニュアルが完全に廃止され、われわれは、いよいよ本格的に究極的な金融行政の目標に向かって歩み始めました。金融庁は金融行政あるいは社会全体を守る立場から、地域金融機関の皆さま方と共に課題解決をしていくという方向にシフトしていっています。今回の金融行政方針でも「金融庁の改革」を入れました。この未曽有の危機において、誤りなき金融行政を進めていくためにも、金融庁の改革をしっかりと進めていかなければなりません。長きにわたって実行してきた金融検査マニュアルには、金融機関のビジネスモデルという視点が漏れていた。これがわれわれの大きな反省点です。これから金融庁がやるべきは、まず金融機関のビジネスモデルをしっかりと見ること。それによりビジネス全体を理解し、どのような工夫や努力があるのかを理解した上で、最終的にリスクを見ていく。そういう視点の変容が必要です。リスク起点から、ビジネスモデル起点に金融行政を変えていくことこそが重要であると考えています。

金融仲介機能の発揮に向けたプログレスレポ―ト

この5年間、地域金融機関の皆さまが創意工夫あふれるビジネスを展開できるよう、金融庁は段階的に改革を進めてきています。昨年は「金融仲介機能のプログレスレポート」によってわれわれの考え方を示し、金融検査マニュアルを廃止しました。昨年の時点では、まさかコロナにより今のような状況が起きるなんて、夢にも思っていませんでしたが、われわれは、金融仲介機能をさらに進化させるための土台となる考え方として、変革の必要性をより強く意識した経営を求めてまいりました。今、全国的に、深く変革の動きが進んでいると感じていますが、これは金融機関の中に「自らが変わらなければ地域の未来はつくれない」という自覚が、全国で同時発生的に生まれてきている結果ではないかと考えています。金融行政がそれを後押しする立場にあるというのはもちろんですが、皆さま方の取り組みこそが地域を変えつつあるのだと思います。
プログレスレポートに書かれているのは「個々の地域金融機関が安定した収益や将来にわたる健全性を確保するための持続可能なビジネスモデルの構築の実現に向けた施策を展開する」「金融庁はそれを支援する」という考え方です。われわれが金融機関のビジネスモデルを理解し、後押しするんだということです。金融庁は“金融育成庁”として、多面的、多角的な施策に取り組んでいく。これは、われわれの決意です。

企業の社会的価値を理解する真の事業性評価は“対話”から

金融仲介機能において大切なのは、まず地域金融機関が企業に与え、その結果として金融機関が何かを受け取るという流れです。そのためには、地域に継続的な資金供給を行うことが重要です。3月以降、コロナ禍への対応として全国各地で数十兆円の融資がされましたが、これこそが地域金融機関の底力だろうと思います。また、われわれが地域金融機関のビジネスモデルに注目して以降、事業性評価とクリエーティング・シェアド・バリュー。この2つを特に強調しています。事業性評価の本質は企業がどのような社会的価値を生み出しているのかを理解するということです。そしてさらに価値を高められるようにサポートしていくこと、共通価値を創造することこそが地域金融機関の役割だと考えています。ですから事業をしっかりと理解するために、対話に臨んでほしい。金融機関と企業の対話は、新たな気づきにあふれ、その時間こそが価値を生みます。対話によって新たな気づきや価値を企業に提供できれば、その企業の成長、あるいは再生に資することができるはずです。

地域金融全体を考える「地域経済エコシステム」

従来、われわれは個々の金融機関の検査監督をしてきましたが、これからは地域金融全体を考え、「地域経済エコシステム」にも視点を持とうと考えています。地域社会があり、その中に行政、地域企業、地域金融、地域の活動家や市民団体と様々なステークホルダーがいる。そしてそれぞれが関連しながら大きなエコシステムが形成されています。それに対して全体としてどのような調和が取れているのかという視点が重要です。そういった視点で眺めた時に気になるのが地域金融機関同士の競争です。果たして地域のエコシステムにプラスになっているのか。また、地域金融と地域企業との間で共通価値が創造されているかについても関心を持って見ていきます。さらに、今年の金融行政方針では新たに“地域経済インテリジェンス”という言葉を用いています。地域に入り込んで活動することに加えて、地域の情報を集め、理解を深め、エコシステムづくり全体に貢献していきたいという願いの表れとしての新たな視点です。

金融機関はそれぞれのビジネスモデルを選択し役割を果たす

地域の1番手行とその他の金融機関には、役割に違いがあることに注目しています。一般的に地方版総合戦略や地域の成長戦略、産業政策といったグランドデザインは行政と地域の1番手行を中心としてつくられます。1番手行が関与する理由は、地域の産業構造全体を俯瞰することができる社会的地位にあるからです。まずはその産業全体を見る目を生かし、地域の産業政策をつくり込んでいく。その上で、地域のさまざまな金融機関がプレーヤーとなって個々の企業へのリレバンを行っていく。リレバンの方向性は「地域企業の価値向上のための支援」です。この構造がしっかりとできている県はエコシステムができている、もしくはエコシステムが成り立ちつつあるといえると思います。地域産業と地域金融が共に成長していくことこそが地域経済エコシステムの究極的な目的ですが、それが果たされることによってコロナ禍の時代であっても地域を守り、新しい時代を迎えることができると確信しています。地域におけるリレバンは、信用金庫、信用組合などの協同組織金融機関の中心となるビジネスモデルです。1番手行は全てをリレーションシップバンキングするには規模が大き過ぎ、大企業、中堅企業との取引が多過ぎる。トランザクションバンキングはいいとか、リレーションシップバンキングじゃないと駄目だとか、そういった議論ではなく、個々の金融機関がそれぞれのプレースタイルにあったビジネスモデルを選択していくことがより重要であると思っています。

対話ありきのリレーションシップ・バンキング

リレーションシップバンキングが向かう方向性について、アンケート結果から考えてみたいと思います。昨年のアンケートでは対話が行われていて、事業性評価が進展していると思われる銀行と企業との関係と、そうでないところを比較しました。「あなたはメインバンクから提案されたこのサービスを使いましたか」という質問において、融資については対話の有無による応諾率に差はあまりありませんでした。対話に基づいて出してくれるお金も、対話が全くなくて出してくれるお金も、お金はお金、100円は100円。だから大きな差がでない。とても分かりやすいですね。ところが、融資以外のM&A、ビジネスマッチング、経営改善診断、IT化支援といった経営支援サービスについては、応諾率に倍の差が出ました。対話がなされている金融機関による経営改善サービスの応諾率は48%と非常に高い。ところが、対話ができていないところの応諾率は24%。この結果の違いは対話ありきの次世代リレバンの在り方を物語っていると思います。

規制緩和によるビジネスモデルの変革こそが可能性

ここ何年かの大胆な規制緩和は、金融機関のビジネスモデル変革を後押しするのに十分な質・量を伴っていると思います。その象徴的な緩和の1つに5%ルールの例外の拡大があります。これまでは金融機関の支援により企業価値が上がった場合、フィーや金利でリターンを得ていました。これを株式のリターンという形で得ることができれば、シンプルかつストレートな企業と金融機関の共通価値の創造になります。そういった意味で、株式を取得することのインパクトは非常に大きい。その他付随業務でさまざまなコンサルティングフィーも取れますし、銀行の店舗を完全にリニューアルすることもできます。人材マッチングサービスで手数料を取っても構わない。こういった規制緩和によって、金融機関はいよいよ企業に対して人、物、金、情報という経営資源全般に対して総合的なコンサルティングを提供できる状況になりつつあります。これがまさに地域金融の可能性であり、この状況が金融機関の持続可能なビジネスモデルの構築にも、企業の成長にも資することに間違いありません。

多様性から生まれる地域経済エコシステム

今年6月、金融庁主催による地域金融のサミットを開催しました。金融庁に入庁してからのこの5年間、いろいろな方とのご縁がつながり、今日ご登壇いただく小野先生、京都信金の増田元会長、そして山口フィナンシャルグループの吉村元社長という豪華3本立ての基調講演となりました。コロナによって無観客を余儀なくされましたが、収録型になったことでより多くの方にお届けできたのは非常に大きな効果だったと思っています。まだご視聴いただいていない方はぜひご覧ください。増田元会長は未来を見据えて「コロナ後の地域金融」というテーマで真剣にわれわれの未来の在り方についてお話をされました。また、吉村元社長は自分達をリージョナル・バリューアップ・カンパニーと再定義し、地域の価値を高めることが私たちのビジネスであり「昔は銀行だったみたいだね」と言われる日が来るとさえおっしゃっていました。それぞれの金融機関がそれぞれの道を歩み始めている。この多様性こそが地域の持続性に直結するんじゃないかと感じています。金融機関がそれぞれの手法、理念に応じた動き方をすることよって地域全体のエコシステムを形成していくことこそが私たちのチャレンジです。お互いの違いを生かし、尊重し、そして全体としての地域を盛り上げていくにはどうすればいいか。それぞれの地域金融機関が、自らの規模や特性、あるいは歴史や理念に従って、多様に進化する。まずは地域の産業構造や、行政の方針などからおのずとみえてくる自身の役割を考えていただき、自らの方向性、未来を描いていただけることを願っています。

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