〔変化をチャンスに 〜 変化を捉える視点と思考 〜〕
第73回:未来志向
コラム
<はじめに>
次の問いに、あなたなら何と答えるだろうか。
十年後、何をしていますか?
十年後の自分を思い浮かべてみる。仕事でいうと、課長なら10年後は部長に、部長なら10年後は役員に、など。プライベートであれば、趣味の囲碁が2段になってるとか、ガーデニングの広さが倍になっているとか。なるほど、そういうものかもしれない。
一方で別の考え方もある。10年もあれば社会は大きく変わる。社会がどう変わるか、あるいは、社会をどう変えたいか、を前提に、そこで自分が何をしているかを考えてみるのも面白い。例えば、自動運転の普及を前提に免許返納したシニア向けの送迎サービスを立ち上げている、とか。あるいは、AI浸透後に「人間らしさ」を考える社会に向けて、子どもたちに人間性の重要性を語っている、とか。
これは、将来を考えるときの「思考法」の話だ。冒頭の問いは、唯一の答えを期待する質問ではなく、いろいろな考え方があっても (もちろん) 構わない。でも、その回答には、その人が将来を考えるときの「思考法」が見え隠れする。
今の延長線上に将来の姿を思い浮かべる人は連続的な未来を描くタイプ。フォーキャスト (forecast) 型に近い。一方、社会の変化を前提にする人は、変革を前提に将来像を考えるタイプ。バックキャスト (backcast) 型の思考法に近い。正解・不正解ではないが、自分の思考のクセを知っておくのは大事なことかもしれない。
本連載で紹介してきた事例はバックキャスト型の視点と思考が重要な役割を果たしたケースが多い。直近でいうと、第71回のラクスル、第72回のHarvey AIなどは、いずれも、社会がどう変わるか、あるいは、社会をどう変えたいか、を前提に、そのために自分たちが何をするかを考えた結果だと言える。
今回は、イノベーティブな将来像を考えるための「未来志向」のフレームワークについて紹介してみよう。
<未来志向>
「未来志向」は将来を思い描くための思考法である。中川 (著者) が講演や企業向けのワークショップで提唱している思考フレームワークで、変化の時代に未来を思い描く、あるいは将来に向けた事業創造を行うための視点の持ち方や考え方をまとめたものだ。
同フレームワークは3ステップから構成される。以下、順番に見ていこう。
<変化を捉える>
世の中の変化をどう捉えるか。変化の捉え方ひとつで、次のステップがまったく変わってくる。変化を捉える視点や思考が、未来を思い描くための第一歩であることは間違いない。
ラクスルの事例 (第71回) を振り返ってみよう。斜陽産業と言われた印刷業界で、ネット印刷と歴史的な構造に変革の可能性を感じた。変化をリスクと捉えるのではなく、そこに可能性を見出す。その視点と思考が秀逸だった。
変化そのものは事象である。視点ひとつで、その事象がリスクにもなれば、チャンスにもなる。変化をどう捉えるか。変化の捉え方に知性が現れる。視点を変えれば捉え方は変わる。感性・感受性に裏付けられた知覚力がものをいう。
<未来を描く>
変化の先にどんな世界を思い描くか。これから先、社会がどう変わるか。あるいは、社会をどう変えたいか。それが、世界観やビジョンに相当する。
日本人は課題思考が得意らしい。課題思考では、今、何に困っているか、に着目する。必然的に視点は自分の周辺を、時間軸は現在を起点にする。これはフォーキャスト (forecase) 型の発想に近い。
一方、未来志向では「社会がこれから先どう変わるか」を考える。視点は社会、時間軸は未来である。未来志向は明確にバックキャスト (backcast) を志向する。
Harvey AIの事例 (第72回) では、創業者が「AIが人を “Empower’’ する」と直感し、法律家が活躍できる世界観を描いて創業した。
社会がどう変わるかを洞察し、その先に何が起こるか or 何を起こしたいかを妄想する。洞察力と妄想力が重要になる。
<仕組みを創る>
その世界観をどうやって実現するか。デジタルの普及で、さらにはAIの進歩・浸透でさまざまな仕組みが実現可能になった。
ラクスル (第71回) はプラットフォームモデルを選んだ。印刷業務の発注者と小中の印刷工場をネットで結び、印刷工場の空き状況をシェアし、オンラインで直接発注できる仕組みを実現した。結果的に、大企業の寡占による多重下請け構造から脱却し、新しい業界構造を作り上げた。
他にも、本連載で紹介した事例は仕組みが秀逸なものばかりだ。ビジネスモデルにも直結する話なので、興味のあるところだろう。デジタルビジネスの特徴でもあり真骨頂ともいえるところなだけに、いろいろな事例が参考になる。
「仕組みを創る」に関連して大事なことを特記しておこう。つながりの時代にはステークホルダー視点が重要になる。ステークホルダーのそれぞれにどのような価値を提供するのか、また、期待される機能と役割は何か。エコシステムをつくりあげていく視点が鍵を握る。ここは、エコシステム視点・社会視点での構想力や戦略を組み上げる力を意識したい。
<変化を捉える視点と思考>
「変化をチャンスに」シリーズでは、様々な事例を参照しながら、変化を捉える視点と思考について考察してきた。
直面する変化をどう捉えるか。変化は事象であり、それに意味付けをするのはあなた自身である。変化をリスクと捉えるか、あるいはチャンスと捉えるか。変化をチャンスと捉え、その先に新しい世界観を描き、仕組み化するまでの視点と思考をステップに分解したものが「未来志向」のフレームワークだ。
将来に向けた事業検討はもちろん、この変化の時代に個人がどう取り組んでいくかを考えるうえでもヒントになるところがあれば幸いである。
<終わりに>
今は「変化の時代」である。世の中は急激に変化 していくし、そのスピードがさらに早まっていくことも間違いない。未来志向は「変化をチャンスに」変えるための思考法である。この視点と思考を身につければ、身の回りに起こっている変化の一つひとつがすべてビジネスチャンスになるかもしれない。ぜひ、ワクワク感をもって変化を楽しんでみたいものである (笑)。
本連載は一旦ここでお休みをいただく。これまで73回に渡ってこの機会をいただいたことに感謝し、また、再会の日があることを祈って筆を置きたい。
※本内容の引用・転載を禁止します。
