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【変化への対応力を磨く:自衛隊式マネジメントから学び、図上演習で進む】第12回(最終回):リーダーシップとメンタルケア ― 強い組織をつくる、リーダー自身の「整え方」 ―

合同会社セルフディフェンスパートナーズ コラム

これまで本連載では、「目的を示す力」「決断する力」「任せる力」「対話する力」など、組織を前に進めるための具体的な技術をお伝えしてきました。しかし、これらの技術を安定して発揮し、不確実な「状況判断」を誤らないためには、一つの不可欠な前提があります。

それは、リーダー自身が「整っている」ことです。

有事においても平時においても、組織の状態はリーダーの内面を映し出す鏡です。最終回となる今回は、持続可能なリーダーシップの土台となる「内面(メンタル)を整える3つの技術」を掘り下げていきます。

1.緊張下で伝播する“見えない影響力”

私自身、自衛隊での勤務時代、不確実性と緊張が続く任務を数多く経験しました。指揮官として、限られた情報の中で「迅速な決心」を下さなければならない場面との対峙です。

ある任務のあと、部下からこう言われたことがあります。「小隊長、あの時、少し焦っておられましたね」。自分では冷静を装い、命令を出していたつもりでしたが、私のわずかな動揺(迷い)は組織の隅々まで伝わっていたのです。

リーダーの状態は、声のトーン、視線、沈黙の長さ、あらゆる角度で本人が思っている以上に伝播し、現場の空気に影響を与えます。リーダーのメンタルコンディションは単なる「個人の問題」ではなく、組織の「実効性」を左右する、ガバナンス上の重要事項なのです。

2.強さとは、「感情を消すこと」ではない

多くのリーダーは、「弱みを見せてはいけない」「常に不動の精神でいなければならない」という呪縛に囚われがちです。しかし、真に強いリーダーとは揺らがない人ではなく、「揺らぎ」を自覚し、時に躊躇なく状態を伝え、扱える人です。

自衛隊では、演習や任務の終了後に必ず「アフター・アクション・レビュー(AAR)」による振り返りを行います。そこでは技術的な成否だけでなく、判断の過程で生じた迷いや葛藤も率直に共有されます。感情を無視するのではなく、言語化して客観視する。これこそが、不測の事態においても折れないレジリエンス(組織の回復力)の基盤になります。

3.リーダーのための「メンタルを整える3つの技術」

組織を健全に保つために、リーダーが日常的に実践すべき「整え方」を詳述します。

① 自分の状態を客観視(セルフ・モニタリング)する

多忙を極める時ほど、リーダーは自分の内面への注意力を失います。(これはリーダーという立場でなくとも皆さん一般的にそうですよね。)自らを客観的に捉えることは、安定した判断を下すための第一歩です。

  • 心身の直結を意識する: 心は身体の状態と密接に関わっています。自衛隊では、極限の緊張下でも冷静な判断力を保つために、呼吸や姿勢を意識的に整える訓練を行います。
  • 自己のクセを知る:自衛隊では、セルフコントロールの手法として、「自己自身を知れ」と学びました。自分の価値観や行動の「クセ」を言葉にするだけで、脳は客観性を取り戻し、視界が広がります。

② 孤立を防ぐ「ピア(仲間)のネットワーク」を持つ

リーダーは、その責任の重さから孤独に陥りやすい存在です。孤独は思考を内向きにさせ、判断を歪めます。

  • 率直な意見具申を促す: 自衛隊では、階級を超えて「意見具申」ができるフォロワーシップの文化を大切にしています。
  • 対話による柔軟な思考のメンテナンス: 社内外に率直に話せる相手(ピア・ネットワーク)を持つことは、単なるケアに留まらず、思考を整理し、客観的な視点を維持するためのメンテナンス技術として機能します。ラインによる「報告・連絡・相談(ホウレンソウ)」だけでなく、「雑談相談(ザッソウ)」ができる相手を作る事がリーダーを孤独から救います。

③ 意図的に「立ち止まる時間」をつくる

「指揮のサイクル(状況判断、意思決定、計画、命令、評価・指導)」を回し続ける中で、あえて一時停止し、状況を再確認する技術です。

  • 「想定不足」を回避する: 危機は「想定外」ではなく「想定不足」から生まれます。焦って前進し続けることはリスクを高めます。
  • 戦略的休止の実施: 任務の途中でも、立ち止まって振り返る時間は後退ではありません。それは、現状が本来の目的から逸れていないかを確認し、意思決定の精度と一貫性を高めるための「安全装置」です。

4.リーダーが整えば、組織が整う

リーダーの焦りが強く、心身ともに健康でなければ、過度に管理的になり、メンバーの主体性は失われかねません。逆にリーダーに余裕があれば、メンバーを信じ、任せ、自律的な成長(フォロワーシップ)を促すことができます。

メンタルケアは福利厚生の一環ではなく、組織のポテンシャルを最大化し、顧客への信頼を維持し続けるための「経営戦略」です。

5.最終回にあたって

これまでリーダーの技術についてお伝えしてきましたが、すべての技術の土台にあるのは、リーダーとしての「在り方」です。

組織を守り、不確実な未来を切り拓くために。まずは、あなた自身が整っていること。 それが、あなたの大切なチームとお客様を守る、最も力強く持続可能なリーダーシップではないでしょうか。

1年間、ご愛読いただき誠にありがとうございました。

※本内容の引用・転載を禁止します。

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