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【変化への対応力を磨く:自衛隊式マネジメントから学び、図上演習で進む】第11回:危機管理 ― 危機は「想定外」ではなく、「想定不足」から生まれる ―

合同会社セルフディフェンスパートナーズ コラム

Jライブラリーをご覧の皆様、こんにちは。SDPの姉崎です。

前回は、自衛隊における「独断」、すなわち思考の独立性と行動への積極性についてお話ししました。

上司や本部と連絡が取れない状況においても、指示を待つのではなく、目的に立ち返り、自ら考え、最善を尽くす。この姿勢は、実は危機管理の根幹をなす考え方でもあります。

今回は、リーダーに求められる「危機管理」について、その本質と、危機管理能力を高めるためのトレーニング手法である「図上演習」をご紹介します。

危機管理に対する誤解

「危機管理」と聞くと、災害対応、不祥事対応、あるいはマニュアル整備を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。

もちろん、それらは危機管理の重要な要素です。しかし、自衛隊における危機管理は、「危機が起きてからどう動くか」だけを指すものではありません。自衛隊では、「危機は必ず起こるもの」という前提に立ち、平時からどのような思考と判断を行うかを重視しています。

危機はなぜ起きるのか

危機が発生した後、「それは想定外だった」という言葉が使われることがあります。しかし、自衛隊では、多くの危機は「想定外」ではなく、「想定不足」から生まれると考えます。

 ・情報が十分でなかった
 ・前例がなかった
 ・経験がなかった

そうした理由で判断や行動が遅れた結果、被害が拡大するケースは少なくありません。だからこそ自衛隊では、すべてを正確に予測しようとするのではなく、不確実な状況下でも判断し、行動できる能力を鍛えます。

危機管理の本質は「判断力」にある

危機管理というと、手順や役割分担に目が向きがちですが、最終的に組織の命運を分けるのは、リーダーと現場の判断力です。刻々と変化する状況の中で、

 ・今、何が最も重要なのか
 ・何を優先し、何を後回しにするのか
 ・どこまでを自分の判断で決めるのか

こうした判断を、限られた情報の中で下さなければなりません。ここで求められるのが、前回ご紹介した「独断」、すなわち思考の独立性と行動への積極性です。

危機管理能力を高める「図上演習」

では、この判断力をどのように鍛えるのでしょうか。

自衛隊で重視されているのが、図上演習(ずじょうえんしゅう)というトレーニングです。図上演習とは、実際の危機事態を想定したシナリオを用い、机上で状況判断と意思決定を繰り返すシミュレーション訓練です。

ここで重要なのは、「正解を当てること」ではありません。

 ・情報が不十分な中で、何を根拠に判断するのか
 ・誰が、どのタイミングで、何を決めるのか
 ・判断が遅れた場合、何が起こるのか

こうした思考と行動のプロセスを可視化することが、図上演習の最大の目的です。

図上演習については第2回図上演習の紹介(ジンテックの事例)(2025/5/28掲載)で詳しく紹介しています。

図上演習がもたらす効果

図上演習を行うことで、次のような効果が得られます。

1つ目は、判断基準の共有です。
組織として「何を最優先するのか」が明確になり、危機時に判断の軸がぶれにくくなります。

2つ目は、役割と責任の明確化です。
誰が判断し、誰が動くのかが整理され、危機発生時の初動をスムーズにすることができます。

3つ目は、指示待ち体質からの脱却です。
参加者は、与えられた情報をもとに自ら考え、発言し、決断することを求められます。

このように、図上演習は危機管理能力を高めるだけでなく、考えて行動できる人材を育てるという点においても、企業の人材強化につながる訓練であることがお分かりいただけると思います。

企業における危機管理への示唆

企業活動においても、システム障害、情報漏えい、品質トラブル、風評被害など、さまざまな危機が起こり得ます。その際、「マニュアルがあるから大丈夫」「上司の判断を待てばよい」と考えていると、初動対応が遅れ、被害が拡大します。危機管理とは、特別な対応を用意することではなく、日常の延長線上で判断し、行動できる状態をつくることなのです。

まとめ

危機管理の目的は、危機を完全に防ぐことではありません。

危機は起こるものだと認識した上で、被害を最小限に抑え、早く立て直す力を組織として持つこと。そのために、平時から思考と判断を鍛えておくことが重要です。

次回は、現代の組織において重要性が高まっている「リーダーシップとメンタルケア」をテーマに、リーダーが自らのメンタルヘルスとどう向き合うべきかを掘り下げていきます。

※本内容の引用・転載を禁止します。

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