【変化への対応力を磨く:自衛隊式マネジメントから学び、図上演習で進む】第5回:リーダーシップとフォロワーシップ
コラムJライブラリーをご覧の皆様、こんにちは!
前回は、自衛隊のマネジメントである「統率」を構成する「指揮」「統御(とうぎょ)」「管理」についてその概要を紹介しましたが、実はその中の「統御」こそがリーダーシップの本質となります。今回から数回にわたり統御についてご紹介したいと思います。
統御(Control/Motivation): メンバーの動機付けを行い、能力を最大限に引き出す働きかけです。企業で言えばモチベーション管理、チームビルディング、人材育成にあたります。
統御について紹介するために、まず、統御により部下の信頼やモチベーションを高める事で得られる「フォロワーシップ」について触れたいと思います。
皆さん、「フォロワーシップ」と聞いて、どんなイメージを持ちますか? 単なる「従順な部下」という誤解は、今日で払拭しましょう。フォロワーシップとは、「リーダーのビジョンや考えを理解し、自ら考え、積極的に行動し、組織に価値をもたらす『主体的で貢献意欲の高いパートナー』としての役割を果たすこと」とされています。
組織の成功はフォロワーが握る
この概念を提唱したのは、カーネギーメロン大学教授のロバート・ケリーです。彼は、組織の成功において、リーダーの影響力が1〜2割なのに対し、フォロワーの影響力は8〜9割を占めると指摘しました。こう聞くと、驚きませんか? リーダーシップとフォロワーシップは、まさに組織の成果を最大化する「両輪」なのです。
この視点に立つと、「よきリーダーシップにはよきフォロワーシップが生まれる」という言葉が、いかに本質を突いているか理解できます。リーダーの質が、メンバーのモチベーションと自発的な貢献意欲をどれだけ引き出せるか、つまり「統御の成果」に直結するのです。
フォロワーシップの二つの柱
では、「良質なフォロワーシップ」とは具体的に何でしょう? ケリーは、フォロワーが持つべき2つの行動特性を挙げました。
思考の独立性・批判性:
リーダーの指示を鵜呑みにせず、自ら考え、分析し、必要なら建設的な意見や改善策を提案する力です。単に従うだけでなく、より良い方法を模索し、知的に貢献する姿勢を指します。「現状に対し問題意識を持つ力」と言い換えてもいいかもしれません。
活動への積極性・貢献意欲:
与えられた業務を高い意欲と責任感で主体的に遂行する力です。指示を待たず、自ら課題を見つけて解決策を講じたり、率先して行動したりする積極性です。
自衛隊に「意見具申(いけんぐしん)」という文化がありますが、これは「建設的な批判力」の好例です。リーダーの指示に対し、メンバーが建設的な意見を述べ、リーダーはそれを踏まえて意思決定する。このように、リーダーシップとフォロワーシップは相互に影響し合い、フォロワーシップがリーダーシップを強化し、組織全体の成果を向上させるのです。
リーダーの「独断」を支えるフォロワーシップ
フォロワーシップが強いチームは、危機管理にも強いです。リーダーと連絡が取れず指示を受けることができない状況でも、メンバーは状況を把握し、リーダーが下すであろう最適な判断を予測し、自律的に行動できる。自衛隊ではこれを「独断(どくだん)」と呼びます。一般には「勝手な判断」のように聞こえますが、「上司の立場に立って、最善の選択をとる」ことを意味します。リーダーの思考や判断基準を深く理解しているからこそできる、高度なフォロワーシップの表れです。
これは、ケリーが言う「思考の独立性」と「活動への積極性」が最高度に発揮されている状態です。コミュニケーションが途絶えるような困難な状況下でも、躊躇せず積極的に解決策を講じ、自主的に行動する。これこそが、不測の事態を乗り越える組織の力となります。
エピソード:フォロワーシップが突破した「不可能」の壁
私自身の経験からも、フォロワーシップの力を実感したことがあります。
私はかつて、航空自衛隊のトップである航空幕僚長を直接サポートするスタッフとして、基地の建設を担当していました。当時、幕僚長には「那覇基地に戦闘機を増やしたい」という目標がありましたが、基地は狭く、誰もが「不可能」と考えていました。もちろん、具体的な指示も出ていない状況です。
私は、同じ部署の戦闘機担当の先輩に「もしかしたら、土地を確保できるかもしれない」と相談しました。これは、幕僚長の目標に対し、自分にできることを自発的に考えた結果でした。先輩は、「ある程度進められたら報告しよう」と言ってくれました。
その言葉に背中を押され、私は行動に移しました。基地の用地は国土交通省から提供を受ける必要があります。私は直接国交省の担当者と水面下で調整を始めました。
最初は難色を示されましたが、私は幕僚長の「南西地域の防衛力強化」という上位目標を念頭に、基地機能強化が国全体の安全保障にどう寄与するかを丁寧に説明しました。国交省側の懸念も徹底的に聞き出し、解決策を多角的に検討し続けました。周囲からは「指示もないのに…」という視線もありましたが、私は「幕僚長が本当に望むこと」「その目標達成のために自分にできる最善の貢献」というケリーの「思考の独立性」と「活動への積極性」を常に意識して行動しました。
地道な調整が実を結び、最終的に国交省から、戦闘機を増設できる用地を提供してもらう道筋をつけることができました。これは、指示を待たずに動いた「独断」の側面もありましたが、決して自分勝手な判断ではありません。上司の目標を深く理解し、その実現のために私が「すべきこと」を自発的に考え、行動した結果です。
この経験は、「よきリーダーシップにはよきフォロワーシップが生まれる」という言葉の真の意味を教えてくれました。リーダーが明確な指示を出していなくても、その「望み」をフォロワーが理解し、自律的に行動することで、組織全体の成果に大きく貢献できる。私の行動は、航空幕僚長のリーダーシップが、私というフォロワーに自発的な貢献を引き出した証だと考えています。
さて、あなたの会社やチームでは、ケリーが理想とする「思考の独立性」と「活動への積極性」が高いフォロワーシップが発揮できる環境がととのっていますか?
もし「指示待ちの人が多い」や「意見が出ないな」と感じるなら、フォロワーシップを育てるためのリーダーシップの在り方を見直すべきかもしれません。
次回は自衛隊で伝わるフォロワーシップを引き出す秘訣について紹介していきたいと思います。
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