何故イノベーションはいつも掛け声でおわるのか?
(第1回)
コラム
はじめまして
こんにちは竹林一(たけばやしはじめ)です!今回から「ジンテック通信」でコラムを担当することになりました。
私は長年、オムロンで新規事業や新会社の立ち上げ、イノベーションの仕組みづくりに携わるとともに、京都大学経営管理大学院の客員教授として「100年続く企業の研究」や「哲学的企業家の研究」に携わり、「実学×理論=実践」活動を推進してきました。現在は、横浜市立大学大学院客員教授、麗澤大学特任教授、企業の社外取締役などを務めています。
ちなみに、私は周囲から「し~さん」と呼ばれています。昔、大阪の会社の受付の女性が、私の名前の「一」という漢字を見て、どうも「伸ばし棒(ー)」と勘違いされたようで「これ、たけばやし~さんですか?」と。「そんなやつおらへんやろ!」と思いましたが、これはオモシロいなと。それ以後、自分でも「し~さん」ですと自己紹介するようになりました。YouTube番組の「竹林一のし~ちゃんねる」もそこから名付けています。どうぞ皆さんも、肩の力を抜いて「し~さんのジンテックコラム」としてお付き合いいただければ幸いです。
初回は、イノベーションの「意味」や、組織や個人が持つべき「軸」について、私なりの視点を深掘りしてお伝えしたいと思います。
イノベーションは「馬車が自動車に代わる」ことだけじゃない
ビジネスの現場で「イノベーション」という言葉を聞かない日はありません。変革の波の中で「何か画期的な仕組みを作らねば」とプレッシャーを感じていらっしゃる方も多いかもしれません。しかし、イノベーションの本質は「ゼロからイチを生む発明」だけではありません。イノベーションの父、シュンペーターは、これを「労働力や資源などを、それまでと異なる仕方で“新結合”すること」と定義しました。
つまり、無から有を生むのではなく、今皆さんが持っている資源や技術、日々大切に積み上げてきた「信頼やネットワーク」といった資産と、外にある多くのヒントを掛け合わせて「新しい価値」を生み出すこと。難しい技術論や天才しか出来ない発明ではなく、日々の仕事の延長線上にある発見から生まれてくるものだと考えています。
よくあるのが、「イノベーションやろうと思ってハレーション」。威勢よく新しいことをぶち上げて、周囲と摩擦が起きてしまう。また「イノベーション席に戻ってオペレーション」。キックオフ等ではイノベーションと叫びながらも、席に戻ると通常業務に埋没している……なんて笑い話のような状況、身に覚えはありませんか?だからこそ、単なる思いつきではない「軸」が重要になってきます。
京都の老舗に学ぶ「ぶれない縦糸」
私は京都大学で、100年以上続く企業の強さを研究してきました。京都には何百年も続く老舗が当たり前のように存在しますが、彼らは決して「古いまま」ではありません。常にイノベーションを起こし続けているからこそ、脈々と事業が継続しているのです。
ある西陣織の会社の社長さんが、こんな素晴らしい言葉を教えてくれました。「ぶれない縦糸があるから、時代と共に変化する横糸が入れられる」
ここで言う「縦糸」とは、その会社の理念、使命、存在理由(パーパス)のことです。強い「縦糸」さえあれば、時代に合わせて「横糸(ビジネスモデルやデジタルツール等)」を入れやすく、ぶれずに進化していけるのです。
現場を歩き回って見えてきた「街への入り口」
私がオムロンで鉄道カードシステムを手掛けていた時、常に意識していたのが「視座の転換」です。1枚のカードで色々な電鉄に乗れる仕組みを作った後、「次は何をしようか」と、来る日も来る日も駅の現場を歩き回りました。改札を通る人の流れ、待ち合わせをする人の表情……現場の空気を肌で感じながら考え抜いた末、ふと視点が変わった瞬間がありました。駅は単なる『電車への乗り降り口』ではなく、『街への入り口』ではないかと。
この現場感覚から生まれた問いが、アイデアを爆発的に広げました。『駅が街の入り口』であれば、「改札を通過した瞬間に、その先にあるお店のクーポンが届く」とか「お子さんが駅を通過したら、お母さんにメールが届く『安心・安全』のサービス」など…… これらはすべて、「駅=街への入り口」という新しい世界観を現場で見出したからこそ生まれたものです。
大切なのは、単発のアイデアではありません。「どんな世界を一緒に作りたいか」という“世界観(軸)”を共有することです。リーダーにとって、一発逆転のアイデアより、ワクワクする世界観を現場と一緒に描けることの方が、よほど強力な推進力になります。
否定しない「バリューアップ」の文化を
新しいことを始めようとすると、組織の中では必ず「それ、いくら儲かるの?」「リスクは?」というブレーキがかかります。もちろんビジネスですから数字は大事ですが、芽が出る前に「評価」だけで潰してしまっては、イノベーションは起こりません。
私がオムロンで取り組んだのは、「バリューアップ会議」という仕組みづくりでした。 上がってきたアイデアの抜け漏れを指摘するのではなく、「どうすればその価値がさらに上がるのか」みんなで知恵を絞って考える応援の場です。
「それはどんな社会的な課題を解決するのか?」「誰が喜んでくれるのか?」 この問いに対して、全員がワクワクしながら知恵を出し合う。この「心理的安全性」と「志(こころざし)」の共有こそが、変化の激しい時代に生き残る組織の条件だと私は考えています。
おわりに
イノベーションは、遠くにあるものではなく、皆さんの「こうありたい」という想いから始まります。「ハレーション」を恐れず、かといって「オペレーション」にも埋没しない。自分たちの「縦糸」を信じて、新しい「横糸」を楽しみながら織りなしていく。そんなワクワクするプロセスを、これからコラムを通じて皆さんと一緒に考えていければ嬉しいです。
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