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【変化への対応力を磨く:自衛隊式マネジメントから学び、図上演習で進む】第3回 企業活動とリーダーシップ(前編)〜強い組織とリーダーシップとは?

合同会社セルフディフェンスパートナーズ コラム

皆様、こんにちは。前回は自衛隊式マネジメントスキルの一つである図上演習についてご紹介しました。今回は、企業活動におけるリーダーシップについて2回に分けてお伝えします。

現代の企業経営において、リーダーシップは企業の存続と成長を左右する重要な要素です。市場環境の変化や顧客ニーズの多様化が進む中、企業が競争力を維持し、持続的な成長を遂げるためには、優れたリーダーシップが不可欠です。本稿では、強い組織を築くためのリーダーシップの役割とその原則について解説します。

企業におけるリーダーシップの役割

ピーター・ドラッカーは「企業の真の目的は顧客を創造すること」と述べました。企業は、社会に価値を提供する使命を持っています。その目的を達成するためには、絶えず変化する顧客ニーズに対応し、組織を牽引するリーダーが欠かせません。

リーダーの役割は、明確なビジョンを示し、それを組織全体に浸透させることです。ビジョンの共有により、組織の存在意義をメンバーが理解し、自身の仕事がどのように貢献しているかを認識することが重要です。リーダーは、自らの行動を通じて企業の価値観や方向性を示し、メンバーの模範となる必要があります。

強い組織とは、単に能力の高い人材の集まりではなく、共通の目標に向かい協力し、困難に立ち向かうチームです。リーダーは、メンバー一人ひとりの強みを理解し、潜在能力を引き出すことで、チーム全体のパフォーマンスを向上させます。

強い組織を形成するリーダーシップの原則

強い組織を築くためには、以下の4つのリーダーシップの原則が重要です。

① 明確なビジョンの共有と浸透

リーダーは組織のビジョンを明確に定め、繰り返し伝え、浸透させる責務があります。これは単なる目標設定ではなく、メンバーのモチベーションを高め、一体感を生み出すものです。

東日本大震災という未曽有の困難に立ち向かった航空自衛隊のリーダーシップと、組織を一つにした取り組みの事例をご紹介します。

航空自衛隊のトップである航空幕僚長は、「被災された方々の迅速な救助救援、そして地域の復旧復興を全力で支援する」という明確なビジョンを掲げました。しかし、皆様もご経験があるように、トップが力強いビジョンを示しても、それだけで巨大な組織の隅々にまで想いが浸透し、全員が心を一つにすることは容易ではありません。各チームに個別の目標を与えるだけでは、多様な状況下にいる45,000人もの隊員たちの心を、ビジョン達成という一点に集約させることは難しかったのです。

そこで航空幕僚長は、現場の隊員たちのまとめ役である准曹士先任(経験豊富な下士官のリーダー)たちと連携し、隊員たちの心を一つにするための「合言葉」を考案しました。それが「千里同風(せんりどうふう)」――「遠く離れていても同じ風が吹き、心は一つ」という意味が込められた言葉――です。OB会の方々の支援も得て、この「千里同風」と記されたのぼり旗を、全国の基地へ配布しました。

「被災地で懸命に活動する仲間も、それを全国各地から支える我々も、想いは同じだ」。この「千里同風」の旗印のもと、隊員たちはトップが掲げたビジョンに向かって心を一つにし、強固な団結力を生み出しました。この一体感こそが、極めて困難な任務を完遂へと導く大きな力となったのです。

この事例は、経営者の皆様にとって、トップの明確なビジョン提示はもちろんのこと、それを組織の末端まで浸透させ、全員の共感と連帯感を生み出すことがいかに重要であるかを示唆しているのではないでしょうか。

② 信頼の構築と維持

リーダーとメンバーの信頼関係は組織の基盤です。リーダーが公正かつ誠実に行動することで、メンバーは安心して自律的に動けるようになります。

私が小隊長だった頃、ある隊員が経済的に困難な状況に陥り、出勤できなくなったことがありました。私は、彼が生活を立て直せるよう支援し、チームの信頼を得ることができました。リーダーが「いざという時にメンバーを守る姿勢」を示すことで、組織全体の結束力が強まります。

③ エンパワーメントと成長の支援

強い組織では、メンバーが自律的に考え、行動し、成長する環境が必要です。リーダーはメンバーに権限を与え、挑戦できる文化を醸成することが求められます。 失敗を恐れず学べる環境を整えることで、個々の成長が促され、組織全体の力が向上します。

④ 適応力と柔軟な対応

現代のビジネス環境は変化が激しく、予測不能な要素が多いため、リーダーには、状況に応じて戦略を修正する適応力が求められます。 成功体験に固執せず、常に新しい情報を取り入れ、最適な判断を下すことが、組織の持続的な成長につながります。

以上のように、リーダーシップは強い組織を形成する上で不可欠な要素です。次回は、自衛隊の「統率」の概念が企業のリーダーシップにどう応用できるのかを掘り下げていきます。

※本内容の引用・転載を禁止します。

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