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第1部 基調講演

ジンテック セミナー

令和2年度金融行政方針について
~地域金融行政を中心として~

金融庁 監督局 参事官 石田 晋也 氏

金融庁発足から現在にいたる大きな流れ

まず始めに前金融庁長官の時代に、現長官である氷見野長官と私、さらに数名で作業をした「金融行政の基本的な考え方について」に関して話をします。長らく金融庁にいる中で、普遍的なものだと思っていた行政の基本的な考え方を改めて考え直すのは非常に苦しい作業でした。この資料は「金融行政を巡る主な出来事」として、われわれの歴史から入っていきます。金融庁は1998年に前身である金融監督庁として発足。当時は大型金融機関の破綻が相次ぎ、いわゆる日本型の金融危機に陥っており、「財政金融分離」を目的に立ち上げられました。そして1999年、不良債権の査定という課題解決のために金融検査マニュアルが策定されました。1990年代は「日本に一体いくらの不良債権があるのか」が常に話題になっていて、当時の大蔵省の公表資料では20兆円、フィナンシャルタイムズの報道では100兆円、その他の媒体でも実はもっと多いのではないか、もしくは少ないのではないかと様々な憶測が飛んでいました。この不良債権問題を素早く処理していくためには、統一的な物差しで厳格な検査をしていくべきとして金融庁が動き出したわけです。そして、この問題は2005年には主要行の不良債権比率の目標を達成し、リーマンショックの前におおむね片付いていました。ところが今度は新たな課題、経済成長の鈍化に直面していきます。われわれの焦点も金融面での支援によって「産業の育成」や「経済の成長」を引き出し、高めていくことに変わっていきました。その間にはリーマンショックや大震災など、その時々で課題があったわけですが、このような大きな流れを経て、金融庁の発足から今年でちょうど20年を迎えました。考えてみれば20年も前に作られた道具が現在もそのまま使えるわけがないのは当然であって、いろいろと考え直さなければならないタイミングが来ているのだと思います。

時間の経過とともに目立ち始めた副作用

金融庁発足当時は金融危機により深刻化する不良債権問題への対応こそが大きな課題でした。ですから、金融庁発足時の検査・監督手法の特色の一つとして「ルール重視、事後チェック」というものがあり、私が若い頃の国会の想定問答でも、いつもルール重視、透明な行政、事後チェックということばかり書いていました。これは裏返すと、裁量がない、統一的、誰がやっても同じ結果になるということです。さらには「厳格な個別資産査定」中心の検査で不良債権をあぶり出す。統一査定、横串査定と言われていました。従って、金融機関ごとの融資の方針、業務の特性あるいは個性といったことよりも、横串で刺し、その不良債権がどの区分になるのか、どんな査定結果になるのかを徹底して検査してきました。そして、1990年代はいろいろと大変な事件もありましたから、法令順守体制、法令違反の確認も重点的に実施してきました。ですが、時間が経過し、機械的にそれを繰り返す中で、当初は実効性があったアプローチもいろんな面で副作用が指摘されるようになってきました。「形式への集中、過去への集中、部分への集中」と言っていますが、形式の集中であれば、融資において借り手の事業内容ではなく、担保・保証があるかといった形式を必要以上に重視してしまう。また、顧客ニーズに即したサービス提供より、検査におけるルール遵守の証拠作りに注力し、いわゆる検査対応にエネルギーが割かれてしまうようになっていたのではないか。また、過去への集中では将来の経営の持続可能性よりも、現時点でのバランスシートの健全性やきれいさに議論が集中してしまっていたのではないか。そういった様々な問題が出てきたことについて、われわれは深く反省をしてきました。

全体的なバランスを追求していくべき

このような背景に基づき、金融庁発足当時の課題に合わせて作られ、長らく金融行政の目標に置かれていた「金融システムの安定」「利用者保護」「市場の公正・透明」という“清く正しく”という世界に特化した行政では弊害がでていること、さらには現在の経済の課題には合っていないことを改めて認識し、金融行政を根本的に考え直しました。そもそも金融行政は経済政策の一環ですから、究極的な目標は「経済の発展」、あるいは「国民の厚生の増大」であって、銀行が健全ならいいということではありません。経済の発展、経済成長、国民の厚生の増大に金融行政がどのように役立つのかを考えると、金融システムの健全性は非常に重要ではありますが、合わせて金融仲介機能も発揮させなければならない。「信用保証協会の保障付きの融資が多ければ多いほど、リスクアセットが小さくていい」といった話ではなく、健全性と金融仲介を両立すべきです。そして、利用者の保護も当然大事ですが、合わせて利用者の利便性やサービス向上を追求する必要がある。さらに、市場の公正も重要ではあるけれど、市場自体の活性化も考えていかなきゃいけない。全体的なバランスを追求していくべきなのです。金融庁は非常に特殊な状況で発足し、不良債権やコンプライアンスに特化した行政を行ってきました。しかし、もう少し一般的な、平時でも通用し得る目標に整理し直し、目下、行政を進めています。

不良債権の単純化・明確化が目的だった金融検査マニュアル

金融検査マニュアル廃止後の金融庁の検査・監督、特に融資に関しては多くの方が疑問を呈されました。そこで有識者にお集まりいただき、議論を進め、方向性や在り方を「金融検査マニュアル廃止後の融資に関する検査・監督の考え方と進め方」としてまとめていきました。20年ほど前、金融検査マニュアル策定当初はそれこそ半沢直樹のドラマのようで、金融庁検査における資産査定で「破綻先のため引き当てをしろ」と言われたら融資は終わり。会社の存続ができなくなりました。そういった金融庁の検査に対する批判は非常に強かったわけです。ところがこの数年で検査マニュアル撤廃の方向になってきたら「なくされたら困る」「なくした後どうするんだ」と、逆のことを言う方がどんどん出てきました。人間は良くも悪くも非常に惰性というか、継続してきたものが無くなったらどうしたらいいのか、思考が停止してしまうんですね。検査マニュアルを策定する当初の議論では「こんな資産査定のやり方では大変なことが起きる」「形式的すぎるのではないか」と多くの方が言っていましたが、だんだんとそういうことを言う人がいなくなり、当たり前になっていきました。検査マニュアルでは多様な融資先の様々な要素を非常に単純化して債権の分類をしましたが、それによって不良債権を単純・明確にして、当てはまったものを処理させるという、ある意味、目的がはっきりした、分かりやすいやり方でした。その後、当然ながらいろんな形で修正されましたが、最初は非常に単純な形だったわけです。特に償却、引き当てにおいては債務者区分を行った上で、担保・保証の有無等をベースに債権をⅠ~Ⅳに分類し、貸倒引当金を算出することが規定され、区分によって「一般貸引」と「個引」とに分けられました。一般貸倒引当金は債権額×予想損失率で計算され、予想損失率を算定する場合には貸倒実績を使っていいですよと。そうすると「貸倒実績がなければ全然引き当てがなくていいね」といった話にどの金融機関もなっていきました。一方、破綻懸念先の個別貸倒引当金はⅢ分類×予想損失率で計算しますが、これも貸倒実績で計算していいことになると、貸倒実績が少ないからほとんど引き当てをしなくていいという話になった。そして、少なくともコロナの前まではこれが当たり前になっていました。

日米における違い

金融検査マニュアルは米国を研究して作成されました。ですから、改めて米国における引き当て、償却の実務がどうなっているのかを勉強してみたところ、一般貸倒引当金の積み方の考え方に大きな違いがありました。検査・監督では金融機関が与信の質を正確に把握しているかを確認しますが、米国ではそれが直接、引き当てに連動しているわけではありません。引き当てについてどう考えるかというと、インペアードとノンインペアード、毀損債権か毀損していない債権かに大きく分け、毀損している債権は、償却額をチャージオフで早くやってしまいなさいと。一方で毀損していない債権、一般貸倒引当金に相当するところは機械的に判断するのではなく、融資ポートフォリオの特徴を示す金融機関の融資方針によって異なります。不動産中心、中小零細企業中心、あるいは特定のグループ中心といろんな融資方針があるわけですが、金融機関の経営者は融資方針なり特性に応じて、特に定性的な要因を加えて、必要に応じた引き当てをすることが広く一般的に認められている。日本とはそこが大きく違っていました。日本は言葉としては予想損失率と書いていますが、実際には方針や定性的なことを加味した引き当てという考え方ではなく、とにかく機械的に「実績率で掛ければいい」というやり方になっています。不良債権の回収不可能なところはチャージオフを早くするというところに変わりはませんが、ポートフォリオに明確な融資方針があり、金融機関の経営者がその方針に基づき、リスク特性に応じた備えを講じる、まさに経営判断を引き当てにまで反映しているというところが根本的に異なりました。日本の場合、そういった裁量の余地をかなりの部分で犠牲にし、画一的に引き当て判断をするようにしてきたので大きな驚きがありました。米国の金融機関は一般貸倒引当金については、金融機関の経営者による定性判断を付け加えるのでかなり裁量の余地がある。そして、その裁量の余地が客観的で妥当なものであるかが確認できるよう、取締役会のガバナンスがしっかりと機能しています。

金融機関の創意工夫を支援する

検査マニュアル廃止後の融資に関する検査・監督の考え方と進め方のポイントについてお話します。これからは「金融機関が創意工夫を行いやすくするにはどうしたらいいのか」。そういう目線で議論をしていかなければなりません。金融検査マニュアルではみんなが同じであるための議論をしていたわけですから、180度の転換になります。「何であなたは違うの?」という議論はある面で厳格で、議論しやすくもありますが、みんなが金太郎飴みたいに同じになってしまう。ですから金融機関ごとに経営理念や戦略の多様性があることを理解して、それぞれの金融機関が個性や特性を発揮しやすくなっていくような検査・監督を行っていきます。そして引き当てについても、当局が検査・監督を実践することで、顧客の業況の変化をより早期に引き当てに反映させることができる、あるいは将来を見据えた情報を的確に反映してもらえるよう促していきたい。新しい検査・監督ではそういったことについてわれわれと金融機関で議論していこうと考えています。

将来の情報、あるいは市場の見通しを考慮していく

今までの引き当ての実務、また検査・監督の視点は、過去の定量情報、端的に言えばバランスシートに重きが置かれてきました。しかし本来、引き当てについて考える際、金融機関はもっと個社あるいは業界の将来の情報、もしくは市場の見通しといったものを考慮に入れ、反映していかなくてはなりません。これは今までと相当違いますし、われわれもどうやったらそれがやりやすくなるのかを議論していかなければならないと考えています。ただ、金融検査マニュアルに基づく内規や実務が定着している金融機関は非常に多いと思いますし、引き当ての実務を急にあれこれ変えろと言われても、難しいとも思います。ですから、今までの実務を否定するということはありませんが、これからは将来情報などを融資方針や引き当てにもっと反映させていきたい。公認会計士協会や監査法人の皆さまとも監査時における課題、裁量や連続性について議論をし、考慮していただきながら進めていきたいと考えています。

コロナ禍における地域金融機関の役割

「令和2事務年度の金融行政方針」の地域金融における柱は「コロナと戦い、コロナ後の新しい社会を築く」です。2月以降、再三にわたる要請文を出させていただいたり、あるいは制度金融を企画・執行したりするにあたって、皆さまには大変ご協力いただいています。資金繰りについて心配される事業者の方がたくさんいらっしゃったわけですが、皆さまのご努力によって資金を出していただき、心配の声が少なくなってきたと感じています。とはいえコロナ自体は収束になっていませんから、引き続き売り上げが不安定な事業者の方もいらっしゃいます。ですので、コロナの関係では大きく2つ。1つ目は、引き続き事業者の方の状況をできるだけ把握していただき、制度融資を含めて資金繰り支援をしていただきたい。2つ目は、これから資金繰りの次の段階の問題に直面される事業者の方が増えると思われます。事業再生あるいは経営改善という、資金繰りよりさらに難しい、これまでとは異なる局面の問題が出てきます。いつまでも「資金繰りだけなんとか回し、借金が増えるだけ」というわけにはいきませんから、既存の債務問題を含む経営改善、事業再生に直面する時期がきます。再生支援協議会、REVIC、商工中金、公庫といろんな支援の道具が揃ってはいますが、経営改善、事業再生の支援の中心になるのは一番お付き合いのある民間金融機関の皆さまです。ですから、どういった支援の道具を使い、事業再生あるいは事業再編、または経営改善をしていくのか、事業者の方とよくご相談いただきたい。皆さまのリードが大変重要になってきます。今、事業者の中にはどうしていいか分からずに苦しんでいる方が非常に多いわけですが、持っている知識やネットワークを使って事業者の支援ができる金融機関と、打ち手を模索している間に時間だけが過ぎていってしまう金融機関があり、金融機関の力量によって対応がかなり違ってきてしまうのです。ぜひ、今日を含めた様々な機会を活用し、金融機関における事業者支援体制を構築していっていただきたいと思います。私たち金融庁も事業再生に長けた様々な方のノウハウを全国の金融機関の方と共有するような施策を検討していますので、ぜひ活用していただきたいと思います。

横の連携が支援スピードを上げていく

地域には再生支援協議会、保証協会、あるいは公庫などいろんな機関があります。さらには、税理士や経済団体、商工企業団体など、中小企業を応援する様々な方がいらっしゃる。そして、事業者を支援する方たちの横の連携が非常によく取れている地域があります。保証協会や地域の一番手行が中心になってやられているところ、形はいろいろありますが、支援する方たちの横の連携がうまく機能している地域は、事業者に対する支援も非常に早い。地域における連携体制の状態によって、事業者支援のスピード、そしてやり方にかなりの違いが出ているように感じています。ですから、ぜひ横の連携体制を作っていっていただきたい。地域連携については誰が中心になって作らなければならないと決まっているわけではないので、どこが、そして誰がリーダーシップを発揮していくのかは、進めながら見えてくることだと思います。財務局、財務事務所にも横の連携体制を作る、あるいは作るお手伝いを進めていってもらいたいと話しをしていますので、皆さまにも注力していただけたら大変ありがたいです。

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