〔変化をチャンスに 〜 変化を捉える視点と思考 〜〕
第71回:斜陽産業?
コラム
<はじめに>
斜陽産業と聞いて何を思い浮かべるだろうか?
◯◯業界とか、□□業界とか、△△業界とか。(あえて伏せ字にしています、笑)
斜陽産業は以下のように説明される。
「かつて成長を遂げたものの、技術革新、市場構造の変化、消費者嗜好の変化などにより、市場規模が継続的に縮小し、将来の回復が見込めない産業」
※うーむ。厳しい、、、(涙)
ある斜陽産業の立て直しを命じられたら、あなたはどうする? 講演で会場に問いを投げかけることがあるのだが、いろいろな答えが返ってきて面白い。
・選択と集中でコスト削減を推進する
・どこかの資本の下に入る
・困る (笑)
斜陽産業の中にいると市場の変化を「危機」と捉えることが多いようだ。だが、本当にそうなのだろうか。
「変化」を「危機」と捉えるか「機会」と捉えるかは考え方次第である。「変化」そのものは「事象」でしかない。それを意味づけるのは人であり、人が「危機」と考えたり、「機会」と考えたりするのだろう 〜 そんなことを深く考えさせてくれる事例があった。
今回は「ラクスル」の事例分析とその考察を通して、変化を捉える視点と思考について考えてみたい。
<ラクスルの創業>
ラクスルの創業はリーマンショックの翌年だった。当時、多くの企業がコスト削減を推進していた。その中でビジネスの可能性に気がついたのが創業者の松本恭攝(まつもと・やすかね)氏。同氏の視点と思考が面白い。
当時、コスト削減の中で削減率がもっとも高かったのが印刷費だったという。リーマンショックの影響も大きかったが、デジタル化・ペーパーレス化の流れもあり、印刷需要は激減した。印刷業界は斜陽産業と言われた。印刷業界は危機に瀕している、と考えられていたのも自然な話だろう。
松本氏は、そんな中で2つの機会に注目した。ひとつは、印刷業界全体の市場規模が急激に縮小する中でネット印刷の需要だけは拡大していたこと。もう一つは、印刷業界が、少数の大企業による寡占状態であり、中小の印刷工場が子請け・孫請けで仕事をする、多重下請け型の古い構造に依存したこと。
松本氏は2009年9月1にラクスルを創業した。しばらくの準備期間を経て、2013年に印刷のシェアリングプラットフォーム「ラクスル」の提供に至った。ビジョンは
「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」
この言葉に表現されている通り、同社の狙いは、既存の仕組みを変えること。印刷業界の構造変革を通して、印刷業界の立て直しの挑戦が始まった。
<ラクスルの概要>
ラクスルは印刷を依頼する人とそれを請け負う印刷工場を直接結ぶ仕組みを提供した。従来の多重下請け構造では印刷価格は高く、小規模印刷工場の利益幅は小さかった。印刷工場の空き状況を可視化・共有し、直接印刷の依頼ができることで、依頼主も、受託企業もWin-Winになる。プラットフォームモデルは、今では当たり前かもしれないが、当時、斜陽産業であった印刷業界で実現したのはなかなかのチャレンジだったろう。

ラクスルが提供する印刷のシェアリングプラットフォームにはいくつかの特徴がある。
1. 印刷業界の余剰資源の可視化・再配置を可能にする
2. デジタルの強みと、レガシーの現場感覚を重視する
3. 下請構造の再定義を通じて、地域経済と中小企業の裏方になる
既存の業界構造を大きく変える(「仕組みを変える」)ことで、斜陽産業と言われた印刷業界の新しいあり方のひとつを提示した(「世界はもっとよくなる」)。
ラクスルはその後も領域を拡大した。運送業界で「ハコベル」、広告業界で「ノバセル」、その他、さまざまな業界にプラットフォームモデルを応用した。上場以降、年間の売上高伸び率は +27%、2025年7月期には売上高約620億円を記録したことも付記しておこう。
<変化を捉える視点と思考>
「変化」を「危機」と捉えるか「機会」と捉えるか。「変化」は事象でしかなく、それに意味付けを行うのは人である。と考えると、我々が「変化」を「機会」と意味づけすることがビジネスチャンスを生み出す鍵になるのではないだろうか。
リーマンショック以降、印刷業界はコスト削減、人員削減が急速に進んだ。コストカットや筋肉質な経営体制への変化が求められた。今のやり方では経営が危ない、と考えるのは変化をリスクと捉える典型的な思考パターンである。
市場変化が業界構造の変革を促す。自らが、変革を推進する側に立つことで、新しいビジネスに挑戦する。それこそが「変化をチャンスに」の思考パターンなのだろう。
<終わりに>
変化をどう捉えるか。変化そのものは「事象」である。そこにどんな「意味」をもたせるかで次のステップは大きく変わってくる。
変化をリスクと捉えてコスト削減に走るか、変化をチャンスと捉えて投資+事業創造に向かうか。ラクスルは後者のわかりやすい事例として多くの気付きと学びを与えてくれる。
社会は急激な変化に直面している。この先、変化の速度は早まることはあっても、緩やかになっていくことはない。今後、さらに様々な変化に直面することを前提にすると、変化をリスクと捉えるのではなく、チャンスと捉えて、さまざまなビジネスチャンスを楽しむほうが(いや、挑戦は大変なのだが、笑)面白いのではないだろうか。
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