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柳社長×中竹取締役 特別対談

ジンテック つなタイ-対談

前回対談から5年が経過。社会は大きく変容し、企業経営や組織の在り方そのものが改めて問い直される時代に入っています。激動する環境変化の中で、ジンテックはどのような学びを積み重ね、組織文化を育んできたのか。そしてどこへ向かおうとしているのか。

今回の対談では、合同会社セルフディフェンスパートナーズ代表、縄文アソシエイツ株式会社の西田千尋氏をファシリテーターにお迎えし、取締役 中竹氏と代表取締役 柳、それぞれの経験と実践をもとに、これからの10年を見据えた組織と人、企業、そして社会の在り方について語り合いました。

■対談日 2025年12月18日 

第1回対談はこちらから

はじめに

西田:本日は5年ぶりの対談となりますが、この間に私たちはコロナ禍を経験し、働き方から生き方に関する価値観まで、社会は大きく変容しました。デジタルやAIの進展も加速度的に進み、まさに今、さまざまなことが再定義されつつあります。本日の対談では、「価値共創」と「幸福追求」を軸に、ウェルビーイングの時代、そしてAIの時代において、どんな未来を描いていくのかを、お二人の視点から深掘りしていきたいと思います


5年間の学びと変化― コロナ禍からポストAI時代へ ―

西田: まずはこの5年間の学びと変化を振り返ってみたいと思います。2020年以降、リモートワーク、デジタル化、AI活用といった急速な変化を経験してきましたが、ジンテックはどのような学びを得て、どんな価値観や組織文化を育ててきたのかでしょうか。経営と組織、両面の視点からお話を伺えますか。

柳: 私が社会人になった頃、社会はいわゆる昭和的な価値観が色濃く残り、物事は左脳的に決められたり、進められたりしていました。左脳的な思考自体が悪いわけではありませんが、旧来の合理性最優先な成功モデルはどこかずれているように感じ、そのまま踏襲することにずっと違和感を覚えてきました。そこから考え、学んでいく中で「人にフォーカスすること」が何より重要になっていくという確信が高まっていき、コロナ禍より少し前にジンテックの社外取締役として中竹さんに参画いただきました。まず初めにお願いした全社員向けの研修の中で強く印象に残ったのは「心理的安全性」。中竹さんは当初「心理的安全環境」というわかりやすい言葉を使われていましたが、「なるほど、環境には物理的な環境だけでなく、人と人との関係性の環境も含まれるのか」と腑に落ちました。もちろんコロナのような事態はまったくの想定外でしたが、私たちが中竹さんと先んじて取り組んできたことが、コロナ以降の環境変化において大きな効果を生みだしました。コロナをきっかけに、リモートワークが普及したことで時空間の概念そのものが変わり、効率性や仕組み化は飛躍的に高まりました。さらに左脳化が進んだとも言えます。「ザ・モデル」に代表されるような体系化された手法も広がり、非常に合理的でよいと思う一方で、それでは補えない領域も確実にあって、人の関係性や心の在り方を大切にすることをより強く求められつつあるようにも感じています。私の印象では、今、社会はその両極に分かれつつある。だからこそ、左脳と右脳の両方を意識的に使い分けることが重要になってきていると思います。 


答えのない時代の組織力:自走・学習・アンラーン

西田:中竹さんは、企業に求められる人と人の関係性や組織力はどのように変わってきたと感じられていますか。

中竹:かつては「確かな正解」というものがあり、それを知っている上司が指示を出し、部下が実行し、成果を出す。そういう時代でした。しかし今は、「明確な正解はない」ということが社会全体ではっきりしてきています。むしろ、かつての正解を踏んでしまうことで、大きなリスクや失敗につながるケースも増えています。BANIという言葉で語られるように、社会はより脆く、非連続で、不可解で、不安定になっています。その中で求められるのは、答えを与える上司ではなく、皆で答えをつくっていく組織です。ジンテックでは、コロナ以前から「自走する組織」というテーマに取り組んできました。一人ひとりが考え、対話を通じて新しい解を生み出していく組織を、比較的早い段階から目指されていたように思います。

西田: 社員の皆さんはそうした考え方をすんなり受け止められましたか。

中竹: 最初は戸惑いがありましたね。様子を見ている方も多かったように思います。ただ、コロナ禍でのオンライン研修の頃には、チャットやブレークアウトルームでの対話が定着していき、気づけば自然に、隣の人と話すような感覚で、オンラインでも対話ができるようになっていました。その変化はとても印象的でしたね。組織には「学習力」が求められますが、知識の習得以上にアンラーン、つまり学び直しが大切です。過去の成功体験を手放し、新しい価値観をつくっていくこと。簡単ではありませんが、ラーンとアンラーンの両方できる組織こそが、これからの時代に適応していけるのだと思います。

西田:なるほど。アンラーンは、時として痛みを伴うものでもあると思いますが、その痛みを受け入れながら、あえて深く掘っていく、自分にアクセスすることが、重要なプロセスということでしょうか。

中竹: そうですね。ただ、痛みも一様ではありません。例えばマッサージも、痛いけれど「痛心地いい」と感じることがありますよね。人間の学びは、基本的に一度は心地悪い状態を通過します。その違和感や刺激が、次第に血肉になって、むしろ心地よさに変わっていく。そのプロセスをきちんと味わうことが大切だと思っています。


AI時代にあらためて問われる「人間らしさ」

西田: 組織や人が学び直し、前に進んでいくためには、リーダーの力や、挑戦を許容する組織文化が不可欠です。「人」や「働く」という言葉の意味を、今、お二人はどのように捉えていらっしゃいますか。

中竹: AIやテクノロジーが進化したことで、いい意味で「人間とは何か」を考える時代に入りました。最近のAIは感情理解も進み、知性の面でも人間を凌駕することが多く、アウトソース先として非常に優秀です。一方、私たちには五感を働かせ、研ぎ澄ませることでしか得られない、データ化されない“主観の世界”があり、これはAIには対応できない領域です。「少しイライラした」「安心してうれしかった」。そうした感情を言葉にし、共有する対話こそが、これからますます重要になる。その営みこそが、人間の役割をより鮮明にしていくのではないでしょうか。

西田: ありがとうございます。柳さんはいかがでしょうか。

柳:コロナ禍やAIの台頭によって、「人」や「働く」ことを取り巻く時空間の概念が大きく変わる中で、私たちが取り組んできた「価値共創」と「幸福追求」が、原点として改めて立ち上がってきように感じています。どんな環境変化が起ころうとも、最終的に大切なのは「自分たちが幸せであるかどうか」。人生には波があり、個人的にも仕事の上でも、苦しい局面は必ず訪れます。良いことも、つらいことも含めて受け入れていく。私たちの共通の友人である水野貴之さんはそれを「味わい尽くす」と表現していますが、その姿勢こそが充実感や達成感、ひいては幸福感につながっていくのではないでしょうか。豊かさの形は人それぞれだからこそ、自分が身を置く環境の中で「いかに豊かに生きるか」を考え続けることが大切なのではないでしょうか。


組織はどこまで個人に寄り添えるのか

西田: 私の前職である自衛隊では、入隊から今日までの隊員個人に関する身上(家族構成、貯蓄状況)からメンタルといった心情まで、あらゆることを指揮官が1on1で掌握し、組織的に把握する文化がありました。端的に言えば、人に対して非常にウエットな関わり方をしていたんです。民間企業に転職して5年が経ちますが、様々な企業文化に触れ、メンバーへの教育や1on1に割ける時間の圧倒的な少なさに驚きました。「民間企業はドライなのでは」と感じたこともあります。組織は個人の「豊かさ」や「生きがい」にどこまでコミットすべきなのでしょうか。またリーダーはどこまで伴走するべきなのでしょうか。

柳:人それぞれ価値観は違いますから、踏み込んで“指示”をすることはできません。その代わり、学びの機会や選択肢を積極的に提供しています。さまざまな材料を提示することで、それぞれが自分なりの豊かさを考えるきっかけになればいい。もう一つ大切にしているのは、私たちが「非常識経営」と呼んでいる考え方です。これは、常識を否定するという意味ではなく、「当たり前」とされていることに固執しない姿勢です。

西田:神話を疑ってみる、ということですね。

柳: はい。例えば制度や福利厚生も「当たり前だから」で終わらせず、枠を外したら何ができるかを考えてみる。その一歩を踏み込んで提供することが大事だと思っています。

中竹: それこそが小さなアンラーンですね。よく相談を受けることの一つに「個人のビジョンと組織のビジョンのずれ」がありますが、私は「コミットする前に、コネクトすることが大切」だとお伝えしています。そのために一番手っ取り早いのが、シェアすること。会社は何を目指すのか。あなたは人生でどこを目指すのか。それをきちんと聞きあう。そうすると、直接は結びつかなくても、どこかにつながる点が見えてきます。私の研修では、あえて普段は話さないテーマをアイスブレークから取り入れるのですが、「やりがい」「生きがい」といった話題を最初から扱うことで人が立体的に見え、距離が縮まり、つながりが生まれます。個人と組織は乖離しているように見えても、実はつながっていないだけ。システム思考のように、すべてはつながっていると捉えたうえで、どことどこを、どう結ぶのか。その設計こそが、これからの組織づくりに求められています。


「価値共創」の現在地と実践例― 顧客・社員・社会と生み出す“共創”の形 ―

西田:ジンテックの企業理念の中心には「価値共創」が置かれています。柳さん、この5年間で「価値共創」は社内外にどのように広がっていきましたか。

柳: ジンテック社員が大事にしてきたことはお客さまと「価値共創」をしていくことですが、コロナ禍ではそれが完全に止まってしまいました。皆が家にいて、会社にもごく少数しか出社しない。これまで経験したことがない状況に、どうしていいか分からない苦しい時期が続きましたが、そうやって世の中でもがき苦しんだ結果、さまざまな工夫が次々に生まれ、DX化、AI化が拍車をかけ、この5年間で社会は劇的に変化しました。社内でも「従来から大切にしてきたこと」「取り組んできたこと」がより機能するようになった感覚があって、お客さまの声も、社内の声も、以前より拾えるようになってきた実感があります。

西田: ありがとうございます。中竹さん、共創を組織のカルチャーとして根づかせるうえで、経営者が意識すべきこと、また、有効なアプローチがあれば教えてください。

中竹: 共創を生むために一番大切なことは、対話―ダイアログ―です。対話と会話は異なり、「そうだよね」「ああだよね」と合意形成へと向かう側面が強い会話に対して、ダイアログは問いを通じて自分が思いも寄らなかった答えに到達し、自分自身が驚いていくプロセスです。そして、これこそがイノベーションや共創の土台になります。ですから経営者の条件の一つは、対話が生まれる場や環境をどれだけつくれるか。「共創しよう」と言いながら答えを授けてしまう経営者は多いですが、「自分はこう考える。あなたはどう思う?」「今こういう矛盾があるけれど、別のアプローチはない?」そういう問いを生み出すことがとても大切です。もう一つ大事なのは経営者自らが学ぶこと。経営者が学ばない組織は、いくら「学べ」と言っても学びません。今日も柳さんは取締役会の前に講演を聞きに行かれていましたが、勉強会に自ら足を運ぶ。全国を回ってお客さまの生の声を拾いに行く。そうやって他者から学ぶ姿勢が、経営者にとって一番大事なのではないかと思います。

西田: 私を含めて、対話の難しさを感じている人は多いのではないでしょうか。人の話を聴くこと自体が難しいですし、事実と解釈を分けることも簡単ではない。同じ言葉でも自分のフィルターによって、ネガティブに捉えてしまったり、ポジティブに捉えたりもします。人の話をきちんと聴くためのポイント、対話のステップのようなものがあれば、教えていただけますか。

中竹: ポイントというよりはスキルですね。傾聴は小手先ではできませんから、スキルをしっかりと鍛えないといけない。「話を聴く」ことに加えて、「質問をする」こと。さらに難しいのは「承認する」ことです。承認するには、相手をよく観察しておく必要があります。例えば「ありがとうございます」という言葉でも、表情によって意味が変わりますよね。傾聴と同時にしっかりと観察していないと分からないことがたくさんあります。いろいろな企業の経営陣の方に傾聴・質問のトレーニングをしてきましたが、実は傾聴と質問はAIも非常に優秀なんです。でも承認は圧倒的に人間の領域です。結局は、自分の中で問い続けるしかありません。「今日はちゃんと聞けたかな」 「いい質問ができたかな」 「相手をちゃんと承認できていたかな」と日々、振り返り、繰り返していくことだと思います。


つなタイとリーダーシップ:訓練としての文化づくり

柳:当社では、週1回30分、全部署をシャッフルしてつくったグループでテーマを決めて対話をする時間、「つながりタイム」―我々は「つなタイ」と呼んでいます―を設けています。例えば傾聴がテーマなら、その2カ月間は傾聴について話す。それぞれの意見が職業的なバックボーンから出てきているのか、個人的な背景から出てきているのかなどを観察しながら、互いを理解していきます。面倒くさいと思う人もいるかもしれませんが、小さな組織ほど、本音が大切です。昭和の時代に気づいたのは、会社にとって一番重要な社員の意見は、たばこ部屋と居酒屋でしか出てこない、ということ。居酒屋でどんなに勇ましく言っていても、翌朝、意見としては出てこない。

中竹: なかったことに。夢の世界になってしまう。

柳: そう。こんなにもったいないことはありません。だからこそ、普段から「少し話せる」訓練ができるような、仕組みを持つことです。それによって心理的安全性も高まり、必要なら対立してでも話せる関係になる。部門同士が対立すること自体は、ある意味で健全です。

西田:つなタイによる変化は、実感されていますか。

柳:長く続けているのでマンネリ化しているように感じている部分もあると思いますが、定期的に対話する時間をつくることで社内の風通しが良くなり、皆で「自分たちはどうしていくべきか」を考えられるようになってきているように感じます。新しく入ってきた社員には、「え、こんなことをやっているの?」と良い意味で驚かれています。

西田:中竹さん、ジンテックの価値共創をさらに進化させていくために、「つなタイ」をもう一歩深めるとしたら、どんな視点や工夫が考えられますか。

中竹:まず大事なのは、きちんと振り返ることだと思います。当初からいる人に「始めた頃はどう思っていましたか」と聞いてみること。「正直、すごく面倒くさいと思っていた」「何を話していいか分からなかった」という意見が出てくるはずです。定着の価値や、施策の意味付けは、振り返ることで初めてわかる。私たちは新しいことに目が向きがちですが、今やっていることを見直すことも、同じくらい大切です。もう一つ、柳さんが「訓練」と言っていたことも大事なポイントです。訓練だと分かっていれば、最初はうまく話せなくてもいいし、気まずさやマンネリを感じる時期があっても、それ自体がプロセスだと捉えられます。新しい取り組みを増やすというよりは、例えば必ずいる「この人が入ると、必ず盛り上がる」という人をファシリテーターとして表彰してみる。それだけでも、場の質は変わると思います。また、つなタイでも何でも、新しい案は現場から出てきたほうが圧倒的にいいので、つなタイの中で「つなタイのやり方そのものを考える場」が生まれてくるのもいいと思います。

西田:第2のつなタイのコアメンバーのような形でしょうか。

中竹:そうです。現場から出てきたほうが、本質的なんですよね。新しいことを始める時は、たいてい文句が出ますし、半信半疑になります。まだやっていないのだから、納得できないのは当たり前です。やる前に腹落ちする人が多いなら、そもそもそんなことはやらなくてもいい。ジンテックの中でも、価値共創を生むための新しい動きが、現場から生まれてくるといいなと思います。


人を活かすリーダーとは

西田:AIの進化に伴い、最近は夫婦げんかですらChatGPTに相談するとうまくいくという話も聞きますが、メンバーとの関わり合いという観点でリーダーシップはどう進化していくのでしょうか。リーダーは、何をどう鍛え、どう発信していくべきですか。

中竹:まずは AIにできないことを明確にすることが大切。今のところ、人間が圧倒的に有利なのは二つだけです。謝ることと、感謝を伝えることです。AIから謝られてもうれしくないけど、人から直接謝られると心に響きますよね。感謝も同じです。

西田:それは、人と人とが向き合うことそのものですね。体温が伝わるというか。柳さん、ジンテックではリーダーにどのような姿勢や役割を期待されていますか。

柳:自分が置かれた立場の中で、きちんと決断できること。そして、その決断を上位者にきちんと進言できることですね。判断は、これまでの基準や自分なりの考えに従えば意外とできるんです。ただ、仕事では決断が求められる場面が多く、その段階になると、急にできなくなる人が増えます。個人レベルの判断を組織レベルの判断、そして決断にどう昇華していくか。そこを鍛えていくために、状況報告だけを持ってきたら「で、あなたはどう思う?」と必ず聞きます。「一番よく知っているのは、あなたでしょう」「自分はどう考え、会社に何を望み、何をするのが一番いいと思うのか、聞かせてほしい」と。私からは、なるべく決断を伝えません。最終的にトップとして決断する場面はありますが、一人ひとりが自分の考えを持って臨んでくれれば、委ねることもできますし。

西田:裁量を渡していくことも、大事ですよね。

中竹:それは大前提です。エンパワーメントですね。

西田:過去、指揮官として大切な言葉として、「任せて任せず」という言葉を頂いて、以降この言葉が好きなのですが、とても難しい。上位になればなるほど、待つジレンマは大きくなる。

中竹:待つのが仕事だと思えばいいんです。「自分でやったほうが早い」と言う人がいますが、問われているのは早さよりも、成長機会をどうつくるか。

西田:確かにそうですね。柳さんは、メンバーの可能性を信じて任せている、という感覚でしょうか。

柳:そうですね。可能性は誰にでもあるので。私は時々「地獄を見ましたか」と聞くことがあるんです。

西田:地獄、ですか。

柳:「三途の川の向こう岸まで行って、必ず戻ってきなさい」と。「極限の状況で、何を考え、どう決断するか」という意味なのですが、脅しているわけではなくて(笑)。もちろん必ず助けますし、行きっぱなしにはさせません。ただ、人は極限の場面でこそ底力が出て、それが普通になっていく。跳び箱も、一度5段を跳べたら、次からは跳べます。だからこれも訓練だと思っています。

西田:お二人とも、そうした修羅場のような経験はありますか。

中竹:僕の人生は、ずっと修羅場です(苦笑)。今はもう危険な場所に捨て石のように行くのが、自分の役割なんだと思っています。理解されないことも多いですが、結局は修羅場が好きなんでしょうね。だからこそ、普通の人が怖いだろうというところへ、優しく連れていきたいと思っています。

西田:その痛みが分かっているから。

中竹:そうです。僕のコーチングは「崖っぷちまで一緒に行く」という手法です。震えるところまで行かないと、人は本気になれない。僕自身、幼い頃から死の恐怖を味わってきたので、誹謗中傷くらいは、かすり傷のようなものです。

西田:私の座右の銘も「死ぬこと以外はかすり傷」(笑)ですが、中竹さんのご経験にはとても及ばなさそうです。柳さんはいかがですか。

柳:私の場合は困難な案件を担当させられることが本当に多くて、なぜか難しい仕事が重なってやってくるんです。ジンテックの最初の頃もまさにそうでした。「不幸が回ってくるのは自分の仕事の仕方が悪いのではないか」と思ったこともありましたが、なんとか一歩ずつ進め「まあ、こんなところかな」と納得できるところまで持っていくという経験を繰り返してきた結果、そうではないことがわかってきました。人が悪いから起きるのではないし、人に能力がないからこうなるのではないのです。起きることは起きる。その中で意志を強く持って解決しようと努力し、逃げずに立ち向かうという経験をしてきたことで「きっと乗り切っていける」と思えるようになってきました。そう考えると、自分がやってきたことは、さんずの川の向こう岸まで渡りかけて戻ってくる。その繰り返しだったのだと思います。今では崖っぷちに立たされても「落ちないようにするにはどうするか」とか「仮に落ちたとしても、必ずはい上がってこられるだろう」とかを瞬時に考えられるようになりました。

西田: 崖っぷち具合を、味わい尽くして振り返って、「乗り越えられた。だから次も行ける」と確認する経験は大事ですね。


組織を強くする個々人の在り方

西田:「組織を強くする個々の在り方」というテーマに移りたいと思います。それぞれの在り方から関係性がつくられ、文化として根づき、どう組織の力になっていくのか。いわゆるウィニングカルチャーをどう生んでいくのか。中竹さんは「個々人の在り方が組織をつくる」と述べられていますが、「在り方を磨く」とはどのようなことなのでしょうか。

中竹:企業が在り方―ビーイング―の重要性を語り始めたのは近年です。「仕事はとにかくやればいい」というドゥーイング中心のスタンスでは、持続的な組織の成長が望めないことに気が付き“ウェルビーイング”や”やりがい”という言葉が出てきました。今では何かを“やること”以上に、「自分がどんなスタンスで、どんな価値観で生きているのか」が大事になってきていますが、これを一言で言うと「自分らしくいられているか」ということ。

西田: とても難しいテーマですね。

中竹:難しいですよね。「自分らしくいる」ということは、”オーセンティックリーダーシップ”を発揮するということ。誰かのまね事や、借りてきた言葉や姿ではなく、本来の自分をさらけ出せるか。とても重要な、全ての人に必要なリーダーシップの在り方です。もちろん、どんなにさらけ出そうと思っても、自己努力だけでは限界がありますから、組織の心理的安全性、心理的な安全環境は必要です。その中で、一人ひとりが「今日は自分らしかったかな」「今月は自分らしくいられたかな」「会社で自分らしく振る舞えたかな」という問いを持つことですね。

西田: 自分が自分であることを認めたり、愛したりするような感覚でしょうか。

中竹:まさにそうです。その中には一見、二項対立の二つの概念が含まれています。一つは自己効力感、つまり自信。「自分はこれができる」という感覚がないと自分らしくはいられません。でも、これが過剰になると勘違いした傲慢な人になってしまう。もう一つは自己肯定感。「完璧でなくても、自分は自分でいい」と受け入れる感覚で、特別な何者でもない自分、駄目なところもある自分をそのまま受けとめている状態です。自己肯定感と自己効力感は全く違いますが、両方が確立されていないと、自分らしく振る舞えません。「自分はこれができる」という特別感と、「できない自分でもいい」という受容。このバランスがとても重要で、それがあって初めて自分らしさが見えてくる。それをどう養うかですね。

西田:豊かに生きていくためのとても大切なキーワードですね。今の話をお聞きになって、柳さんはどうお感じになりますか。

柳:自己肯定感や自己効力感については、中竹さんの研修などを通じて学ばせていただいていますが、重要なのはそれを会社の中でどう根づかせていくか。学んで終わらず、「そうか」と思ったことをいかに組織の中で生かせるかを考えることが大事。だから「どのような在り方をしていけばいいか」という探求を繰り返してきています。

西田:「自分がどうありたいか」という問いを持てる文化を醸成し、自律的な組織にしていくために、意識されていることはありますか。

柳:「自分がどうありたいか」と聞かれた時、経験が少ない若手ほど「え?」となりますよね。そんな時「今置かれているところから、少し目線を上げてみたらどうか」と伝えています。視座、視点、視野を、今見ている世界から少し上に上げると、急に景色がよく見えるようになり、自分がどうありたいかも見えてくることがあります。そして、見えた世界を前向きに、熱意と我慢強さ、レジリエンスをもって味わってみることです。どんな苦労も困難も、「全てが人生の糧」という意識で味わい尽くそうとする中で、自分なりの「どうありたいか」が、さらに見えてくるのではないでしょうか。

中竹:今、柳さんが話された「視座や視点を上げる」というのは、人間の器の話ですよね。これからは「何ができるか」ではなく、「物事をどう豊かに捉えるか」、「人の器をどう磨いていくか」が大切な時代になっていきます。器が大きい人というのは、「自分らしくいられている人」であるということが研究ではっきりしてきています。年齢を重ねると、成熟の一方で、ある種の子どもらしさでもある柔らかさや純粋さが、器の大きさの要素になってくる。「器が大きい人は清廉潔白で、常に動じない」なんてことはありません。動じるし、びっくりするし、恐れる時は恐れる。そのほうが、器としてはむしろ豊かになっていくんです。“在り方”は抽象度が高く曖昧ではありますが、これから学びを深めていくべき領域であることは間違いありません。


“らしさの継承”と”新しい風”をどう融合するか

西田:ジンテックは社員を増やしながら、「らしさの継承」と、「新しい風によるイノベーション」を融合させて、強く幸せな組織にしていこうとしていると伺っています。柳さんはいまの採用フェーズをどのように捉えられていますか。

柳:ご存じの通り採用環境は日を追って厳しくなっていますが、私たちは“ジンテックらしさ”を前面に出した採用活動をしています。企業理念や行動指針はもちろん、つなタイ、非常識経営などを応募者の方に丁寧に説明する。そうすると当社への理解が深まり、最終的に転職先・就職先として選んでくださることが多いんです。ただ、新しい人が「ジンテックらしさを理解し、受け入れること」を目的化してしまうと文化が固定化され、組織が弱くなってしまう。だから、ジンテックらしさへの共感と同時に、これまでにない要素を加えること、入れ替えることをお願いしています。何か変えるとするなら何を変えるか。自分の経験から出てくる提案を聞かせてほしい。規模拡大のためにリソースとしての人員が必要なのは事実ですが、せっかくなら副次的に組織文化も進展させていきたい。そういう採用になればいいなと思っています。

西田:中竹さん、カルチャーを継承しながら変化していくための鍵は何だと思いますか。

中竹:先ほどと同じになりますが、やはり対話が大切です。特に、お客さまや、業務のパートナーの方々との対話は、自分たちを客観視するよいきっかけになります。危険なのは「継承しながら変化する」と言いつつ、いつの間にか「変化すること」を目的にしてしまうこと。「自分たちにとってのより良いカルチャーは何か」が先にあり、「そのために必要な変化を起こしていく」という順番がとても大切です。まずは自分たちの理想を明確にすることですが、理想のカルチャーを語れない会社は多々あります。心理的安全性、エンパワーメント、エンゲージメントとあれこれ取り組みはするけれど、「自分たちが目指すカルチャーは?」と問われた時に、答えを持っていない。だからまず、指標としての理想を言語化すること。そして、そこに近づいているかどうかを見ていくことです


幸福追求を経営に組み込む

西田:「幸福な社会を企業から実現する」という観点で伺います。ジンテックが掲げる「幸福追求」は、社会全体のウェルビーイングを見据え、個人、組織、社会、それぞれの幸福をコ・クリエーションとしてつなぎながら循環させていくものですよね。全社一丸、ワンチームという言葉もとても印象的です。柳さんは経営者として、社員の幸福と社会の幸福を、どのように繋げていきたいとお考えでしょうか。

柳:ジンテックは民間企業として、持続可能な形で利益を計上することが求められます。ですから、結果としての利益はとても大事ではありますが、利益そのものは目的ではありません。社員は自分たちが幸せになるために働いている。その紛れもない事実を前にして、会社は何をすべきなのか。そこに視点を置くべきです。どうせ働くならば、お客さまに満足してもらい、共感してもらい、しっかり利益もあげていく。それによって働く人のウェルビーイングも上がっていく。そういう好循環をつくっていきたい。当社の成長のドライバーは、働く人そのものです。機械なら油を差せば高回転するかもしれませんが、人はそう簡単ではありません。だからこそ、ケアの仕方や向き合い方によって、やりがいもウェルビーイングも変わっていく。その先に、社内と社会、それぞれが好循環する歯車がかみ合い、社会全体が良くなっていく方向がみえてくると思っています。

西田:いまは、実感としては何合目くらいまで来ている感覚でしょうか。

柳:そればかりは分かりませんね(苦笑)。この先どれくらいの高さかも分かりませんが、振り返るとずいぶん大変な道を、それでも一歩ずつ歩んできたなという実感はあります。

西田:中竹さん、幸福を経営に組み込むための視点には、どのようなものがありますか。

中竹:幸福も、経営も、概念として大き過ぎて簡単には組み込めないので、「小さな幸福」に分解していくことです。経営も細分化すれば、日々の業務です。「日々、幸せがあったかどうか」を皆で確認する。その作業に尽きるのではないでしょうか。つなタイでもいいし、業務の中でもいい。一人ひとりが「今日どんな良いことがあったか」をちゃんと拾っていく。つらいことがあってもいいんです。崖っぷちまで行って地獄を見るような経験が、大きな成長につながることもありますから。だからこそ、小さな幸せを見逃さないことが大事なんだと思います。ウェルビーイングやポジティブ心理学の文脈でも、幸福は「あるかどうか」より、「探す力を養うこと」のほうが圧倒的に重要です。

西田:私も毎日自分のいいところ、他人のいいところそれぞれ3つ見つけるようにしています。嬉しかった事や良かった事、を探すということですか。

中竹:そうです。「幸せを見つけられるかどうか」です。「今日、ああいう時間があって、お客さんにこう言われて、うれしかったな」と思える瞬間が大切なのですが、業務が忙し過ぎたり、心に余裕がなかったりすると、本来なら気づけたはずの幸せに気づけなくなります。うれしかったはずなのに「いや、まだ売り上げが足りない」と焦りに持っていかれてしまう。だから、立ち止まって幸せを拾う力、見つける力を養うほうが圧倒的に大事だと思います。

西田:それは自己肯定感と自己効力感にも繋がりますか。

中竹:繋がります。あと、シンプルですが、われわれの幸福度は「感謝される」より「感謝した」ほうが上がります。コンビニでも、相手のためというより、自分のためにお礼を言ったほうがいい。自分が幸せな気持ちになるために、お礼を言ったほうがいいんです。

西田:なるほど。ここから10年後、ジンテックが、そして社会が、どのような幸福の形を実現していることが理想でしょうか。どんな姿になっていたら、うれしく、幸せですか。

柳:ジンテックについては、中竹さんも書かれている通り「勝つことの意味」を考えるマインドを持つことが大事であり、「常勝」、常に勝つことです。言い過ぎかもしれませんが、勝ちにこだわり、常勝マインドを持った組織であってほしい。単なる「勝ち、負け」の結果ではなく「勝つとはどんな事か」、「勝つことのイメージ」をもってほしい。そのために重要なのは、たくましさとしなやかさ、そしてレジリエンスがある組織であること。そうした力が満ちあふれている組織になっていれば、どんな風が吹いてもジンテックらしさを継続していけると思います。10年後、ぜひそういう会社であってほしいですね。社会についても似ています。『未来の年表』という本の中で、「日本は人口減少社会に入っていて、この先、困難も奇怪なことも起きるだろう」と予測されています。そういった激しい環境変化の中でも、幸福を考え、たくましく、しなやかに、そしてレジリエンスを持ち続けることで、その時々対応しながら生きていけるのではないでしょうか。

西田:ありがとうございます。中竹さんはいかがでしょうか。

中竹:正直、10年後については全く予想がつきません。だからこそ、10年後も同じように「そもそも自分たちの幸福とは何か」「社会の幸福とは何か」を議論し続けていることが大事だと思います。「これが幸福だ」という答えが出てしまうと、固定化されて負の方向に行きます。『ウィニングカルチャー』でも書きましたが、勝っている組織は「どう勝つか」を追いかけるのではなく、「勝ちとは何か」を探求し続けます。同じように、幸福についても「今の自分たちの幸福は何か」を問い続けること。もっといえば「そもそも幸福であることは、なぜいいのか」という根本の問いを持ち続けること。そういう問いをやめない社会であり、ジンテックであるといいなと思っています。

西田:常に自分や組織の「らしさ」を原点として振り返ること。定点で捉え直したり、見直していくことが、ぶれない強み、コアになっていくのかもしれませんね。

中竹:そう思います。

西田:長時間にわたり、お時間をいただきましてありがとうございました。

中竹:ありがとうございました。

柳:ありがとうございました。

▼中竹竜二氏との過去対談はこちら

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【対談パートナー】
中竹竜二(なかたけ りゅうじ)

株式会社チームボックス 代表取締役
日本オリンピック委員会(JOC)サービスマネージャー

1973年福岡県生まれ。早稲田大学卒業、レスター大学大学院修了。三菱総合研究所勤務後、2006年に早稲田大学ラグビー蹴球部監督に就任し、自律支援型の指導法で大学選手権二連覇を果たす。 2010年、日本ラグビーフットボール協会 において初めてとなる「コーチのコーチ」、指導者を指導する立場であるコーチングディレクターに就任。2012年より3期にわたりU20日本代表ヘッドコーチを兼務。2019〜21年は理事を務めた。 2014年、企業のリーダー育成トレーニングを行う株式会社チームボックスを設立。2022年、日本オリンピック委員会サービスマネージャーに就任し、全オリンピック競技の指導者育成を主導している。 ほかに一般社団法人スポーツコーチングJapan代表理事、日本車いすラグビー連盟理事など。 著書に『ウィニングカルチャー 勝ちぐせのある人と組織のつくり方』(ダイヤモンド社)、『自分を育てる方法』(ディスカヴァー21)など多数。 【新刊】『「人の器」の磨き方』(日本能率協会マネジメントセンター)が2025年12月24 日発売。 

【ファシリテーター】
西田千尋(にしだ ちひろ)

高知県出身。防衛大学校人文社会学部第42期・女性第3期生として卒業後、航空自衛隊に入隊。24年にわたり総務・人事業務を中心に従事し、隊員・家族の福利厚生制度の設計や航空自衛隊初の託児施設開設に携わった他、入間基地では約80名規模の隊員を率いる業務隊長を務めた。在職中から「ハンサムウーマン」「霞ヶ関女子」など国家公務員・公安職の女性キャリア支援組織を立ち上げ。2017年にこれらを統合し「Woman In Public Section(Wips)」の代表に就任。参加者は延べ1,600名以上を動員。2020年2等空佐で退官後は、縄文アソシエイツ株式会社コンサルタントとしてエグゼクティブサーチと価値ある出会いを提供している。また2024年には合同会社セルフディフェンスパートナーズを設立。自衛隊で培った危機管理・マネジメント経験を活かし、リーダーシップや組織づくりをテーマとした講演や研修も多数行っている。

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